七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 144話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 144話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」144話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 144話

 社交界デビューの日。
 朝起きてからの私は大忙しだった。とはいっても、侍女になされるがままなので私は侍女たちの言う通りに動くだけである。昨日寝る前にお風呂に入っているのに、また朝から風呂で磨かれ、小顔になるとか肌がすべすべになるとか言われながらマッサージされる。全身ツルピカになると、今度はドレスの仕立てを頼んだアンがやってきて着せ替えが始まり最終チェック。食事は絶対にドレスを汚すな! と言われながら侍女に食べさせられ、緊張しながら食べるので味も分からない。髪や化粧が整えられていき、夕方直前に仕上がった時には、すっかり私は疲れてしまっていた。しかし本番はこれからである。

 私の部屋の衝立の向こうでは、レックス商会の会頭、そしてアンの上司でもあるジュードが何か異常があった時のために控えていた。

「ジュードさま、お嬢様の準備が整いました」

 侍女の声の後、衝立の裏側から出てジュードにドレス姿を披露した。

 社交界デビューをする令嬢のドレスは白かクリーム色だと決まっている。白を基調にしてれば、多少ワンポイント的に他の色も使っていいとはなっている。あとはデザインでどれだけ自分を綺麗に見せるかが令嬢たちが考えることだ。

 今回のドレスはアンやママと相談し、全身白はもちろんのこと、デザインなんかも少し凝ったものにした。スカートの長さであるが、前が膝下で短くし、後ろになるにつれて長くなるものにした。前世でいうなら、フィッシュテールスカートのようなものである。これは現代では足を見せすぎるのはよくないという風習があるので、あまり見かけないデザインなのだが、一番短いところでも膝下なので大丈夫だろう。胸の部分から腰の上までは変わったデザインの刺繍が埋め尽くされ上品になり、胸の上から肩あたりまではシースルーにして胸元を見え過ぎないようにした。そして髪は緩く、けれど決して崩れないように編み込み、ビジューや本物に見える花をあしらっている。私の全身では髪の毛の造花が唯一のピンク色で色の入っている部分である。二の腕まである白い刺繍の手袋もドレスとお揃いである。イヤリングやネックレスなどのアクセサリーも白のパールとダイヤで控えめにした。

 そして今日のメインはなんといっても靴であった。ジュードに開発してもらっていたハイヒールを、私の社交界デビューで初めて表舞台で発表するのである。

 私を見たジュードは、一分ほど驚愕の表情をしたまま何も口にしなかった。そして立ち上がると、私の手に口づけを落とした。

「俺のミリィ。すごく綺麗だ」

 兄たちに、そう言ってもらえるのが一番うれしい。微笑んで感謝を伝える。

「ありがとうジュード」
「……なんだか、ミリィが今日結婚でもするような気がしてきた」
「やだ! ジュード泣かないで!?」

 確かに純白のドレスはお嫁さんのイメージである。

「結婚はまだ先よ。相手もいないのに。ジュードだって素敵な恰好していてかっこいいわ! ミリィと並ぶととてもお似合いだと思うでしょう。ほら、ハンカチ。涙をふいてね」
「ありがとう。感慨深く思えてね。一瞬でミリィが赤ちゃんの時からの出来事が頭の中に流れて行ったよ」
「ジュードにはまだまだこれからのミリィも見てもらいたいのよ。今日だって、ジュードと踊るの楽しみなんだから」

 トントンと部屋の扉を叩く音と共に、ママが顔を出した。

「ミリディアナちゃん、準備はどうかしら? あら! 可愛いわ! そのドレス、ミリディアナちゃんにとても似合ってるわ!」
「ありがとう、ママ」
「少しくるっと回ってみてくださらない?」

 ジュードの手に私の手をのせ、ジュードと一緒にくるりと回る。

「本当に素敵! とっても可愛い! うちの娘が一番だわー」
「ママも素敵よ! そのドレス、やっぱりママなら着こなせると思った!」

 ママのドレスもこの日に合わせて一緒に新調したのだ。私のドレスとは形は違うのだが、スカート長さは前を短く後ろを長く、という一部分だけお揃いにした。ママのは大人の雰囲気を出すためにスカートのふんわり感は出さず、また濃い目の紺を基調としており、黒のレースで締めた大人の色気が漂う素敵なドレスである。また色は違うがハイヒールもお揃いにしており、親子で広告塔となるのである。

