七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 142話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 142話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」142話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 142話

 教養とマナーの講義を終え、教室を出たところで見知らぬ六年生の男子に話しかけられた。

「ダルディエ公爵令嬢、不躾な真似をお許しください。よろしければ、この私にお時間をいただけないでしょうか」

 胸に手をやり、丁寧にお辞儀する様は紳士的ではあるが、私はため息を付きたい気持ちで彼を見ていた。最近紹介者も通さず待ち伏せして、急に話しかけられることが多い。確かにテイラー学園は社交界のこういったルールは緩い。人脈を広げるため、気軽に応じる人もいる。六年生のテイラー学園への残留期間が残り少ないため、このように半ば強引に話しかけようとする気持ちは分からなくもない。私がダルディエ公爵家の令嬢である以上、私と仲良くなるなりしてダルディエ家と繋がりを持ちたいと思う者が少なからずいるだろう、とうことは覚悟している。それでも最近こういった輩が多すぎて辟易しているのも事実であった。またこの彼は整った顔をしている。自分の容姿に自負があるのか、まさか断られるだろうと万が一にも思っていなさそうな自信を感じた。

(残念ながら、私の好みじゃないのよね)

 多少なりとも好みなのなら、少しくらい話を聞いてもよいという気持ちにもなったかもしれないが、一切心は揺らぎはしなかった。

「本当に不躾ですね。失礼ですよ。あいにくお嬢様は応じません」

 カナンが答えるのを確認すると、私は一言も発さずに横を通り過ぎようとした。しかし彼は私の前に通せんぼするように片手を出すと、上目遣いで私に言った。当然そこには護衛のアナンが間に入ったのだが、アナンを完全に無視しているようである。

「始めて令嬢を拝見した時から、令嬢のことばかり考えてしまうのです。短いひと時でよいのです。どうか愚かな私に令嬢とお話しする機会をいただけませんか」

 はい、でた。あなたに興味があります作戦。みんなこれ使うんだよね。好きですとも言っていないのに、それを匂わせるような発言すれば、やだ、この人私に興味あるの? きゃー! となると思うのか? んな常套句で落ちるわけなかろう。

 ああ、面倒である。いつもなら、あまりにしつこいとルーカスが助けに入ってくれるのだが、現在男女別れての講義の後なので、ここにはルーカスはいない。どうしよう、と思っている時に、ふと斜め前にいるアナンが私の後ろを見た。なんだ? と思っていると、にゅっと腕が伸び、後ろから私を抱くように腰を引き寄せ、左手を握られた。そして頭に顎をのせてきた。

「あーあー、しつこい男はイライラするなあ。いい加減あきらめろよ。分かっていると思うけど、俺を怒らす前に去ったほうが良いよ。忠告は一度だけ。俺は容赦しないからね」
「レオ」

 レオはアカリエル公爵家の次男である。しつこい男はびくっとして顔をひきつらせ去っていった。

「レオ、ありがとう」
「どういたしまして」

 レオは笑って握っていた左手にキスを落とす。女性の扱いに慣れているような動作に、これが私でなかったら落ちている女の子もいるだろうと苦笑する。昔からレオは女性には優しいが少しやんちゃで、女の子と軽めに接することに長けている。アカリエル公爵夫人に似ていて可愛い容姿だが、この容姿に騙されると痛い目に合うのだ。さっき逃げた彼は、レオの本性を少なからず知っているのだろう。逃げて正解である。

「それよりアナン。ああいうのは床に沈めていいんだぞ」
「やめてよ、レオ。あとから面倒なことになるでしょう」
「だって何のためにいるんだよ。うちのオーロラもああいうのに絡まれるかと思うとイラっとする」
「た、確かにそれは心配ね。それより、アカリエル領から戻ってきていたのね。ノアも戻っているの?」
「いや、俺だけ先に戻ったんだ。オーロラ不足で辛くて。ただ領も落ち着いてきたから、ノアももうすぐ戻ってくるよ」

