七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 131話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 131話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」131話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 131話

 騎士団からダルディエ邸の敷地内へ帰ってきた。本邸には入らず、庭へ向かう。庭を横切っていると、途中で庭師のおじいちゃんとラナに会う。

「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま。まだまだ暑いから、水分取ってね、おじいちゃん、ラナ」

 手を振って彼らと別れ、目的の邸宅へやってくる。確か、ご先祖様のどなたかが、その母のために建てた邸宅である。おじいちゃんたちが管理しているため、庭も綺麗に整理されている。

「特にミリィを呼ぶような声ないよね?」

 卵の化石から呼ばれるような、あの感覚はない。やっぱり違うかも、そう思いながら邸宅の中へ入る。ここの邸宅はカタカナの『ロ』のような形をしていて、記憶と同じように中庭があった。そこに人間ほどの大きさの巨石がゴロゴロとある。そして中央付近に見えるのは、昔は楕円かと思っていた丸い巨石。

 小さい頃来たのは、ここまでだった。中庭を廊下から見ただけである。中庭に面した廊下を一周するが出入口がない。入れない作りになっていた。

「うーん。入れなさそうだなぁ」

 ここまで来てこれとは。やはり今度兄たちかネロを連れて一緒に来ようか。そう考えながら、中庭の窓を見ていた。

「あれ、あそこ」

 中庭を通して二階の窓が見える。そのそばに、ちょうど中庭の巨石のてっぺんがあった。もし二階の窓が開くなら、飛び乗れるかもしれない。

 二階への階段を上り、巨石の側へ行く。窓は開くだろうか、と確認すると、開閉できる鍵が付いていた。試しに鍵を動かしてみると、鍵が下へ移動した。

「開いた!」

 開けた窓から巨石へ足を伸ばしてみると、うまく届いた。そこから、そっと巨石を降りる。そして最後は巨石から飛んだ。

「わあ! できた! 百点満点!」

 一人で拍手をする。ちょっと冒険みたいで楽しい。
 それから中庭の中央へ移動する。やはり卵型のようなゴツゴツとした巨石である。それも八個も。見れば見るほど、卵の化石のように思える。

 巨石の周りをぐるりと回ってみる。かなり大きい。一角の卵の時より大きい。もしかしたら、一角ではないかもしれない。

「……やっぱり一回帰ろう」

 一角じゃなかったら困る。間違って触ったりして孵化させないようにしなければ。

 回れ右して降りてきた巨石へ向かう。

「……これを登れと?」

 降りるときには気づかなかったが、地面にぶっ刺さった巨石は逆三角のような形で登れそうにない。少し焦った気持ちで他の巨石はどうだろうと、窓に近い巨石を見回っていると、カサカサカサと音がする。なんだ? 音のする方へそろっと足を向ける。

 中央の卵型の巨石の上、表面上にあるぼこぼことした石がぽろぽろと落ちていた。見たことがある。これは卵が孵化する前の動き。

「うそでしょ? 触ってないのに」

 ぽろぽろと石が落ちた中から現れたのは、卵の殻。それにヒビが入っていく。パリッと割れた殻から出てきたものは。

「きょ、恐竜?」

 後ずさりしたのは言うまでもない。すると背中が巨石にあたる。

「あいた! ……て、え? うそ」

 背中に当たった巨石は卵型。そしてそれの上からぽろぽろと石が落ちていく。左右を見渡すと、卵型の巨石がすべてポロポロしだしていた。

「やだ! どうしよう」

 最初に孵化した恐竜のようなものの目が私にロックオンされている。

(シ、シオンー! シオン! シオンー!)
(……どうした!)
(助けて! わぁ! こっち来る!)

 生まれた一匹目から逃げる。

(どこにいるんだ!)
(にゃ! ダメダメダメ! ミリィ美味しくないからぁ!)
(どこにいるんだ! ミリィ!)
(邸宅に! わぁ! また生まれ)

 頭の中にシオンの声がするが、もうそれどころではない。次々と生まれた恐竜が私を取り囲んでいる。

「食べちゃだめ! ミリィは美味しくないから! 食べちゃだめ! 食べちゃだめー!」

 両手で顔を覆い、縮こまる。呪文のように美味しくないとずっと唱える。しかし痛みはやってこない。

 きゅるきゅると鳴き声がしている。そろっと指の隙間から見ると、八匹の恐竜が私を見ているだけだった。目が合うが、じーと見るだけである。そろっと手を伸ばす。指の先が恐竜に触れるが、とくに食べられそうな気配はない。

 地面に転んだ形になっていたが、ゆっくりと立った。恐竜は大きく見えるが、背丈は今の私より小さい。もう少し大胆に触ってみても、恐竜は嬉しそうにするだけでされるがままである。

(ミリィー!)

 はっとした。急にシオンの声の大音量が聞こえた。

(シ、シオン! ごめん、大丈夫! 生きてた!)
(ミリィ! よかっ、お前いまどこにいるんだ!)
(どこって、邸宅。庭の湖の先にある四角の建物。中庭のある)
(あそこか! すぐに行くから待ってろ!)