「ありがとう。わたくしも気に入ったわ。アンに今度別のデザインも頼みたいわね。さあ、みんながミリディアナちゃんを心待ちにしていてよ。見せにいきましょう」
「うん!」

 転ばないようにジュードに支えてもらいながら、みんなの集まる談話室へ行く。
 談話室では、パパと兄たちがすでに準備万端で集まっていた。ドレス姿を披露すると、みんなが口々に褒めてくれるので、気分も上々である。兄たちは兄たちで普段とは違う礼装に身を包み、前世なら有名人のイケメングループとも勘違いしそうな豪華な顔ぶれである。

 それから全員で皇宮の宮廷舞踏会のある宮殿へ向かった。
 パパとママの乗る馬車に一緒に乗りこんだ。今日のスケジュールとしては、皇帝夫妻の謁見、そしてファーストダンス、それからパートナーを変えてのダンスが三回。ここまで終われば、あとは自由である。私の手には、社交界デビューをする令嬢が持つことを必須とされている白いバラの花束がある。これは謁見が終わるまでは持っておかなければならないのである。

 宮殿に到着すると、まずはパパとママと謁見へ向かう。

「ミリィ、またあとでね」

 今日の私の同伴であるアルトが手をふって他の兄たちも一緒に去っていく。兄たちの出番は謁見の後、ダンスの時である。

 謁見の会場が近くなると、パパが私の手を握った。

「謁見の間の横で見ているからね。いつもどおり、落ち着いてやれば大丈夫だ」
「うん、パパ」

 パパは私の指にキスをすると去っていった。
 ママは付添人なので、謁見中も後ろで控えている役なのである。私と同じように本日社交界デビューを迎える令嬢たちが、緊張の面持ちで並んでいる。みなママや親せきなどの付添人と軽く談笑して順番を待つのだ。

「ミリディアナちゃん、緊張していますか?」
「少しね。ママ、手を握ってくれる?」
「いいですよ。大丈夫、たくさん練習してきたのですもの」

 そう、謁見の練習もしてきた。失敗したくないものね! 皇帝陛下夫妻だけでなく、謁見の間にはパパのように娘の謁見を見守る人や、今年デビューする人の顔を見に来る人など大勢が見ているのである。
 謁見でやることは、デビューする令嬢が皇帝陛下夫妻に数秒間のお辞儀をして終わりである。これだけでも一日にデビューする令嬢は多いので、すごく長い時間がかかる。

 私の前の令嬢が呼ばれ、次は私の番だ。ギリギリまで手を握ってくれるママの手をぎゅっとする。

「ミリディアナ・ルカルエム・ル・ダルディエ令嬢、並びにダルディエ公爵夫人」

 名前が読み上げられ、ママの手を離すと、私とママは前へ足を進めた。大勢が見ている中、一瞬だけパパと目が合う。その視線は大丈夫だと語っていた。
 皇帝陛下と皇妃陛下が椅子に座り、皇太子であるカイルが皇帝陛下の横に立っていた。そしてカイルから少し離れたところにエメルが控えている。カイルとエメルとは視線だけ交わす。

 皇帝陛下の前に私が立ち、そしてママは私の少し後ろで控えている。
 皇帝陛下にゆっくりと丁寧にお辞儀をする。そして次は皇妃陛下の前へ移動し、ゆっくりと丁寧にお辞儀をする。そして体を元に戻した。よし終わり。にはならなかった。

「ミリディアナと初めて会ったことを覚えていますよ。小さなあなたがこんなに立派な令嬢となって、わたくしも本当に嬉しく思います」

 皇妃陛下が微笑みながら話しかけてきた。会話しないんじゃなかったんかい。緊張で笑えているのか自分には分からないが、なんとか微笑みを作った。

「有難きお言葉、光栄に存じます」
「今日は素敵な靴を履いているのね。今度見せてくれるのでしょう?」
「はい、お伺いさせていただきます」

 さすが新しい物好きのティアママ。私とママのハイヒールを目ざとく見止めたのだ。でもここでなくても! みんな見てるから!

