七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 141話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 141話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」141話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 141話

 テイラー学園の五年生の教室。今日は入学してから一年休んでの初日ということで、先生が私とアナンとカナンを教室の前で紹介していた。クラス中の視線が私に集中している。

(ああ、ヤバイ。倒れそう)

 ぐわんぐわんと頭の中に音が響いている。震えそうな手を隠すように、バッグを持つ手に力を入れた。

「ミリディアナさん、大丈夫ですか? 顔色が良くありませんが」

 急に先生が私を心配そうに覗き込んだ。生徒たちも困惑の表情でこちらを見ている。

「だ、大丈夫です。ちょっと眩暈と吐き気と震えがあるだけです」
「大丈夫ではなさそうですね!?」

 体調が悪い事など、今は置いておかなくては。この部屋に入って一番に確認しなければならないことがあるのだ。

 ウィタノスがこの部屋にいるのか、いないのか。
 教室中をぐるりと見渡す。一人ひとりの顔を見る。あ、ルーカスがいる。いやいや、それどころではない。次々と顔を確認する。

 ふらっと体が傾く。

「お嬢様!」

 カナンが私を支える。

「……大丈夫よ、ありがとう」

 カナンは心配する表情で私を見ながらも、耳元で小声で囁いた。

「いますか?」
「……いないみたい」

 クラス全員の顔を見た。一人もウィタノスだと、ぴんとくる人はいない。
 カナンとアナンは私がウィタノスに狙われていて、ウィタノスが誰なのかは私しか確認できない、ということだけ伝えている。私と同じ年の女性だということも。
 先生が慌てた表情で口を開く。

「医務室へ行きますか?」
「いいえ、失礼いたしました。大丈夫ですわ」
「そ、そうですか? では一番後ろの席に移動をお願いします」

 私たち三人は一番後ろの席へ移動する。私とカナンが同じ席、アナンが私の後ろに座った。ルーカスが後ろを振り向き、心配そうにしているが、すぐに講義が始まるために今は話すことができない。

 とりあえず、ほっとしていいのだろうか。ウィタノスがいないのだ。けれど。

(おかしいわ。絶対いると思っていたのに)

 ここで出会わなければ、どこで出会うというのだろう。予測が外れて困惑するものの、少しずつ体調が良くなってきた。

 テイラー学園へ馬車で通学したところまでは大丈夫だった。それから先生と会い、教室に案内され教室が近づくにつれて、だんだんと動悸がしだした。それからは眩暈と震えと吐き気のオンパレードだったが、やはり精神的なものだったのか、ウィタノスがいないと分かると落ち着くものである。

 すぐに講義が始まってよかった。心を落ち着かせる時間ができる。
 曜日によって講義は違うが、大まかには男女混合の講義と男女別れての講義がある。剣技の講義なんかは男子のみだ。女子は他に講義がなければ男子の剣技の見学もできるが、女子は女子で教養やマナー、社交術の講義があったりする。アナンは私の護衛なので、私が女子のみの授業の際は付いてくることになっていた。

 最初の講義が終わると、すぐにルーカスが近寄ってきた。

「お前大丈夫なの? さっき死にそうに見えた」
「大丈夫よ、ありがとう」
「ならいいけど。まあ、さっきよりは顔色いいか」

 ルーカスは一年ほど一緒に暮らしていたので、私の体が弱いのを知っている。体が弱いから体調が悪いのだと思ったようだった。

「ルーカスさま、もしよろしければ、私たちを紹介していただけませんか?」

 ルーカスの後ろに同じクラスの女子と男子が複数名立っていた。

「ああ、ミリィ、いい?」
「ええ」

 やはり、多少はここでも社交界のルールが存在するようである。

 グラルスティール帝国の場合、知り合いでもない身分の低い人間が高い人間に話しかけてはいけない、という暗黙のルールがある。もちろん一般連絡、業務連絡、伝言の類はまた別であるが。ダルディエ公爵家は四大公爵家の一つであり、帝国の中では我が家より高い身分というと皇帝一家のみ。同じ身分は四大公爵家の人間のみ。それ以外はみな我が家よりは身分が低いのである。

 これが社交界なら、低い身分の人が高い身分の人と知り合いになりたければ、仲介者はまず高い身分の人に伺いをたてるのだ。さきほどルーカスが「いい?」と私に聞いたように、「低い身分の人が高い身分の人に紹介してもらいたいと言っているけれど、紹介させていただいてもいいですか?」と。かなり回りくどいが、これがルールなのである。

 ただ一度紹介してもらえれば知り合いとなるので、それ以降は失礼にはあたらないのだが。
 テイラー学園では、そのルールは緩いと言われている。だからこの学園に通っている間に高い身分の人とたくさん知り合っておこう、とみんな思うのだ。

 ルーカスに何人か紹介されているうちに、また次の講義である。その間に考える。やはり気になるのはウィタノスである。ここはルーカスから情報を得るべきであろう。

 昼食の時間、ルーカスに一緒に食べようと誘った。カナンとアナンも同じ席に着く。

「ミリィ、食堂慣れてるな。俺教えることないよ」
「ここで食事は何度もしているもの」
「そうだったな」

 兄と一緒にいたいがために何度か学園の見学に来ていた時、ルーカスと会っているのだ。

「ルーカスに聞きたいことがあるのだけど、今日同じクラスで休んでいる人はいる?」
「いるよ。十人くらい」
「十人も!?」
「お前もずっと休んでただろう。試験だけ受けてこない人とか、国へ帰って半分くらいしか来ない人とか。あと病欠もいるね」
「あーなるほど。じゃあ、その中に女性は何人いるの?」
「女性は……たぶん四人かな?」

