七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 128話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 128話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」128話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 128話

 今日は朝からテイラー学園へ行こうと、男装した私はエメルと一緒にカイルを待っていた。学園へ行くときは、カイルとエメルは普段であれば別々に行くのだが、私もテイラー学園へ行くと言ったところ、迎えにくるから一緒に行こうと言われたのである。

 カイルがやってきたと使用人が知らせに来たので、馬車へ向かった。馬車の扉を開けると、カイルが微笑んでいる。

「おはよう、ミリィ」
「おはよう、カイルお兄さま。あのね、エメル以外にもう一人いるのだけど、一緒に馬車に乗ってもいいかしら?」
「え?」

 私の後ろから緊張した表情のアナンが前へ出た。

「ミリィの護衛なの。いずれ一緒にテイラー学園へ行く予定なのだけど、早めに下見をさせたいって、ディアルドが言っていてね。今日一緒に見学するようにって」
「……もちろん、いいよ。乗りなさい」

 ほっとした。アナンも行くなら、ダルディエ公爵家からも馬車を出そうか迷っていたのだ。しかしせっかくカイルが迎えに来ると言っていたので、私とエメルがカイルの馬車に乗り、アナンだけ公爵家の馬車に乗せる手も考えたのだが変な話である。カイルならアナンを乗せることを駄目って言わないだろうと思っていたが、案の定だったので良かった。

 カイルの横に私が乗り、前にエメルとアナンが乗った。馬車が動き出して、カイルは私の手を取った。

「……君はミリィの護衛と言ったね。アナン、アナン・ル・リカーだったかな?」
「は、はい。そうです」
「カイルお兄さま、よく知っているのね?」
「前回の夏、ダルディエ領で見かけたからね」

 カイルがアナンをずっと無言で見ている。なんだろう、護衛としてアナンは適任かどうかを見ているのだろうか。アナンは護衛といっても、まだ護衛見習いのようなものだ。今日だって護衛として私に付いて回るために来たわけではなく、テイラー学園のどこになにがあるか把握しに、下見にやってきただけである。なので今日はアナンのことを大目に見てほしいのだが。
 カイルがあまりにもアナンを見るものだから、アナンは縮こまっている。蛇に睨まれた蛙のようである。
 ちらっとエメルを見ると、ただ笑って返されてしまった。最近このパターン多いな。まあいい。カイルもさすがにアナンを取って食いやしないだろう。ここはアナンの試練と思って放っておく。

 テイラー学園に到着し、私とアナンは見学の手続きである。おなじみの職員が対応してくれて、アナンはともかく私はいつもどおり顔パスかと思いきや、思ってもみないことを質問された。

「見学は問題ありませんが、ルカくんは今年入学しなかったのですか?」

(しまった!)

 よく考えたら、私の年の男の子は、テイラー学園の一年生として入学しているのである。同じ年のルーカスだって入学しているのだ。
 予想外のことに汗がふきだした。どうしようと思っていると、エメルが後ろから私の肩に手を置いて微笑んだ。

「ルカは少し体が弱くて、今年の入学は見送ったのですよ。転入自体は試験さえ受かれば、いつでもできるでしょう」
「ああ、なるほど。分かりました。見学へどうぞ」

 エメルに手を引かれながら、ほっと息をつく。

「ありがとう、エメル。ドキドキしちゃった」
「これくらい、何でもありませんよ」

 後ろを付いてくるアナンを確認し、カイルと教室へ向かっていると、向こう側で知った顔が手を降っていた。ソロソである。

「ルカ、いらっしゃい。男装してても相変わらず可愛いですね」

 ソロソが頭を撫でようとすると、その手をカイルが握った。

「許可した覚えはないが」
「ええ? カイルさまの許可がいるんです?」
「当然だろう」

 えー厳しくないですかー、と言うソロソも一緒に歩いていると、遠くの方で人が集まっているところがあった。

「あれ、どうしたの?」
「ああ、あれは先日の試験の順位が載っているんでしょう。今日貼り出すと言っていましたからね」
「見に行かなくていいの?」
「見なくても分かりますから。それにわざわざ報告してくる人が大勢いますし」

