七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 139話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 139話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」139話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 139話

 最近侍女のカナンと護衛のアナンを連れて、帝都の街をウロウロするのが息抜きになっていい。家庭教師の先生のお陰で勉強は順調で、私と一緒に進級試験を受けるカナンとアナンも問題はなさそうである。

 帝都はグラルスティール帝国の最大の街なだけあって、人の数も多い。人間観察が好きなので、カフェでカナンとお茶しながら行きかう人の様子を見るのも楽しいのだ。それに、好みの男性を見つけると、テンションが上がる。内心、あの人素敵だな、と思うと、横でカナンが「あの人、お嬢様の好みでしょう」と言う。なんで分かるんだ。咳払いして誤魔化しておく。

 ふと、カナンの思う私の好みが知りたくて聞いてみた。

「お嬢様の好みですか? 年上、かつ顔の良い男性。一番のお好みは強面の方ですか。あとは目つきの悪い男性。笑顔が眩しい優男もお好きのようですが、その中でもお腹に黒いものを抱えてそうな方がお好きでしょう。表面上は良い男ですが、裏で一癖も二癖もありそうな人を本能的に察知されて好きになられていると思います。ときどきその路線から外れた方を好きになっても、大抵好きでいらっしゃる期間は短いですね」
「……」

 よ、よく見ているな。カナンが怖い。何も言えないではないか。
 ただ腹黒はいいすぎだと思う。人は二面性があるものだもの、みんな本音と建前を抱えて生きているものである。私も内心言えないことは色々考えている。だから腹黒なんて、普通よ普通。うん。

「それでね、シオンとも踊っておきたいの。いいでしょう?」

 シオンの部屋で、私はシオンの背に乗りシオンと話をしていた。そのシオンは私の下で腕立てふせをしている。いつも重しを足したいと背中に乗せられるのである。

「面倒だな。アルトやバルトと練習しているのだろう」
「だってデビューの時、シオンも踊ってくれるのでしょう? 一度くらいシオンとも練習しておきたいの」

 最近、社交界デビューで私が誰と踊るのか、兄たちが話し合って決まったのである。私は一度踊ればよかったのだが、四曲全て兄たちと踊ることが確定したのである。私はシオンが踊っているのを見たことがない。本人は踊れると言っているが、少し心配なのだ。

「お願いシオン」
「ちっ、分かったよ」
「ありがとう!」

 よかった、これでシオンとも練習ができる。それにしても、腕立て伏せしながら、よく話せるな。まったく苦しそうでないのがすごい。

 それから数日後。皇太子宮を訪ねていた私は、いつものようにお茶とお菓子を四人で楽しんでいた。ソロソは紅茶を入れるのが上手である。とても美味しい。

「最近、ミリィは好きな人いるのですか?」
「え? どうしたの、エメル。そういうの聞くの、いつもミリィの方なのに」

 エメルはちらっとカイルを見て、また視線を私に戻した。

「以前聞いた時から時間が経ちましたし。あれからどうしているのかと思いまして。兄としてはミリィが心配ですから」
「そんな心配しなくてもいいのに! でも聞いてくれる? 最近失恋が多くて」

 ――カシャン。

 やけに紅茶カップの音が響いた。音の主を見ると、カイルがニコリと笑っている。

「俺も聞きたいな」
「そう? アルトたちの同僚の近衛騎士でね、ちょっと目つきが鋭利なんだけど素敵な笑顔の人がいてね! アルトたちに面会に行くと最近よく会うの。騎士服着てるとそうでもないんだけど、脱いだら腕の筋肉が良い感じでね!」
「……脱いだら?」
「訓練したら暑くて脱ぐでしょう? 一般公開側では令嬢たちがいるからあまり脱げないらしくて、家族用の面会側で脱いだりしているのよね」
「それは今すぐに止めさせるべきだな」
「どうして? 汗だくなんだもの、脱げないと可哀そうでしょう?」
「家族の面会側にはミリィがいるじゃないか。ミリィも令嬢だろう」
「あら! ミリィは北部騎士団で見慣れてるもの! 気にしないわ!」

 あれ、ソロソが下を向いて震えている。寒いのだろうか。

「そ、それで、失恋というのは、どういうことなのです?」
「それがねエメル、アルトが変なこと言うのよ! せっかく素敵な人見つけたのだもの、毎日見に行ってたの。アルトに同僚の人かっこいいねって言ったらね、同僚は足が臭いとか、いびきが煩いとか言うのよ! ひどいでしょう! そんなの好きなんだから関係ないって思ったんだけどね、よくよく考えたら、ミリィいびきがうるさいのだけは駄目だと思って。ほら付き合ったらどうなんだろうって想像するでしょう? いびきが煩いと一緒に寝れないでしょ? 安眠が邪魔されるのは大変だなーって思ったら、好きじゃなくなっちゃった。これって失恋よね?」
「……」
「最近彼に会うとね、ついこの人いびきが煩いのかと思ってしまうミリィがいて。ミリィってひどいのかな? エメルどう思う?」
「全くひどくないですよ。いびきが煩い人には、ミリィを任せることができませんから」
「かっこいいのになあ。ジュードが貴族じゃない人とは付き合ったら駄目だと言うのよ。でもその人は貴族だし、そこは問題なかったのに」
「アルト兄上には感謝しませんと。ミリィが付き合う前にいびきが分かって良かったですね」
「そう……よね?」
「そうですとも」