 よしよし、シスコンは健在のようである。
 オーロラはアカリエル公爵夫人とほとんど帝都で暮らしている。アカリエル領と帝都を行ったり来たりするのは、アカリエル公爵とその息子たちだけである。
 レオは私の拘束をとき、正面から頭を撫でだした。おかしい、私の方が一つ年上のはずだが。

「それよりさ、ミリィがテイラー学園にいるの不思議な感じがするね。制服似合ってて可愛い」
「ありがとう。でもミリィの方が年上なのよ? なでなでしないで」
「ああ、ごめんごめん。シオンさんのをよく見ているからか、ミリィも俺の妹のような気がして」
「レオには可愛いオーロラがいるでしょう。そこはせめてレオはミリィの弟ではないの?」
「ミリィが姉なんて、ありえない」
「どうして?」
「ミリィは頼りないもん」

 むっとする。レオまでこの評価はひどくないか。

「あは! 怒った? 怒った顔も可愛いよ」

 からかわれている。

「それよりさ、ミリィ何か変な顔していない?」
「ひどい」
「いや、怒った顔の話じゃないよ。さっきから思ってたんだけどさ」

 レオは私の顎の下に指を入れて上向かせた。

「いつもと違うんだよね表情が。いつものニコニコ顔はどうしたの?」
「え、無表情の話? 無表情が変?」
「どういうこと? 無表情を意識しているの?」

 私はあたりを見回した。うん、こっちを見ている人が多い。ここは駄目だ。

「ちょっと来て」

 レオを引っ張ると、比較的人の少ないところへ移動する。

「耳貸して?」
「なに?」

 レオが少し屈んでくれたため、レオの耳に手をやると顔を近づけて小さい声で話した。

「学園内に笑顔を奪う天恵がいるらしいの。レオ聞いてないの?」

 天恵の一族と言われるレオが知らないはずはないのだ。レオは顔を上げた。

「うん?」
「アルトとバルトが言っていたの。だから奪われないために無表情でいなさいって」

 レオがアナンとカナンの顔を見ると、二人は頷いている。

「……ああ、思い出した。その話聞いた。領に帰ってそれどころじゃなかったから忘れてた。それで無表情でいるんだね」
「そうなの。でも最近慣れてきてね、あまり苦じゃなくなってきたの。学園にいる間だけだしね」
「うん、それはいいね。笑顔で落ちる奴を減らせるわけだね。うちのオーロラの時も使おう」
「え?」
「いいや。それより、オーロラから伝言があるんだった」

 最後、何か企み顔だったレオが気になるものの、レオの伝言という言葉に思考が霧散した。

「何かしら」

 レオは私の腕に腕を絡ませて、首を傾げた。

「『ミリィお姉さまに会いたいの! オーロラのわがままを聞いてくれる?』だってさ」

 オーロラの口調と裏声で言うレオに苦笑する。

「……レオが可愛いのだけれども。またオーロラの真似して。オーロラが怒るわよ」
「だって怒った顔見たいんだ。オーロラのぷんぷん顔、たまんないよ?」

 ときどき思う。レオの妹への愛は歪んでいる。

「オーロラにもう少し待ってって伝えてくれる? 宮廷舞踏会までは色々と忙しくて」
「ああ、社交界デビューだね。分かった、伝えておくよ。同伴は決まったの?」
「うん! 同伴はアルトなの! その後はお兄さまたちが交代でダンスしてくれるんですって」
「あはは! 無表情くずれちゃってるよ、満面の笑み。ミリィが兄上たちが大好きなのは伝わったけどさ、表情戻して戻して」

 はっとして無表情に戻してから、周りをキョロキョロとする。

「大丈夫、ほとんど見られてないから。んーミリィの笑顔みたら、オーロラに会いたくなっちゃった。俺もう帰るね」
「え? うん」

 まだ午前中ですけど。
 手を振るレオに手を振り返しながら、レオのシスコンの仕上がりに少し満足に思うのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。