七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 134話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 134話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」134話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 134話

 今日は仕事が休みだというアルトと待ち合わせをしていた。待ち合わせと言っても、近衛騎士で皇宮にある寮暮らしのアルトを私が皇宮の傍まで馬車で迎えに行き、そこで待っていたアルトが馬車に乗り込むという形だけれど。

「アルト、おはよう」
「おはよう、ミリィ。今日も可愛いね」

 頬にキスをするアルトの腕に手を絡ませた。

「今日は付き合ってくれてありがとう。お昼前までは大丈夫なのでしょう?」
「そう。昼から令嬢とデートなんだ。ずっと付き合ってあげられなくて、ごめんね」
「いいの、少しでも一緒にいられるだけで嬉しいから」

 アルトとバルトは複数の女性と付き合っているらしく、休日は分刻みのスケジュールらしい。元気だなあと思いながら、今日の目的地、本屋へ向かう。なぜ本屋なのか。恋愛小説を買うためである。

 なぜか現世では、恋愛小説は人気にも関わらず、隠れて読むもの、という扱いなのだ。なんだか前世のエロ本を隠れて読む中学生のようだが、そういうものなので令嬢たる私が買うのは勇気がいる。恋愛小説といってもキスどまりで、きわどい部分はさらっと流される。私の中では純愛レベルなのだが、だからといって私が買っているのを見られて噂にでもなれば大変である。だから恋愛小説はいつも双子に買ってもらうのだ。

 本好きの私は、すぐに本は読み切ってしまうので、ダルディエ領へ帰る前に大量に仕入れて帰るのである。

 本屋へ着いたら、さっそく恋愛小説狩りである。片っ端から持っていない本を集め、アルトに買ってもらった。大量の本は邸宅に送ってもらう。

「思ったより早く終わったね。少しくらいならミリィが行きたいところ行けるよ。何がしたい?」
「本当? じゃあカフェでお茶しながらアルトとお話したいわ」
「いいよ」

 それからカフェでお茶と話を楽しみ、アルトと別れた。
 今日は侍女はおらず護衛だけしか連れていないので、もう帰ろうかと思っていると、知った顔を見つけた。

「ユフィーナ様!」
「……ミリディアナ様!?」

 カロディー家の元三女である。

「驚きました。ミリディアナ様、髪が」
「あ、これカツラなのですよ。似合ってないかしら?」
「とんでもない! すごくお似合いですわ」
「ありがとうございます。こんなところで会うなんて驚きました。どこかへお出かけですか?」
「ええ、でも用事はもう済みましたの。帰ろうかと思っていました」
「あら、じゃあもしかしてこの後時間がおありですか? もしよろしければ、昼食を一緒にいかがですか」
「ええ、ぜひ!」

 そんなこんなでユフィーナと一緒に昼食をすることになった。
 ユフィーナも現在社交界シーズンで帝都に来ていて、舞踏会やら夜会やらに参加しているという。

「舞踏会! いいですね。わたくしはそういったものに参加できるのは、もう少し先ですもの。ユフィーナ様は婚約の申し込みが絶えないというお話を聞きましたわ。どなたかお決めになりましたの?」

 ユフィーナは清楚で美しく、また優しい話し方で人に好かれやすい。女性の友人が多く、男性からもぜひ嫁にしたいと引く手あまたらしい。最近、こういった噂を侍女のカナンが仕入れてくるのである。

「いいえ、まだ……。迷ってしまって」
「そうですよね、一生が決まるのですもの。申し込みされている中には、好きな方はいらっしゃらないの?」
「……いいえ」
「そうなのですね。では申込されてない方で、好きな方はいらっしゃるの?」
「え!? えっと……」

 ああ、これは好きな人がいるんだな。ユフィーナの顔がほんのり赤くなって可愛いです。
 しかしたくさん申込があっても好きな人から申し込みがないというのは、なかなか辛いものがある。

「ユフィーナさまの好きな方って、どういった方なんですか?」
「そうですね……。優しい方です。男らしくて、仕事熱心で、すごく頼りになる方で。ご家族をとても大切にしてらして、妹さんも可愛らしくて。剣を取る姿は凛々しくて、お強くて。それから……」
「あ、もういいです」
「えっ」