 お、怒っている。それはそうだ、変な通信してしまったのだから。

 それにしても。
 どうしよう、これ。恐竜なんだろうか。なぜか今、その一頭が口を大きく開けて、舌で私の手を舐めている。これは食べられているわけではないはず。そうだよね? そして私の体の匂いでも嗅いでいるのか、体中にこの子たちの顔が。
 四本足だけれども、後ろ足が長くて、前足が短い。後ろ足だけで歩いているようである。顔は何に似ているかと例えるならトカゲだろうか。そして爪が鋭い。

 どのくらいそこに突っ立っていただろうか。恐竜が一斉に同じ方向を向いた。なんだろうと釣られて見ると、兄たちとパパが全員いた。

「パパ!」

 ほっとして、兄たちがいる窓の前まで走る。後ろには恐竜がついてきてる。

「ごめんなさい。孵化しちゃった」

 みんな唖然としている。

「そ……え!?」
「卵かもしれないと思い出して。見に来ただけのつもりだったの」

 恐竜が左右に立ち、私の腕と体の隙間から顔を出した。きゅるきゅると鳴いている。

「触ってないのに孵っちゃって。どうしよう?」
「どうしようったって」

 パパは頭を押さえているし、兄たちは天を仰ぐしかない顔をしていた。

「とにかく、ミリィは危なくないんだな? 懐いているように見えるし」
「うん、大丈夫みたい。きゅるきゅる鳴いてるんだけど、お腹空いているのかな? この子たち何食べるんだろう?」
「ミリィはのんきだなぁ」

 ジュードが脱力気味に言った。
 カサっと音がして後ろを向くと、シオンが二階の窓から着地するところだった。

「あ、シオン!」

 シオンに向かって走る。付いてくる恐竜たちに、念のため「シオンを食べちゃダメだよ」と言っておく。すぐにシオンが私を抱きしめた。

「もー、バカだろ、ミリィ」
「ごめんなさい」
「俺がどれだけ心配したか分かるか?」
「うん。ごめんなさい」

 最後にぎゅーと力をこめられ、それから体を離された。

「心臓止まるかと思った。帰ったらお仕置きだからな」
「え」
「無茶した罰だ」

 ぐうの音もでません。

 それから、この恐竜が何を食べるのか分からないため、邸宅から色々食事を持ってきてもらった。一番ありえそうな肉は食べず、魚も食べない。とりあえず水は飲んだ。それから木の葉や枝、木の実は食べるようだった。どうやら草食のようなのでほっとした。

 この恐竜は私が恐竜と呼んだため、名前は恐竜となった。相変わらず私のネーミングセンスがない。ただ兄たちは私の知る恐竜がそもそも何なのか分からないようなので、まあいいかと思っている。

 恐竜の卵の化石がここにあるのは、パパも兄たちも知らなかった。この邸宅の中庭に巨石があること自体は知っていたが、ただそれだけの認識だったようである。また中庭に入れる入口は一階にはなく、私が使った二階の窓から出入りするしかなかった。

 それから問題点が一つ。
 恐竜の私の後追いである。本邸へ帰ろうと、シオンに抱き上げてもらい二階の窓から帰ろうとしたところ、恐竜もついてきてしまうのである。巨石を使って二階へ上がり、窓から無理やり入ってこようとするので、とりあえず私とシオンは中庭に残ることになった。仕方ないので、今日は中庭で一晩過ごすのである。

 中庭には屋根がないので、簡易的に布とロープで屋根を作り、地面に布を引く。クッションを布の上にたくさん敷き詰め、簡易ベッドとした。食事はネロが運んできてくれた。ネロも卵だとは知らなかったらしく、長生きすると面白いことがあるね、と笑っていた。今日はネロも一緒にいてくれるらしい。ネロが寝ずの番をしてくれている中、私はシオンと眠るのだった。

 そして次の日の朝。
 ネロの助言で、三尾が連れてこられた。「三尾は子供好きだからぁ」とネロは言うが、それとこれとどんな関係が? と思ったことは黙っておく。なぜかと言えば、まさかの三尾のお陰で、恐竜の私の後追いがなくなったからだ。

 最初は三尾を遠巻きにしていた恐竜だが、三尾がぐいぐい距離を縮め、その日の内に仲良くじゃれだしたのだ。種族を超える愛だろうか。よく分からないが、三尾のお陰で助かったのは間違いない。しばらくはこの中庭で、三尾に恐竜の育児を任せた形になる。私もしばらくは毎日様子を見に行った。

 そして恐竜の誕生から一か月後、恐竜の住居を騎士団へ移した。中庭でずっと育てても、いつかは成長して手狭になるのは間違いないからである。草食のため人間を襲ったりはしないし、シオンが第二の一角のように、背中に乗ったりできるかもとわくわくしていた。私が孵化させてしまった以上、私にできることはしようと毎日騎士団へ通っている。

 ちなみに、シオンからのお仕置きだが、五日間嫌いなミニトマトを一日十個食べるというものだった。あのじゅくじゅくが嫌いで、半泣きで食べることとなった。

 それからも充実した日々が続き、あっという間に冬が通り過ぎて春となった。社交界シーズンのために帝都へ向かう。今年もシオンだけは帝都に行かないと言って、ダルディエ領に残って恐竜と遊んでいる。恐竜が生まれて一番楽しんでいるのはシオンで間違いない。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。