 それで謁見は本当に終わり、またゆっくりとお辞儀をするとママと共に謁見室を出る。ちらっとママを見ると、笑みが帰ってきた。それは変ではなかったよっていう笑みですよね!? ティアママが予想外に話しかけてきたことで、動揺しすぎて何が何だかもう覚えていない。大した話はしていないはずだけれど。

 廊下を歩きながら、もうママと話したいと思っていると、向こうからパパがやってきた。パパに抱き着くと、周りに人がいるので小さな声で声を出す。

「パパ! 上手くやれてた? おかしなところはなかった?」
「上手だったよ。よくやった」
「そうよう、ミリディアナちゃん。とってもよかったわ」

 パパの胸を離すと、両親から笑みが返ってくる。よかった、本当に大丈夫だったのだろう。ほっとする。

 それから皇帝陛下夫妻の謁見がまだ続くので、私と両親は兄たちの元へ向かった。兄たちと合流すると、両親は知り合いとの挨拶や話があるため去っていく。

「どうだった?」
「パパもママもよくやったって言ってたから、大丈夫だと思うの」

 それからティアママに話しかけられたことを兄たちに言うと、お辞儀だけで終わらない令嬢はときどきいるらしい。今日も兄たちの拾った情報では、皇帝陛下もしくは皇妃陛下に話しかけられたのは私で今のところ三人目だそうだ。父君には世話になった、おばあ様は息災かなど、たいていは他愛もないことらしいが、話しかけられた側からすると動揺するので止めてくれと思う。

 私たちがいるのは、デビューした令嬢がこの後にダンスを踊る会場である。私以外にもそこかしこに初々しい令嬢たちがいた。広い会場で、二階からも一階のダンスフロアを見学できるし、少し離れたところでは後に皇帝夫妻が座るであろう場所も用意されていた。

 今はジュード、シオン、アルト、バルトが私の周りにいた。少し落ち着いて周りを見渡せば、ちらちらとこちらを窺う令嬢がたくさんいる。そういえば、うちにはまだ婚約者のいないイケメンな兄たちがいるのだった。エメルは今日はカイルの側にずっといると言っていたし、ディアルドはユフィーナと二階から見ていると言っていた。

「みんなお兄さまたちを見てるわね」
「うん?」
「お兄さまたち、この会場で一番かっこいいものね」
「ああ、それはそうだね。令嬢たちがこの美貌に釘付けになるのも無理はない」

 アルトの自信たっぷりなセリフがすがすがしい。

「でもなあ。令嬢以外の余計な目がこっちを見てるんだよね」
「そうそう。自分の同伴の子だけ見てればいいのに」
「うちの子が可愛すぎるからね」

 アルトとバルトとジュードが周りを笑ってみながら会話している。笑っているよね? 笑っているはずなのになぜか怖い。

「誰がこっちを見ているの?」
「ミリィ、お前は俺を見ていればいい」

 シオンがいきなり前にきて、私の顎を持ち上げた。なんだ、急に。しかし、ふとシオンの顔をじーと見ていると、改めて思うことがある。

「……シオンはパパに似てかっこいいね。もしミリィが結婚しなかったら貰ってくれる?」
「ミリィ、父上と結婚できないからって、兄とも結婚できないからね!?」
「ジュード、冗談よ。結婚できなかったら、ジュードが一生面倒みてくれるんだよね」
「そうそう。俺に任せて!」

 いつもの兄たちとのじゃれ合いである。そんな冗談を言っているうちに、もうそろそろダンスの時間となる。だんだんと緊張してきた。デビューの令嬢たちは主役である。だからみんなの視線が集まるのだ。

「面白いくらい震えてるね」

 今日の最初のダンスを踊るアルトが私の手を取り言った。私の手がぷるぷるしている。

「だ、だってもうすぐかと思うと……失敗しないようにしなくちゃ」
「ミリィ。俺を見て」

 アルトが私を見て言った。

「ミリィと踊るのは俺だよ。練習したし、いつも楽しかったよね。今日も楽しめばいいんだ。周りを見る必要はない。俺だけを見て。俺に任せて。一緒に楽しもう」
「……うん!」
「その調子」

 それから皇帝夫妻が会場に入り、皇帝陛下のお言葉がある。それからすぐに曲が流れ出すと、私とアルトは前へ出る。そしてアルトを向き、アルトが私の腰に手をやり、そして片方の手を合わせた。