 これは止まらなくなりそうなので、止めました。そして誰か分かりました。

「ユフィーナさまはディアルドが好きなのですね」

 ガシャガシャッ

「ああ! 申し訳ありません」

 動揺したのか、ユフィーナがカトラリーを落とした。
 妹と言った時点で分かったわ。顔が真っ赤で可愛いのだけれど。

「えっと……ディアルドは知らないのですか?」
「ディアルドさまを前にすると、恥ずかしくて話せなくなってしまって……。それに、今付き合っている方がいらっしゃるようですし」

 ああ、うん。たぶんいるね、それは私も思っていた。夜会の前に迎えに行ったりしているのである。

(でもねー、ディアルドのあの感じだといつものパターンな気がするのよね)

 社交界シーズンで帝都にやってきて、恋人作って、ダルディエ領へ帰る前に別れるパターンである。相手が好きなら別れないはずなのだ。もうすぐダルディエ領へ帰る話も出ているし、そろそろ別れるのではないかと思っている。

「ユフィーナさま、ディアルドはまだ婚約とかはしていないのよ。好きなら恋人がいても、自分を売り込みしないと!」
「う、売り込みですか?」
「そうよ! 欲しいものは自分から奪いに行くの! 長女や次女に勝てたユフィーナさまですもの、きっと大丈夫!」
「奪いに行く……」

 私はユフィーナの両手を握った。

「最初のきっかけくらいなら、わたくしも協力できるわ。それ以降はユフィーナさまが頑張らないといけないけれど。どうなさいますか?」

 最初だけは手伝ってあげられる。あとはユフィーナとディアルドの気持ち次第。

「が、頑張ります!」
「そう来なくっちゃ!」

 それから計画を立てた。帝都を去るまで時間があまりない。さっと考えた計画にて、すぐに決行にうつした。

 現在有名で人気の観劇がある。ユフィーナと行きたいね、となったが、子供の私が一人では行けない場所なので、ユフィーナと観に行く時に、保護者としてディアルドに付き合ってもらう、というものである。観劇後は三人で夕食をすれば、私がいればユフィーナも恥ずかしがらずに話す機会もあろう。

 そしてその計画の日。予定通り観劇を見て、夕食会場へ赴く。夕食中はユフィーナもディアルドも、間に私がいることで会話ははずんでいた。あとはユフィーナの頑張り次第。ダルディエ領へ戻っても、ディアルドはカロディー領へ仕事に行くことがあるので、会う機会はある。
 結果はどうなるか分からないけれど、今後が楽しみだった。

 そして帝都を立つ日の二日前の夜となった。

「ねぇ、まだ?」
「まだです、お嬢様。せっかくの綺麗な御髪が、ここで止めてしまうと台無しになります」

 自室で風呂に入った後、侍女のカナンが髪の手入れをしていた。お尻辺りまである長い髪を手入れするのは大変なのだ。大変なのは侍女であるが。

 ノックとともに使用人が入ってきて伝言を伝える。

「お嬢様、本日の添い寝ですが、ジュードさまではなく、エメルさまにと言伝がございます」
「エメル? 今日は夜会で遅くなるって言ってなかった?」
「それが、先ほど一度戻っていらして」
「そうなの? 分かった。エメルにもう少ししたら行くって伝えて」
「かしこまりました」

 早く行きたいけれど、カナンはまだ髪と格闘中である。もうしばらく手入れにかかり、その間アルトに買ってもらった本を読みながら時間を潰す。
 髪が綺麗に整えられた。うん、確かにきらっきらで綺麗である。カナンも満足そうだ。

 そして本を持ってエメルの部屋に移動した。

「エメル、来たよ」

 めずらしい。部屋に夜会で着たのであろう服が散乱している。とりあえず拾って椅子に置く。そして部屋の奥へ進むと、一人用のソファーに座った男がいた。バスローブを着てくつろいでいるのは、エメルではない。カイルだった。
 目を瞑り少し下を向いた頭から水滴が落ちていく。バスローブから覗く胸板や首筋がなんとも色気を漂わせている。今年十八才でこの色気はすごい。

(ミリィにこの色気は出せないな)

 女なのに負けた気がすると少し悔しくなりながら、カイルを上から覗く。

「カイルお兄さま? 寝ているの? 風邪ひくわよ」

 カイルが目を開けたと思うと、腕が引っ張られた。そしてソファーに座るカイルに乗る形で面と向かって抱きしめられた。

「……カイルお兄さま? どうしたの?」

 何も言わないカイルは、抱きしめた私を離そうとしない。

「何かあったの?」

 ずっと無言である。これは何かあったな、だけど聞くなということか。
 とりあえず、カイルの頭を撫でておいた。顔は見えないし何があったのかも分からないけれど、少しでも落ち着くのなら。

