七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 116話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 116話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」116話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 116話

 雪のちらつくダルディエ領の冬、私は騎士団にて馬に乗る練習をしていた。練習は順調で、誰かと一緒に乗らなくても一人で乗れるようにはなった。ただし、馬を人が引いてくれればであるが。

 馬を騎士に歩いて引いてもらいながら、私は一人で馬上にいた。本当は人に引いてもらわずとも一人で馬を進めたいのだが、なぜか普通の馬は私が一人だと前に進まず、じーと私を振り返って見てくるのである。前を向いて進め! と言ってみても、じーと私から視線を外さない。私がそんなに気になるのだろうか。これもたぶん動物遣いのせいだと思う。

 その点、一角なんかは私を見ないで動いてくれるが、兄たちがまだ一角に一人で乗せるのは嫌がるのでほとんど挑戦していない。一度、私が孵した一角の子供たちに乗った。まだ大人の一角より小さいし乗りやすいだろうと思ったのだが、一角の子供たちは私が乗ると大興奮で変な動きをするので、私が気持ち悪くなって乗るのを止めたのである。

 まあこの調子なら、もう少し頑張れば一人で颯爽と馬に乗れる日もやってこよう。練習あるのみである。

 最近は体力をつけるために走る時間も少し長くなった。私自身、体力が付いてきている感覚がある。少し走ったくらいでは疲れなくなったので、体幹を鍛えるだけでなく、筋トレもメニューに入れた。やりすぎるとやはり熱が出たりするので、もちろんやりすぎには注意であるが。

 そうこうしているうちに春が近づき、社交界シーズンのために帝都へ移動した。

 少年の格好をし、金髪のカツラをかぶって、テイラー学園へ向かう。見学の申込をしていると、呼び出された双子がやってきた。

「ルカ。いらっしゃい。次は剣術だから、すぐに場所移動なんだ」

 少年の格好の時はルカ呼びだと心得ている兄たちは、何も言わずともこう呼んでくれる。バルトが私を抱えると、双子は大股で歩き出す。
 見学者には普通、誰か学園の職員が付くものだが、私の場合兄たちの誰かがいつも付くのは分かっているので、職員は手を振るだけだった。

 剣術の訓練場は、見事に男ばかりであった。双子の学年は女子もいるので、見学席に女子が座っている。講義を入れていない者は、自由に見学ができるらしい。私も見学席で見学しているが、女子がものすごく熱心に見ていた。どうみても視線の先は双子である。一応貴族令嬢たちなので、お上品な表情ではあるものの、熱い視線は色を含んでいるし、扇子の下は絶対にやけているだろう。見えないけれど、そんな気がする。

 元々、北部騎士団で鍛えている双子の剣筋は洗練されている。テイラー学園へ通う学生の中には、将来騎士を目指しているものもいるので、幼いころから訓練しているものも少なくはないのだが、その中でも際立っているのが双子である。ダルディエ公爵家の兄たちの中で一番戦闘技術に長けているのは間違いなくシオンであろうが、双子も昔から意外と血気盛んで、戦闘力が高いのである。

 途中から対戦形式に移行し、広い訓練場で三カ所に別れ、それぞれ一対一で練習試合のようなことをしだした。双子は集中すればいいのに、誰かが対戦している間、見学している女子に向かって手を振っているものだから、双子を睨んでいる男子がいる。なんだろう、見学している女子の中に、睨んでいる男子の思い人でもいるのだろうか。双子を睨んだとて、双子はそういったものを意に介さないので無駄なのだが。

 結局、その睨んでいた男子は、運が良いのか悪いのかバルトと対戦し負けていた。もっと頑張れと言うしかない。

 剣術の時間のあとは昼食のため、双子と食堂へ向かった。何が食べたいか聞かれたが、私はそんなにお腹が空いていないので、パンとサラダとデザートをお願いした。双子に左右に囲まれ食事をしていると、女子がわらわらと同じテーブルに集まってくる。どこでも女子に囲まれるんだなと思いながら、アルトの食べている鶏肉の香草焼きが意外と美味しそうで見ていると、アルトがあーんと差し出してくれた。うん、ここの食堂は種類は多くないが、味付けはいい。デザートも美味しくいただいたところで、食堂を出ようとしたところ、エメルとカイルとソロソに会った。

「ミ、……ルカ。今日は見学だったの?」

 カイルが一瞬間違ったが、名前を軌道修正。よしよし。

「そうだよ。アルトとバルトの講義に交じろうと思って」
「そうなんだ。こっちに来ればいいのに」

 カイルの言葉にエメルも頷く。双子を見ると、アルトが繋いでいた手を離した。

「いいよ、行っておいで」
「うん」

 双子に手を振り、カイルとエメルの手を握った。

「講義の先生に許可貰ってくれる?」
「もちろん」

 エメルとカイルはまだ二年生であるため男子のみである。共学となるのは四年生からなのだ。二人と一緒に講義を受けるのは初めてだったので、楽しみである。次の講義は数学だったので、これなら私も得意だ。ただ単純な数学ではなく、自分が経営者になった場合を想定した上でグループを作って売上や効率を話し合ったりするものだった。面白い講義だった。

 その後も一緒にいくつかの講義を受け、帰りはエメルとカイルと一緒にダルディエ邸へ戻ってきた。寮住まいの他の兄たちと違い、二人は通い組なのである。週末の休みに皇太子宮を訪ねることを約束し、カイルは帰っていった。

 そして週末。約束通り皇太子宮に向かう前に街へ寄った。最近お気に入りのお茶菓子を持って行こうと思ったのである。神髪で出かけると街では目立つため、この日は少年服に金髪のカツラをかぶっていた。胡桃とチョコを使ったお菓子を入手し、馬車で皇太子宮へ向かった。

 皇宮ではいくつかの関門を抜け、いつも静かな皇太子宮の前で馬車は停まる。護衛と馬車には違う場所で待機してもらうようにお願いし、お菓子の袋を持って上機嫌で皇太子宮に入った。ところが、いつも顔パスの階段前で騎士に止められたのである。

「ここから上へはお通しできません」
「でも、いつも私は通っていいんだよ」
「いつもがどうだったのかはともかく、本日はお通しできません」

 がんとして譲らない騎士である。そういえば、あまり見かけない顔だ。

「本日はって、どういうこと? 約束してるんだよ」
「そんな話は聞いておりません」

 背の高い騎士に上から見られると、ものすごく怖い。

「で、でも、いつもは簡単に通してくれるのに」
「簡単に通すなと、そう言われております」
「……私を通すなと言われたの?」

 そんなはずない。いつでも来ていいとカイルは言っていたのだ。今回は約束もしている。

「そうです。約束もなく、ここを簡単に通っていく人が多いもので」
「……約束してるもん」

 そのはずだ。朝からエメルも、今日来るんだよね、と聞いてきたから知っているはずなのに。でも確かにカイルは皇太子。もしかしたら、私が簡単にここを通ることが問題となっているのかもしれない。

 それならそうと、言ってくれればいいのに。来るなと言われれば、私だって無理やり来たりしない。皇太子に会うために、本来であればたくさんの形式があるのは知っている。それらが必要ならば、必要な手続きだってちゃんとする。カイルに会うためなら、面倒がらずにやるのに。

 じわじわじわと目頭が熱くなり、涙が盛り上がる。
 こんなところで泣けば、この騎士に冷笑されるだけだ。そんなの悔しい。見られたくないのに。気持ちに反し、涙が溢れそうになるのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。