七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 137話 ソロソ視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 137話 ソロソ視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」137話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 137話 ソロソ視点

 俺は皇太子であるカイルさまの側近ソロソ。

 まだ社交界シーズンだった頃、皇宮内で迷子になっていたミリィに会った。家に帰りたいと言うことで、その場にいた文官に案内を依頼した。その件はそれで終わったはずだった。ところが、ミリィがなぜかその文官を好きになったという。それをカイルさまは俺を睨みながら、ミリィに悪い虫でも付いたらどうすると怒るのだ。

 おかしいだろう。俺は迷子の案内を頼んだだけである。ただの親切心。なのに怒られるとはどういうことなのか。エメルはエメルでニコニコ笑いながら無言の圧をかけてくる。もう一度言う。おかしいだろう。

 それにだ、俺は声を大にして言いたい。
 ミリィが惚れっぽすぎやしないかと。あの文官と会った時間は皇宮の入り口までの距離。歩いてもそう長い時間はかからない。たったそれだけの間に、どうやって好きになったのだ? 人を好きになった経験のない俺が言うのもなんだが、ちょろすぎやしないか。

 その後、その文官はどこの所属だ、誰なんだとカイルさまが言うので仕方なく教えたが、心配しなくとも今後ミリィと会うことなど、ほぼない。この皇宮にどれだけ文官がいると思っているんだ。一応そのこともカイルさまに言って、とばっちりが文官に行かないよう手は打っておいたが。

 あの迷子のとき、ミリィが俺に抱き着いたことは、カイルさまにもエメルにも内緒である。死ぬまで俺の口から言うことはない。

 カイルさまとエメルの妹への愛は重度級だ。できればその愛は互いで終了する関係に留めて欲しいのだが、いつもなぜか俺は被害を受ける。勘弁してほしい。

 ただミリィのお陰で、カイルさまの面白いところが見れるのも、この立場だからではある。

 夏が過ぎ、ミリィはテイラー学園へ入学が決まっていたが、入学から一か月が経過してなお、まだ一度も通学していない。体調が悪く、カイルさまも心配して二日に一度はダルディエ邸へお忍びで顔を見に行っているくらいだった。俺も一度見舞いに行ったが、少し痩せていた。元から細いのにさらに細くなって、よりいっそう儚げな印象になっていた。確かにあの状態は心配である。

 今日もカイルさまが夜にダルディエ邸へ行くというので、すこし巻き気味に仕事をこなしていた。他の宮殿で話し合いがあった後、皇太子宮にカイルさまとエメルと三人で帰ってきた時のこと。

 騎士からミリィが訪ねてきていると、入り口で聞いた後のカイルさまの後姿はウキウキしていた。顔を見なくても分かる。笑いそうになったが、もちろん実際に笑いはしない。

 そして執務室に入ると、ソファーに座ってぼーとしていたミリィは立ち上がって言った。

「エメル!」

 あれ? カイルさまじゃないの?
 ミリィはエメルに抱き着いて離れない。
 どうしよう、笑っていいかな。カイルさまの後ろ姿が寂しい。

 ミリィは何をしに来たのかというと、ミリィの兄シオン・エルジア・ル・ダルディエに家に籠っているのは良くないので、エメルのところに遊びに行けと言われたらしい。シオンとは会話をしたことはないのだが、皇太子宮を遊び場だと言えるのがすごい。

 それからソファーに座ったエメルの膝の上にミリィは座り、エメルに抱きついたままだ。

「ミリィ、俺には来ないの?」
「カイルお兄さま、お仕事でしょう」

 ミリィ、言えないけれど、エメルもお仕事の時間だからね。
 カイルさまは仕方なく机に座り書類仕事に取り掛かっているが、ちらっと顔を上げてミリィを見ている。いつもの集中力はどうした。

 それからなぜか俺はお菓子を買いに行かされた。お菓子なら買い置きがあるのに、なんでわざわざ俺が。命令となれば仕方ないので買いに行くが。
 買い物から帰ってくると、まだエメルもカイルさまも様子に変化はなかった。

 そして休憩しようとなり、俺はお茶の用意をする。

「ミリィ、お菓子食べませんか」
「……お腹空いてないの」
「少しは食べませんと、倒れてしまいますよ」
「……」
「さきほど、ソロソが栗のケーキを買って来たんですよ」
「……栗」

 のそのそっとミリィはエメルから体を離した。栗の力すごいな。
 なるほど、このために買いに行かされたのか。

「食べれる量だけ食べればいいですからね」
「うん……」

 全員でテーブルに着く。少しずつミリィはケーキを口に運ぶ。

「おいしい」

 少しだけ笑顔が浮かぶミリィに、俺もほっとする。
 ミリィはケーキを半分ほど食べて、一息ついたようだった。
 カイルさまはそんなミリィの手を取った。

「ミリィ、学園に行けないことを気に病む必要はない。俺も学園に行かない日はあったよ」
「……でも、それは公務があるからでしょう?」
「公務だけではないよ。面倒で行かない日もあった。学園には内緒だけれどね」
「……本当?」
「そうだよ。しかも公務でもないのに、エメルやソロソを巻き沿いにして三人でさぼったこともある」

 ありましたね、そんなことも。ほんの数年前だけれど、懐かしいものである。

「あそこは出席よりも実力主義だからね。試験の結果が良ければ学年は上がれるし、卒業だってできる。留学してきたものの、年の半分は国に帰る他国の王族だっているんだ。ミリィが少し休んでもいい。行けるようになってから行けばいいんだ。ミリィは努力家だから、家庭教師の先生と家でもちゃんと勉強するだろう。学園に戻れば、すぐにみんなに追いつけることができると俺は知っているよ」
「……」

 ミリィの瞳に涙がこみあげてきている。泣くまいと我慢しているように見えた。

「もしかして、ミリィは自分が情けないとか、みんなに悪いとか思っていない?」
「……」
「ミリィに起こりうるかもしれないことを俺は分かっている。なのにミリィはいつも対抗しようと頑張っているじゃないか。できうる努力をしても怖いと思うことは当然のことなんだよ。ミリィは情けなくなんかない。怖いけれど立ち向かう努力をしていることを俺は褒めたいよ」
「……うん」

 我慢できなくなったのか、ミリィはぽろぽろと涙を流した。

「ミリィがみんなに悪いなんて思う必要はまったくない。みんなはミリィが元気にしていてくれるのが一番いいんだ。ミリィが今日なら行けると思える日が来たら、行けばいいんだよ」
「うん」

 カイルさまはミリィを抱き上げ、膝に乗せて抱きしめる。ミリィが泣き止むまでカイルさまは頭を撫で続けた。

 それから来た時よりは元気な表情のミリィは、エメルと帰っていった。エメルは今日は帰っていいことになり、俺は居残りである。ひどい。

 ミリィの事情は俺は知らない。けれど、俺も近くで見てきたからこそ、あの笑顔が曇るのは心が痛い。カイルさまとエメルの仕打ちには耐え兼ねるけれど。

 それにしても、妹とは可愛いものである。俺もカイルさまのように優しく話をして、聞いてくれる妹がほしい。俺の妹に優しく話をしても、頭打ったの? という表情をされるだけなので、絶対にそんなことはしないが。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。