七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 138話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 138話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」138話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 138話

 テイラー学園の入学式から一か月半ほど経過したころのダルディエ邸。

「旅に出る」

 シオンが急に言い出した。

「え……やだ。シオンがいないと寂しいの」
「何言ってるんだ。ミリィも行くんだぞ」
「……え?」

 以前シオンに旅行に行く時は一緒に連れて言ってと約束したことを覚えていたらしい。

「テイラー学園のことは忘れて気分転換しよう。父上にも話してある」
「いいの?」
「ああ。二日後に出発する」
「やったぁ!」

 シオンに抱き着く。シオンは私の背中を撫でた。

「アナンとカナン、そして護衛も二人ついて行く」
「え? カナンも?」
「ミリィの世話を誰がするんだよ。俺はできないぞ」

 う。確かに私の世話は私にもできない。

「馬は五頭手配済みだ。服装はカナンに伝えてあるから準備してくれるだろう」
「五頭……人数分じゃないような」
「ミリィは俺と乗るんだよ」
「え!? ミリィも馬に一人で乗れるようになったんだよ」
「知っているけど。旅は疲れるからな。ずっとミリィ一人で馬に乗るのは厳しい」

 頬を膨らませた。

「カナンは一人で乗るのでしょう?」
「カナンは一人前に馬に乗れる」
「ミリィと同じ位でしょう?」
「ミリィと水準が一緒なんか言ったら、カナンが不憫だぞ」
「……」

 そんなに私の乗馬レベルは低いのか。むっとするが、シオンにここまで言われれば、そうなんだろう。悔しいけれど。

 それから準備が整った二日後。
 馬に乗るため、少年服を着て少年用のカツラをかぶったものの、今回は胸を潰さなかった。いつも少年服を着るときは胸をさらしで巻いて平らにするのだが、今回少年服を着たのは乗馬のためであって、少年を演じるわけではないからだ。用意した服は商家の息子をイメージした軽装ばかりである。カナンも動きやすいように少年服を着ていた。

 みんなに見送られて、ダルディエ邸を出発した。
 旅はおおまかには、グラルスティール帝国の中央をぐるりと回る予定である。西や南は今は行かないほうがいいということだった。戦争などが関係しているのかは分からないが、中央だけでも旅ができれば十分である。

 秋の季節で、暑すぎず乗馬中は風が気持ちいい。シオンに背中を預けていて、馬の操作に集中しないで景色が楽しめる。シオンには一人で馬に乗れると言ったものの、乗らなくてよかったと思う。もし乗っていたら、馬の操作ばかりに目がいって、旅を楽しむどころか疲れてしまっていただろう。

 それにしても。

「本当に乗馬上手なのね、カナン」
「こんなこともあるかと思いまして。練習していました」

 いやいや、こんなことは普通ないと思う。令嬢の旅って言ったら普通は馬車である。その侍女もしかり。

 ダルディエ領、帝都、そしてラウ領しか行ったことのない私は、どこも楽しかった。見知らぬ町での散策、のどかな森の探検、村の家畜の放牧を見たりと何もかもがキラキラしていた。雨が降ればホテルで時間を潰し、予定を決めていないので、その日生活なのも気楽であった。またある日はホテルまでたどり着けず、野宿をしたのだが、これも楽しかった。火を焚いて、持っていた軽食を食べて、おしゃべりして寝るのだ。

 そんなある日、山の中にあるという湖が綺麗な避暑地を目指していた。貴族にも人気なホテルがあるらしく、そこに泊まる予定だった。その道中、一番に気づいたのはシオンだった。急に道の脇から馬に乗った男たちが十人ほど現れたのである。どうやら道中の旅人から金品を奪うのが目的の山賊ようだった。

「ちっ」

 シオンは舌打ちをする。私と二人で乗っているため、山賊よりも馬のスピードが遅いのである。私たちを庇うように走る護衛の馬が先に山賊たちとぶつかった。シオンはこのまま走っても山賊に追いつかれると判断し、馬を緩やかに止めてシオンが馬から降りて私も降ろした。

「馬の側から離れるなよ」
「うん」
「カナン! お前はミリィの側にいろ」
「かしこまりました」

 カナンが私の前に立つと、シオンは山賊の応戦に入った。十人の山賊を相手にアナンを含む護衛三人では厳しいからだ。

「それ、どこから出したの?」

 ナイフを前に出して警戒しているカナンに言った。

「ナイフですか? 腰に差していました」
「危ないわよ」
「何言っているんですか。私は料理もします」
「……関係なくない?」
「大ありですよ。猪なんかも捌きますよ、私」
「……なんで猪」
「大きいものを捌く練習です」