 ルーカスは考えながら答えた。
 四人。その中にウィタノスはいるのか。まだ油断はできない、ということである。
 ふと前を見ると、チラチラとこちらを見ている人が多い。

「ねえ、何か見られていない? ルーカス何かした?」
「何で俺だよ。ミリィの方だよ、見られているの」
「どうしてミリィが?」
「そりゃあ、ダルディエ公爵家の令嬢が一年も休んだ上の初顔見せだよ? みんな興味津々なんだ」
「ええ!? 困る。ミリィはひっそりと生きたいの」
「いや無理でしょ。ダルディエ公爵家の兄妹って、どれだけ有名か知ってる? それはそれは見目麗しい兄たち、その長男たるディアルドさんは、その妻の座を狙っていた女性たちが婚約したと知って涙の池ができたって有名だよ。ジュードさんは女性より美しいって評判だし、シオンさんは孤高の一匹狼でミステリアスなところが魅惑的らしい。アルトさんやバルトさんと一度でいいから恋人になりたいって女性が列をなしてるとか。エメルさんは皇太子殿下の右腕として有名だし。その兄たちが溺愛する末の双子はどんな人なのかって、みんなの想像力をかきたてるんだろう」
「ミリィは双子ってことになってるの?」
「お前の設定でしょ? 見事に信じられているようだね。ミリィが昔見学に来た時に、あの人がダルディエ公爵家の末っ子の男の方か、って噂になってたよ。今でもそれ覚えている人いるからね」

 こんなところに影響が残っているとは。

「知らないふりしておいてね」
「分かってる。ミリィはここにいる間は面倒みてやるから。妹みたいなものだし」
「……ルーカスが弟でしょう」
「は? 俺が兄だよ」
「ミリィは弟が欲しい!」
「俺は妹が欲しい! もう姉はいらない」

 姉がいるくせに、姉がいらないとは、どういうことだ。
 しかし私が頼りないことは分かっているので、ここは引き下がっておく。

「じゃあ、そんな兄であるルーカスにもう一つ聞きたいことがあるの。六年生にウェルント伯爵の令息っている?」
「いるよ」
「その人の笑ったところって見たことある?」
「いや、あの人は笑わないよ。人形って有名だし」
「そうなのね!? やっぱり気を付けなきゃ」
「何を?」

 今のところ、双子のミッションは持続中である。笑顔を奪う天恵がいるかもしれないということなのだ。だから絶対に無表情を貫きます。私はきょろきょろと近くに誰もいないことを確認して、ルーカスに耳打ちする。

「ルーカスも笑ったら駄目なのよ。気を付けて!」
「は?」

 双子が調査中で他言無用だと言っていた。だから大きい声では言えないのである。

 そんなこんなで、テイラー学園の一日目は、予想外の平穏な日となった。
 家に帰り、心配していた両親や兄たちが待ち構えていた。何もなかったし、ウィタノスもとりあえずはいなかったことが分かり、みんなも安心したようだった。

 それからテイラー学園へ通学する毎日だが、今のところ大きな問題はない。
 一つ、あるとすれば、一学年上の六年生の女性ウェリーナ・ル・バチスタに話しかけられたことである。教室を移動していた時だった。

「あなたがダルディエ公爵家の娘ね」

 誰だろう。
 派手な容姿で大変美しいが、上から目線の眼差し。そして何と言っても爆乳。豪華な美人ではあるが、とにかく一目で高飛車なのが分かる。

「ウェリーナ・ル・バチスタです、お嬢様」

 後ろに控えていたカナンが、こそっと耳打ちする。顔見てすぐに分かるカナンがすごい。私も名前くらいは知っているが、顔は知らなかった。
 ウェリーナ・ル・バチスタは、我がダルディエ公爵家と同じ四大公爵家の一つで、通称南公とも言われるバチスタ公爵家の令嬢である。
 ウェリーナは横に女性一人を従えていた。

「もう一人はルビー・ル・トリットリアですね」

 だからカナンは何故顔を知っている。トリットリアといえば、トリットリア侯爵家で南側ではバチスタ公爵家に次ぐ家柄である。ウェリーナに比べて派手さはないものの、かなりの美人である。ルビーはウェリーナとは違い、すこしはらはらとした表情をしていた。

「あなたは?」
「ふん! 聞いて驚きなさい! バチスタ公爵家の娘ウェリーナよ!」
「そうですか。では、わたくしは次の講義がありますので失礼しますね」

 私は軽く会釈すると、背を向けた。面倒くさそうな匂いがプンプンする。構わないほうがよさそうである。

「ちょっと待ちなさいよ! わたくしにそんな態度取っていいと思っているの!? 今に見てなさい! いつまでもちやほやされると思わないことね! 絶対に邪魔してやるんだから!」

 よく初対面であんなに高飛車に叫べるな。関わり合いたくない。
 変なのに絡まれてしまったな、と思いながら、次の教室へ移動するのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。