 集団には一切近づかず、私たちは教室へ入った。見学する旨はソロソが先生に伝えてくれているらしい。席にはエメルと私とカイルで一席、その後ろにソロソとアナンが座った。ちらちらと私たちを見ている生徒がいる。見学が珍しいのだろうか。そういえば、女生徒が入る四年生以降のエメルたちと見学するのは初めてだった。

「ごきげんよう、皇太子殿下。エメルさま。こちらの方は?」

 女生徒が数名近寄ってきた。

「ごきげんよう、みなさま。うちの末っ子なんですよ。今日は見学しますので、よろしくお願いしますね」
「まあ、やっぱり! 先日の夜会でジュードさまにお会いしたのですが、とても似てらっしゃいますね」

 エメルがにこやかに笑みを返す。そこに教室へ入ってきた生徒たちが、わらわらと周りに集まってきた。

「皇太子殿下、エメルさま、ソロソさま。おめでとうございます! 試験の順位、また上位を独占されていましたね!」
「そうでしたか、ありがとうございます」
「もうずっと変わらない順位、さすがです!」

 興奮している周りの生徒と、落ち着いて笑うエメルの温度差がすごい。それからすぐに先生が入ってきたため、集まっていた生徒たちは席へ戻っていく。

「順位はどうだったの?」

 こそっとエメルに聞くと、後ろからソロソが答えた。

「変わらないって言ってたから、カイルさまが一位、エメルが二位、俺が三位だよ」
「え!? ……ソロソも頭いいんだね?」
「ええ? 何その驚きよう。俺のことなんだと思ってるの?」
「えっと……おとぼけ要員?」
「ひっど」

 カイルとエメルが隣でくすくす笑っている。それを驚愕の表情で見ている生徒たちがいた。なんだ? カイルを見て驚いている気がする。

 それからいくつかの講義が終わり、兄たち三人と私とアナンは食堂へ向かう。私はグラタンと薪のオーブンで焼いた鶏肉の一皿プレートを頼んでもらい、五人で席に着く。

「ルカ、そのグラタンまだ熱そうだから気を付けるんだよ」
「うん」

 ふうふうしながら食べ、今日のデザートはアップルパイと書いてあったのを考える。食べたいけれど、食後にはそんなに入らない気がする。けれど食べたい。

「ねーエメル」
「うん?」
「今日のアップルパイ……」
「俺と半分にして食べようか」

 エメルに言おうとしていたことを、カイルが言った。

「いいの?」
「いいよ。待ってて」

 カイルがデザートを頼みに行った。

「あーあ。自分で行っちゃったよ。俺が行くのに」

 ソロソが呆れ気味に言って席を立った。

「ソロソもアップルパイかな」
「たぶん紅茶を取りに行ったのですよ」

 カイルがアップルパイを手に戻ってきた時、ちょうどソロソも紅茶を人数分取ってきた。エメルの言うとおりである。

「ありがとう、カイルお兄さま」
「どういたしまして。はい」

 カイルが一口分のアップルパイをフォークで口元へ持ってくるので、口を開けた。

「どう?」
「美味しい! ほんのりシナモンが香ってる」

 ざわざわざわと周りが騒々しいなと思い見ると、生徒たちが驚愕や顔を赤らめたりという表情でこちらを見ていた。なんだ? アップルパイが食べたいなら自分で頼めばいいのに。これが最後の一つだったりしないよね。

「もう一口?」
「あ、うん」

 口を開けると、またざわつく。本当になんなんだ、気持ち悪い。エメルを見ると、笑い返された。うん、やはり何かわからん。カイルを見ると、カイルもアップルパイを食べているところだった。

「美味しいでしょ? パイ生地がサクサクなの」
「そうだね」

 カイルが笑って優雅にお茶を飲む姿は、ここがテイラー学園だということを忘れそうなくらい絵になる。ふっと前を見ると、顔を赤くした女生徒が大勢こちらを見ていた。

(なんだ、アップルパイじゃなくて、カイルお兄さまを見て騒いでたのか)

 いつも無表情が普通のカイルだから、笑うカイルが珍しいのかもしれない。そういえば、カイルはモテるとエメルが言っていたことを思い出す。
 あとでカイルとエメルのことを好きそうな女生徒を数えて楽しもうと思うのだった。もし可能であれば、逆に兄たちが好きな女性とかもチェックできるとなお良い。兄の恋バナなんて楽しすぎる。楽しい遊びを見つけて上機嫌である。