 どれくらいそうしていたのか。全く離してくれないカイルだが、私は暇である。話も聞けないし、することがない。まだ眠れないしな、どうすっかな。

「カイルお兄さま、ミリィを抱っこしてていいけれど、ミリィ前向いていい? 本読みたい」
「……」

 緩んだ腕を外すと、顔色の良くないカイルがいた。本当に何があったのか。聞いても答えないだろうけれど。
 一度立って本を取ると、今度はカイルの膝に後ろから座った。

「抱っこしていいよー」

 私の許可とともにカイルの腕がお腹に回り、頭を私の左肩に下向きに乗せた。うん、この恰好なら、私も本を読みやすい。

 それからどのくらい経ったのか。ドアの開く音に上を向くと、エメルが入室してきた。夜会服を着て、疲れた顔をしている。

「エメルおかえり。一度帰ってきたって聞いたのだけど」
「ただいま帰りました。もう一度出て行ったんですよ」

 ふーという声と共にソファーに深々と座る。なんだろうな、エメルも何かあったんだな。カイルは微動だにしないし。うん、私は空気が読める子である。何も聞くまい。

 と思っていると、のそっとカイルが頭だけ上げた。

「始末は」
「終えました」
「そうか」

 会話終了。全然分からん。こういうのを阿吽の呼吸というのだろうか。
 エメルは使用人を呼び出すと、風呂へ向かった。

 カイルはまた顔を下へ向ける。

「カイルお兄さま、息がかかって首がくすぐったいの。横を向いてくださる?」

 のそのそとカイルは顔を動かす。私はまた本に集中しだすが、カイルが声を出した。

「明後日帰ると聞いたよ」
「うん。次は夏休みに会いましょう。ダルディエ領に来るでしょう?」
「行くよ。行かないとミリィに会えない」
「そうなのよね。帝都がもう少し近かったらなぁ。もっとカイルお兄さまに会えるのに」
「もっと会いたいと思ってくれている?」

 カイルが顔を上げる気配がした。横を向くと、すぐ近くにカイルの顔がある。

「いつも思っているわ」

 私が去るのが分かっているので今日は寂しいのだろう。カイルの頬にキスをすると、かっと顔を赤くしたカイルはまた私の肩の上に頭を置いた。

「ミリィはずるいよ」
「ええ? どの辺が?」

 頬にキスならいつもカイルもするのに。いつも会えばキスの嵐だ。兄たちはみんなそうだが。自分がするのはいいけれど、されるのは恥ずかしいのだろうか。
 この国はキスがあいさつ代わりである。普通に道端でキスしている人はいるし、たいていの家もうちのように家族同士でキスをするのだ。

 カイルが落ち着くのを待っていると、やっとカイルは顔を上げた。普通の顔色に戻っていた。

「さっきから何を読んでいるの?」

 カイルは私が持っていた本の表紙を見た。

「『今日からあなたも財務官 入門編』。ミリィ文官になりたいの?」
「ううん。これは違うの」

 本のカバーを外した中から、本の本当の書籍名が書かれてあるのをカイルは読む。

「『先輩と先生と私 秘密の花園』……え!?」
「えへへ」

 アルトに買ってもらった恋愛本である。ちなみに書籍名はあやしいけれど純愛である。きゅんとはするが、まったくエロくない。しかし現代ではいわゆる恥ずかしい本です。私は家族に知られるくらいで恥ずかしくなったりはしないが。

「面白いのよ。読んだらカイルお兄さまにも貸してあげましょうか?」
「いらない! どうしてこんなもの読んでるんだ!?」
「面白いんだってば。一度読んだら分かるのに」

 エメルがお風呂から上がってきた。少し疲れが取れたような顔をしている。

「エメル! ミリィがこんなもの読んでるぞ!」
「なんです? ……ああ、いつものやつですね」
「いつものやつ!?」
「ミリィの小さなころからの趣味です。本邸にも別邸にも何百冊とありますよ」
「俺は聞いてないが!?」
「そうでしたか? もういつものことすぎて、言うほどのことでもないと思ったのかもしれません」

 うん、カイルは元気になったようだ。エメルと言い合いしていることに平和だなと思うのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。