七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 133話 ソロソ視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 133話 ソロソ視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」133話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 133話 ソロソ視点

 俺はソロソ・ル・バレンタイン。バレンタイン伯爵の三男である。
 俺は早いうちから俺の将来は明るくないことに気づいていた。兄たちは共に優秀で、次期伯爵は長男に決まっており、次男は長男のスペアとして大事にされていても、俺はスペアにもなりえない、ただのおまけ。自分の道は自分で切り開くしかなかった。

 転機が訪れたのは、皇太子であるカイルさまの側近候補として同じ年の子息が集められたことである。ここで認められれば俺は安泰。要領はいいので、うまく立ち回ってカイルさまの側近になることができた。

 カイルさまは側近候補として付き合っている時から、あまり感情がでない方だと思っていた。俺と同じ側近候補だったエメルも、言葉遣いは丁寧だけれど感情に起伏がない淡々とした人だと思っていた。

 ほとんど自分のことを話さないエメルだが、妹のことになると饒舌になった。可愛い、愛らしい、天使のようだ。妹のことをそう話す。妹とはそんな存在だったか? 俺の知る妹とは違う生き物のようだと思った。俺にも妹はいるが、わがまま、煩い、泣き叫ぶ。ヒステリーな母によく似ている。うん、やはり妹という名の別の生き物の話をしているに違いない。

 そのエメルの妹のことを、なぜかカイルさまも妹だという。確かに、カイルさまとエメルは母が姉妹の従兄弟にあたる。だからエメルの妹も親戚だというのは分かるが、妹ではあるまい? よく分からない理屈であるが、カイルさまは妹だと言い張るので、そういうものだと思うようにしていた。

 カイルさまの側近になってからというもの、側近は複数人いても、常にカイルさまの近くにいるのは俺とエメルだけだった。他の側近は、カイルさまに色々と仕事をさせられている。俺も色々させられているが、やりがいはある。カイルさまとエメルと俺は毎日何時間も一緒にいるので、仲はいいと思う。カイルさまはいつも俺に厳しいし、エメルは笑顔で俺に冷たくするけれど、それは仲が良くなって気心しれるようになった証拠だと思っている。そのはずだ。

 噂のエメルの妹に初めて会ったことを覚えている。エメルの言うように、可愛くて愛らしくて天使のような子だった。兄を愛していますと全身で表現して、エメルやカイルさまに愛をささげるのを惜しまない。妹にあれだけ愛されれば、可愛くて仕方なく思えるというものだ。いつも俺を雑に扱う妹とは全然違う。俺もこんな妹なら欲しかった。

 俺がミリィを呼び捨てにできるまでに時間がかかった。ミリィは良いよというのに、カイルさまが許さなかったのである。とはいえ、俺もミリィとは仲良くなれたと思う。

 俺はミリィがカイルさまの執務室にやってくるのが、いつも楽しみだ。毎日仕事づくしのカイルさまは休むという言葉を知らないのか、休憩をまったく入れない。だから俺はこっそり裏で自主休憩をしているのだが、ミリィがやってくるとお茶の時間となるため、堂々と休憩できる。

 ミリィが来ると、カイルさまはいつもデレデレである。最近では俺も慣れたが、笑み崩れた姿を初めて見た時、カイルさまって笑えたんだと驚愕したものだ。俺たち以外の人は、カイルさまは笑わないと思っている人は大勢いると思う。デレデレとか笑み崩れているとか、本当いうとこれは語弊があるかもしれない。普段は無表情か機嫌が悪いかのカイルさまが、少し口角を上げるだけでも、空気が変わるくらいなのだ。それだけでも珍しいのに、本当の笑顔がカイルさまの顔に現れるのである。妹の力とはすごい。

 カイルさまの笑顔が珍しいことよりも、もっと珍しいことがある。それはあの冷静沈着なカイルさまが焦ることである。一度ミリィが泣いたことがある。その時のカイルさまの焦った姿はとにかく面白かった。あんな人でも途方に暮れることがあるのだと思ったものだ。またあんなカイルさまの姿を見たいと楽しみにしていたが、その日が今日、やってきたのである。

 ミリィが来たという知らせは聞いたが、カイルさまは来客中だったために、別室に案内を頼んだ。そして来客が去ったため、ミリィをカイルさまの執務室に呼んだところ、すごく上機嫌でわくわくしているのが分かりやすいミリィがやってきた。