 それから食堂を出て教室に向かっていたところ、知った顔に遭遇した。

「何でいるの!?」
「ルーカス」
「いや、おかしいだろ、ミ……わぁ! 今何しようとした!」
「何言おうとした?」
「あっ!」

 一撃必殺技の一つ、喉を潰す攻撃をルーカスに食らわせようとして、気づいたルーカスは間一髪で避けた。そもそも当てるつもりではないので、避けなくても当たらなかったが。以前から一撃必殺技を私が練習しているのを知っているルーカスは、何度か練習に付き合って食らっているので、その痛さを知っているのである。
 ルーカスは口を押えた。ミリィと呼ぼうとしたことに気づいたのだ。

「わ、悪い。ルカ。……でもさっきのは無いだろう」
「当てないよ。最近精度ばっちりだから」
「信用ならないんだけど。……あ」

 ルーカスはカイルとエメルに気づき、そして後ろを振り返って、友人なのか、彼らに言った。

「先に行っててくれ。ルカはちょっとこっち」

 ルーカスに手を引っ張られ、エメルたちから離れる。

「何でいるの?」
「見学しに」
「お前女じゃん」
「だから男装してるでしょ」
「えー……、いいの? それ」
「ディアルドがいる時から、よく見学に来てるんだ」
「そうなの?」

 ルーカスは少し驚き、またエメルたちを見てビクっとした。

「は! まずい! お前さ、ここにいる間、俺に近づくなよ」
「なんで?」
「何でって、俺が睨まれる。はっ!」

 手を握っていることに気づいたのか、勢いよく手を離した。そして私の背中を押してエメルたちの側まで連れていく。

「じゃ、じゃあ、俺は失礼します!」

 ルーカスは走って去っていく。忙しないな。

 それから一つ講義に出席し、生徒会室へやってきた。三人とも生徒会のメンバーらしい。カイルは今年から生徒会長もやっているらしく、皇太子としての仕事もあるのによくできるなと思ってしまう。

「今の時間、ダンスの時間でしょ? 行かなくていいの?」
「この時間は成績に関係ないですからね。ダンスは踊れますし、私たちに利点はないですし」
「利点?」

 メリットがないということか。ただのレッスンではないのか。

「ルカ、ダンスの時間はね、カイルさまやエメル、俺! の争奪戦が始まるからね。面倒なんだよ」

 ソロソは俺! と言う時だけ得意そうに言いながら説明する。

「なるほどね。モテる男はつらいねぇ」
「そうだねぇ」

 お茶を準備するソロソの横で、アナンが手伝っていた。

「今日ね、確認できた範囲で数えたの」
「何を?」
「みんなのことを好きそうな女の人!」
「「「え」」」

 三人の声が揃った。

「カイルお兄さまが十二人でしょ、エメルが四人でしょ、ソロソが二人。同じ学年だけでもこれだけいるんだもの、みんな夜会ではたくさんの女の人に囲まれるんじゃない?」
「ミ、ミリィ、俺は好きな女性はいないからね」
「ルカでしょ、カイルお兄さま。今は好きな人いなくても別にいいの。カイルお兄さまなんて、選び放題よ! ミリィはあのはちみつ色の髪の女の人が好きな感じだったなあ。美人で優しそうなんだけど、芯が通っていて誠実そうだったし。エメルを好きそうな四人の中には、ミリィは好きな感じの人はいなかったから置いておいて……」
「ル、ルカ。それくらいにしておこうか、カイルさまがショック受けているから」

 ソロソが言ったので、カイルを振り返る。

「え? どのあたりがショック? はちみつ色の女の人はカイルお兄さまの好みじゃなかった? 別にその人にしてって言ったんじゃないの。まだまだ人生長いもの、ゆっくり決めましょ」
「……そうだね」

 脱力気味に言うカイルに首をかしげる。そんなにショックなことを言ったのだろうか。あくまでも私の好みの女性だったっていうだけで、押し付ける気はないのだが。

 その後お茶とお菓子を食べるために席に着こうとしたら、カイルが私を膝に乗せると言い張るので、なぜかカイルの膝に座ってのお茶会となった。頭にカイルが顔を乗せてくるので、すごく食べづらい。

 それからもう一つ講義を受け、家へ帰るのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。