 曲に合わせて私たちは踊り出す。ステップは何度も練習した。だから完全に覚えている。前を見ると、アルトが片目をウインクする。キザったらしいのに、やたらかっこいいアルトに笑みを返す。ああ、楽しくなってきた。あんなに緊張したのが嘘のようだ。アルトの誘導に合わせ、くるくると回る。そしてまたステップ。流れるように動き、すごく楽しくなった時に曲が終わりを告げる。ああ、もうアルトとのダンスは終わりだ。寂しい、そう思っていると、アルトが端へ誘導したところにシオンが立っていた。アルトが私の手にキスをし、その手をそのままシオンへ渡す。

 次の曲が始まる。シオンが私の手を取り踊り出す。シオンも踊りが上手い。こういう場が嫌いなシオンは、普段から踊ったりはしないし踊りが好きではないはずだが、私のために嫌いなものを飲み込んで一緒に踊ってくれるのが本当にうれしい。くるくると回る。楽しい。本当に楽しい。楽しい時間はあっという間で、曲が終わった時には目の前にジュードがいた。シオンが私の手にキスをして、その手をジュードへ渡す。

 次の曲が始まる。ジュードが私の手を取り踊り出す。ジュードも踊りが上手くて、たくさん練習に付き合ってくれた。ジュードは意外と高度なダンスも得意で、練習では途中から私を抱えて踊り出すから笑ってしまった。今日はそういった高度なことはしないけれど、とにかく一緒に踊れることが嬉しくて楽しいのだ。ああ、もうジュードとの時間も終わりである。曲が終わると同時にバルトが目の前にいた。ジュードが私の手にキスを落とし、その手をバルトに渡そうとした時、横から手が伸びてきた。私の手を握ったのはカイルだった。

(あれ? バルトのはずだよね?)

 困惑してバルトを見ると、バルトはお手上げと言いたげに両手を軽く上げた。カイルが私を誘導し、最後の曲が始まると同時に踊り出した。

「カイルお兄さま」

 踊りながら小さな声で言う。

「最後の曲に間に合いそうだったからね。バルトには申し訳ないが、ミリィと踊りたかったんだ、許してくれる?」
「……許すも何も、カイルお兄さまもミリィのお兄さまだもの。一緒に踊ってくれて嬉しいわ」
「ありがとう」

 少し困惑したものの、もう踊り出しているので止まれない。アルトの言うように、楽しむのだ。カイルも踊りが上手だ。私を巧みに誘導する。人がたくさん見ているにもかかわらず、いつも無表情のカイルの口角がわずかに上がっている。私と踊って楽しいと思ってくれているのだろう。

「いつも可愛いミリィだけど、今日は特に美しいよ。謁見の時には、どこの女神が舞い降りたのかと思ったくらいだ」
「ふふ、ありがとう。カイルお兄さまもとても素敵よ。いつも素敵だけれどね」

 踊りながら、こそこそと話す余裕さえある。ああ、すごく楽しい。これでもう終わりなんて。曲が終わると、私とカイルは一礼した。そしてカイルが私の手を取ると、兄たちの元へ歩き出す。

「次は俺の番だったんですけどね」
「許せ」

 バルトの少しあきれたような声にカイルはしれっと返す。そして私の手にキスを落とすと、その手をバルトへ渡した。

「もう行かなくては。ミリィ楽しかったよ」
「ミリィもよ」

 いつの間にか近くに立っていたエメルと共にカイルは去っていった。
 本当に楽しかった。兄たちとダンスを踊ることがこんなにも楽しいものだとは知らなかった。この日はこれ以上ダンスを踊ることはなく、その後会場に残るという双子を置いて、ジュードとシオンと帰宅した。

 帰宅して、お風呂に入って寝る準備をしてから、今日の添い寝担当のジュードの部屋へ行く。

「ジュード、もうねむねむなの……」

 部屋に入ったと同時にジュードに抱き着く。やはりダンスで疲れたのだろうか、ただ気持ちのいい疲れ具合であった。ジュードは私を抱えると、ベッドへと歩いていく。

「俺のミリィは今日一人前の令嬢になったのに、やっぱり可愛いな。これからもずっと甘えてくれると嬉しいのだけど」

 私をベッドに降ろすと、ジュードもベッドに入った。

「ミリィはずっとジュードが大好……」

 私の記憶はそこで停止し、夢の中へ誘われる。
 近くでジュードが微笑む気配がしたような気がした。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。