 そうだよね、早めに分かってよかったのだ。うんうん。

「それともう一つの失恋はね」
「まだあるの!?」
「うん。カイルお兄さまが聞きたくないなら、この話止める?」
「……いいや、聞こう」
「そう? 今度の人は貴族じゃないから、見ているだけにしておくべきか迷ったんだけどね、つい話しかけちゃたの」
「つい?」
「話しかけると言ったら、少し違うわね。パン屋さんの息子でね、売り子も時々していて! パンをカナンに買ってもらいながら話しかける感じなの。それなら不自然じゃないでしょ?」
「……」
「その息子さん、パン屋さんにしては体格良くてね、でも笑顔が可愛いの! そのズレがまたきゅんとするでしょう! その笑顔を見たくて毎日通ってたんだけど、事件が起きて」
「事件?」
「もうミリィにとっての大事件! 息子さんが男の人と裏口から出るのに気づいて追いかけたら、なんと! 男の人とキスしてたの!」

 ソロソが紅茶を吹き出した。汚いな。

「男性の恋人がいたみたいでね。これじゃあ、絶対にミリィは恋愛対象じゃないでしょう? だから諦めることにしたの。……それとも、男の人だけじゃなくて女の人も恋愛対象なのか、確認すべきかしら?」
「しなくていい!」
「そうよね? 恋人の男の人にも失礼よね」

 ああ、でも話せてもやもやがすっきりした。恋バナができる友達が欲しいわ。

「ほ、他にも失恋はありますか?」
「ううん、最近はこのくらいしかないの。またいい人見つけたら報告するね!」
「ありがとうございます……」

 エメルはなんだか疲れた顔をしている。

「エメルは? エメルには好きな人いないの?」
「いませんよ」
「いつもそれなのね。カイルお兄さまは?」
「いない」
「もう! ソロソは?」
「俺もですか!? いませんよ、そんな暇ないです」
「みんなつまんない」
「「「……」」」

 妹には言いたくないのだろうか。兄の恋バナなんて、想像するだけで楽しすぎていつでもしたいのに。双子なんかは彼女とあったことを楽しく話してくれて、いつも包み隠しもしないのだが。あれは開放的すぎるのかもしれないが。

「そういえば、今日はみんなに質問があったのだった。聞いてもいい?」
「なんでしょう?」
「エメルは女の人のどこに魅力を感じる?」
「はい!?」
「アルトとバルトに聞いても参考にならなくて。胸もお尻も両方好きとか、足もいいよねとか二の腕も好きとか。二人は好みが広くてね。ディアルドやジュードに聞きたいけれど、もっと恥じらいを持てと言うだけだから聞けないし。シオンに聞いたら、胸とお尻は俺も持っているからいらないとか、変な答え言うの。だからエメルの意見を聞きたいなって思って」
「そ、それを聞いてどうするのです?」
「将来的な参考にしたくて。誘惑する時の」
「「「誘惑!?」」」

 兄たち三人の声が揃った。仲いいですね。

「もちろん、今の話じゃないのよ。まだミリィ成長途中だし。今ならまだ育てるのに間に合うかもしれないでしょう」
「ミリィは十分魅力的だよ……」
「ミリィのお兄さまたちは、みんな優しいからそう言うのよね。嬉しいけれど参考にならないのだもの」

 カイルが席を立ち、私の椅子の横に膝を立てて私と目線を同じにして手を取った。どうした?

「ミリィ、お願いだから、これ以上男性に積極的にならないでくれないか? 俺は心配だよ、ミリィがいつか辛い目に合うんじゃないかって」
「でも恋は楽しいばかりじゃないでしょう? 辛い事だってあるって分かっているわ」
「それでも。俺はミリィが可愛いんだ。少しでも辛い目にあってほしくない。ミリィが泣くようなことがあれば俺は悲しい。俺をそんな気持ちにさせないでほしい。人を好きになるなと言っているんじゃないんだ。自分から突進していかないで欲しいんだ。駄目かな?」

 う、どうしてそんな子犬のような目で見るんだ。私が悪い事をしているような気がしてくるじゃないか。

「……わ、分かったわ。そんなに積極的には、ならないようにするね」
「うん、ありがとう。それとね」

 まだあるんかい。

「好きな人ができたら、俺たちに毎回必ず報告するんだよ。何かあった時、俺たちが知らないことだったら対応が遅れるだろう?」
「……全部?」
「全部だよ」

 ぜ、全部かあ。言えないこととかも出てきそうだと思うのだけど。

「ミリィ? 全部だよ、いいね?」
「……はあい」

 なぜかカイルの笑顔が怖い。つい返事してしまった。

 そんな平和な日々が続いて、ついに進級試験がやってきた。アナンとカナンと三人で受け、見事合格したのだった。そして夏休みのためにダルディエ領へ二十日ほど帰郷し、また帝都へ戻って来た。テイラー学園のためである。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。