 どこからつっこんでいいのか分からない。

「……カナンは何を目指しているのかな?」
「もちろん、お嬢様の完璧侍女です」

 よし、もう気にするのは止めよう。
 そんな会話をしているうちに、シオンが四人を倒していた。アナンたち護衛三人もそれぞれ二人ずつ倒していた。

「大丈夫?」
「ああ。お前たち怪我は」
「ありません。これどうしますか」
「転がしたままでいいだろ。行くぞ」

 うん、余裕そうですね。何事もなかったかのように馬に乗って走り出した。本当だったら、地面に突っ伏して呻いている山賊たちは町の警備に渡さなければならないと思うのだけどね。
 騎士たちの訓練を見慣れているからか、自分が戦うのではなく、こういうのを見るだけなら平気なんだなと自分に対し首をかしげる。怖いとかそういう感情はない。ウィタノスを恐れるくせに。シオンを信頼しているからだろうか。自分の感情にちぐはぐさがある。

 その日の夕方には目的地である避暑地に着いた。ホテルに入りゆっくりと過ごした。

 次の日、ホテルの側に広い湖があって、そこを眺めながら朝食を取った。山に囲まれた湖はすごく美しいと思う。朝食後は湖の周りを散策した。動物遣いの影響か、野兎がじっと私を見ていた。

 避暑地には五日間滞在した。ここなら護衛たちも交代で休みが取れるからだ。ゆっくりとした時間を楽しみ、そして次の街へ移動した。ずっと馬で走りっぱなしではなく、適度にホテルで休む時間を入れつつ、旅が終わり帝都に戻ってきたのは冬の初めだった。結局一ヶ月半ほどの旅で気持ちもすっきりした。今の感じなら中途になるがテイラー学園へ行けると思ったのだが、パパから止められた。

 パパはこのまま一年間休んで進級テストを受け、次の学年から復帰するようにしようと提案された。悩んだけれど、パパの言う通りにすることにした。

 その後冬休みのためにダルディエ領へ戻った。
 この冬、嬉しいことがあった。ディアルドとカロディー家のユフィーナの婚約が決まったのだ。ディアルドとユフィーナを引き合わせて以降、ユフィーナは積極的にディアルドにアピールしたらしい。ミリディアナさまのお陰です! とユフィーナは言うが、ユフィーナ自身が頑張ったお陰だと思う。ディアルドがユフィーナを見る目が柔らかくて、私まで嬉しくなった。結婚式はまだ先になるが、これから準備が大変だと思う。けれどユフィーナは楽しそうにしているし、パパやママが助言をしているようだし、心配はない。

 私は進級試験を受けるため、勉強を頑張った。今度こそはテイラー学園に通いたい。まだ不安はあるものの、前よりは心が強くなった気がした。

 そして社交界シーズンとなり、帝都へ向かう。進級試験は夏直前でまだ先なので、こつこつと勉強はやっている。

 去年テイラー学園に通っていたならば、その年に私は社交界デビューもする予定だった。だけどそれも延期しているため、今年順調にテイラー学園に通うならば、社交界デビューもすることになる。

 グラルスティール帝国では社交界デビュー、つまり一人前の女性と認められる儀式がある。貴族の令嬢は十五才から二十才ほどまでには一般的には社交界へデビューするのだが、その儀式というのが皇帝夫妻への謁見である。一年に一度、秋にある宮廷舞踏会がそれであるのだが、国中のデビューを予定している令嬢たちが大勢謁見する。それは大変な作業である。なので、皇帝夫妻との謁見は、令嬢が一礼して終わり。これだけである。これだけといっても皇帝夫妻にとっては大変な作業であるが。基本的には皇帝夫妻に声をかけられることはない。

 皇帝夫妻の謁見が全て終わると、その日の主役であるデビューした令嬢たちがダンスする。もちろん男性が必須なため、令嬢たちはその日までに相手を見つけなければならない。とはいっても、婚約者がいるなら婚約者、いなければ兄弟、もしくは若い親戚。婚約者のいない令嬢も多いため、兄弟が同伴となるパターンが多い。

 デビューする令嬢は、最初のダンスは必ず踊らなければならない。そして四曲目まではデビュー令嬢のための時間となっており、ダンスが好きで相手がいるなら、四曲目までは踊ることができる。また二曲目から四曲目までは男性を変更して踊ることができるので、曲が終わると同時に次のダンスを誘われる令嬢は鼻高々だったりするらしい。デビュー前から有名な令嬢や人気のある令嬢は、彼女らと踊ろうとする男性が曲の終わりですぐに誘える位置を争っていたりするというから、令嬢側も男性側も意外と大変だと思う。

 五曲目からは一般の貴族たちもダンスができるようになり、普通の舞踏会と同じになる。

 私の場合、まだ同伴の相手は決まっていないが、兄たちのうちの誰かになるだろう。もしだが、今年もテイラー学園に通わなかったとしても、今年は社交界デビューをすることをパパが決定した。ママは張り切って私のドレスの準備をしている。ちなみに、ドレスはアンに作ってもらっていた。有名な仕立て屋にしようか迷ったけれど、最近のアンのドレスのデザインが本当に素敵で、ママとも相談してアンにお願いしたのだ。

 社交界デビューのダンスで失敗しないように、ダンスのレッスンも頑張っている。デビューも緊張するが、それでも楽しみな行事だった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。