 ミリィのために用意していたお茶菓子とお茶を用意し、カイルさま、ミリィ、エメル、俺が席に着く。

「カイルお兄さまを待っている時、面白い話を聞いたの! うふふふふふ、聞きたい?」

 聞きたい? と聞きながら、聞いて欲しいと聞こえる。

「うん、聞きたいな」
「ちょっとお花を摘みに……これは言わなくてよかった。ちょっと部屋を出た時にね、侍女がこそこそ話していてね!」

 あれ、なんかわかるぞ、この話。カイルさまも何かを察したのか、お茶を飲む手が止まった。

「カイルお兄さま、昨日侍女に夜這いされたって本当!?」
「けほっ」

 あら大変、と言いながら、ミリィはカイルさまの背中をさする。

「夜這いって女の人がされるものかと思ってたけれど、男の人もされるのね。勉強になったわ。こんなこと本にも載ってなかったもの」
「……」

 本? 俺もエメルもちらりとカイルさまを見る。うん、固まっているな。
 ミリィはお菓子を手に取ると、美味しそうに食べてから、楽しそうに口を開いた。

「それでどうだった? 楽しかった?」
「何もしてないから!」
「何も? キスも?」
「してない!」
「えー、食べごろじゃなかったの?」
「食べご……、俺にも選ぶ権利はあるんだよ」
「そうね、確かにね! でも味見くらいしてもよかったのに。あ、このお菓子美味しい! ソロソが頼んだの? どこのお店?」
「こ、これは、街の中央にある花屋の横の店に頼んだものです」

 笑いそうなので、つい声が震えてしまう。エメルは視線を外して一切口出しをしない。

「ああ、あそこね。ミリィも今度行ってみよう! カイルお兄さま、もう少しお菓子を食べて。お仕事するなら砂糖が必要よ」

 ミリィがカイルさまの口元にお菓子を持っていくので、力なくカイルさまが口を開けた。

「でもそうかあ、カイルお兄さまの好みの人じゃなかったのね。残念。でもどういった人が好みなの?」
「……考えたことないよ」
「そんなに難しく考えなくていいのよ。例えば、夜這いされるなら、どんな人だったら食べちゃう?」
「そんなことは二度とないから、例えにする意味がないな」

 おっと、カイルさまの目が据わってきている。

「どうして?」
「皇太子を夜這いするということは、皇太子を暗殺するように襲ったことと同義だからだ。あの侍女は二度と皇宮の地を踏めないし、同じことを起こす侍女がいないよう厳しい通達を出した」

 そう、その始末をさせられたのは俺である。
 カイルさまは人との慣れあいは好きではない。とても潔癖なので、いつも手袋を外さないし、何枚も替えを用意している。触っても問題ないのは、俺やエメル、それにミリィくらいだ。

「……カイルお兄さま、怖かったのね。確かに餌を前にした女性は、獰猛な瞳をして恐ろしいわね」

 皇太子を餌扱い。そして話がずれた。何か違う。
 ミリィは眉間にシワが寄ったカイルさまの眉間を、指の腹でぐりぐりと伸ばしていた。

「カイルお兄さま、ごめんなさい。もう怖い話はやめましょう。お詫びと言っては何ですけれど、ミリィの好きな人の話でも聞く?」
「……え?」
「ミリィのはお子様みたいな話だから、全然刺激とかはないけれど」
「ミ、ミリィ、好きな人がいるの!?」
「うん。もう会えなくなっちゃったから過去の人だけれど」
「「誰!?」」

 カイルさまとエメルが前のめりになった。どうしよう、次々と面白い話が降ってわいてくる。もう笑いたい。

 ミリィの恋を聞いたところ、レストランの給仕とバーテンダーとのことだった。好きな人が二人もいた。けれど二人共急にいなくなったらしい。

 カイルさまとエメルが顔を見合わせた。その一瞬で交わされた会話は、訳は「調査しろ」「了解です」だと思う。

「本当に素敵だったのよ。どうしていなくなったのかしら」

 ミリィがしゅんとして可愛いのに、カイルさまとエメルは殺気だっている。しかし何も反応がないことを不思議に思ったミリィがカイルさまを見ると、その殺気はどこかへ霧散した。そしてカイルさまがニコリと笑う。

「いなくなったものをいつまでもミリィが悲しむのは俺が辛い。もうその人のことは忘れよう。俺がミリィを毎日思っているから。寂しくないように、ミリィにはいつもキスを贈るよ」

 カイルさまはミリィの手をすくい、指にキスをする。これで落ちない女はいないはずなのに、ミリィは赤くなることもなく恥ずかしがることもなく、ただ笑顔を向ける。

「ありがとう。そうね、忘れることにする。ミリィにはお兄さまたちが付いているもの」

 あー面白かった。久々にカイルさまの面白いところが見れた。

 カイルさまの側近というものは、大変なことも多い。けれど、やりがいはある。それに、面白いカイルさまが見れるということは、何にも勝る側近の特権である。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。