七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 115話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 115話

このページでは小説を掲載しています。
七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」115話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 115話

 エメルやカイルも夏休みでダルディエ領へ帰ってきて、いつものように賑やかな夏を過ごしていた。

 そしてある日の午前中。
 私は庭の生垣でできている迷路に足を踏み入れていた。この迷路は迷子になるので一人では入らないのだが、入口付近ならまだ迷わないため現在一人である。一人というと語弊はある。実は私を隠れて見ている人がいるからだ。

「ダメです、アルト様。私まだ仕事が残っていて」
「ああ、ひどい人だな、目の前に俺がいるのに。仕事の方が気になるなんて」

 アルトは右手で使用人の腰を引き、左手は使用人の手を取り指先にキスをしている。使用人はトロトロにとろけた瞳をアルトに向けている。まったく嫌がっていない。

 私を隠れて見ている人がいる中、私はというとなぜかアルトが口説いているところを顔だけ半分生垣から出して見ていた。完全に盗み見である。でも問題はない。こういう覗きはどうかと思うが、兄なのでまったく罪悪感ない上に、ドラマでも見ているようで面白い。

 あともう少しで二人はキスしようかというところで、私が手で支えていた枝が折れる音がした。

「あ」

 音に反応した使用人とアルトがこちらを見る。
 アルトは私を見てもまったく慌てもしないが、私に気づいた使用人は、顔を真っ赤にしているのに器用に青くなった。

「お、お、お嬢様! わ、私! もう仕事に戻ります!」
「あ、そっちは迷路の奥……」

 慌てすぎて迷路の奥へ行こうとする使用人に声をかけると、使用人は脱兎のごとく戻ってきて迷路の入り口へ引き返した。私の後ろを通ったあと、小さな悲鳴が聞こえたので、私の後ろに隠れていた人たちにも会ったのだろう。

(あー、可哀そうに)

 少し不憫に思っていると、私の頭上に影が差した。視線を寄越すと、アルトがやってくれたな、という表情で私を抱え上げた。やはりこれは私のせいなのだろうか。

「隠れていないで、出てきたら?」

 私の後ろにいたニヤけた顔のバルトと、しらっとした顔のシオンが出てきた。

「せっかく楽しんでいたのに。ミリィを使って邪魔するなんてひどいだろ」
「だって俺もやられたんだもん。アルトばかり楽しんじゃ、ずるいだろ」

 まったく悪びれもせずバルトは言う。

「バルトはミリィが邪魔したんじゃないもん。ナナを追いかけてたら、温室でバルトがキスしてただけだもん。あんなところで遊んでたバルトが悪いの。温室はママもよく行くのに」
「あー、なるほどね。で? シオンがいるのは何で」
「俺はさっきバルトに面白いものが見れるから来いって誘われただけだ」

 アルトがバルトを見る。互いに笑って済ませているが、アルトの覚えてろよ、という声が聞こえる気がする。

「二人共、遊ぶのはいいけれど、ミリィの侍女はだめだからね?」
「んー?」
「ごまかさないで。ミリィの侍女に優しくするのはいいけれど、手は出しちゃだめ」

 私の侍女は結婚適齢期前の花嫁修業目的で入っている娘が多い。だから数年に一度は侍女が入れ替わるのだが、身許がはっきりしていることはもちろん、下級貴族か平民でも上流階級のものばかりである。自身がいいとこのお嬢さんであるため、男性に免疫が少なく、双子なんかに迫られたらあっという間に転がり落ちるだろう。だいたいは婚約している子も多いため、私の侍女だったら安心と思って娘を侍女にしたのに、その兄に恋でもしたとなれば、侍女の親は目も当てられない。だから私の侍女だけは、兄の毒牙から守らなければ。

「ミリィの侍女かわいいのに」
「それでも駄目なの!」
「えー? じゃあ他ならいいの? 他の使用人は?」
「さっきの子とか? 無理やりじゃないのなら、いいと思うわ。お互い合意の上でしょう」

 双子のことだ、だいたいは双子に本気になりそうな子には手を出さないだろう。あくまでも遊びととらえることのできる子を選んでいる節がある。双子もその相手も、お互いが遊びと割り切っていて、その場を楽しんでいるだけならば、私がどうこう言う権利はない。

「そういうとこ、うちのミリィは大人だなぁ」

 そう言いながらも、頬にキスをしてくるアルトは、私を子ども扱いしていると思う。

「俺は口出す気はないけど。ディアルドやジュードにバレるなよ。特にミリィを巻き込んでると知られたら、ただの説教じゃすまないのだから」

 シオンの言葉に、双子は面倒そうに「ああ、うん」と答えた。上の兄二人の説教を想像したのだろう。

 そんな双子の遊び事情に絡みつつ、夏休みはあっという間に過ぎていった。

 シオン、双子、エメル、カイルの兄たちが帝都へ戻り、私は十歳となった。この現世に生れてもう十年も経ったのかと感慨深いものがある。

 秋になり、私の家に住んでいるアナンとカナン兄妹から今後についての話を受けた。将来何をしたいのか、考えてもらっていたのだ。二人のやりたいことを聞いて驚いた。

 アナンは将来的に私の護衛をしたいという。そのために体を鍛えたいとのことだった。カナンは私の侍女になりたいという。だから今から侍女になるための技術を学びたいという。

 どうして二人共私に絡む仕事をしたいんだろうか。もし私が先日の事件で助けたからと思っているのなら、そこまで恩義は感じる必要はない。確かに兄たちがあの事件を解決したことになっているが、兄たちは私を助けた、ついでに子供たちも助けた、という認識なのだ。たまたま私がその場にいたから、アナンとカナンも助かったに過ぎないのである。

 けれど、アナンはあの時助けられたことで、力を付ければ誰かを助けられることに魅力を感じたというのだ。またどうやら影のネロにも興味があるらしい。妹カナンは兄のエナンが殺されたことで、もう一人の兄アナンまでいなくなるのが怖かった。しかしアナンを助けた私にとにかく感謝しているから、「一生かけて私を捧げます!」 と異様な視線で言われた、私のいわれのない不安をどうしてくれよう。私が助けたのではないと言っているのに、カナンにはまったく通じないのである。

 しかし、二人の希望はできるだけ協力してあげたい。そこで、ディアルドに相談しようと思ってディアルドを訪ねるとパパもいたので、二人にまとめて相談した。

 そこで決定した事項は、アナンはまずダルディエ家直属の護衛騎士に預けることとなった。ダルディエ邸の敷地内に護衛用の訓練場があり、そこの護衛団長に鍛えてもらうのである。また、その訓練の合間にネロから影の技術も学ぶこととなった。

 それからカナンは家政婦長から色々と教えてもらうことになった。侍女になること以前に、使用人の仕事を一通り教えると聞いているので、大変だとは思う。うちの家政婦長、何気に怖いしね。私は怒られたことないけれど、双子なんか、よく睨まれている。双子はまったく気にも止めていないが。

 それから、もう一つ。アナンとカナンには、私の家庭教師のおじいちゃんから勉強も教えてもらうこととなった。これにはアナンは嫌な顔をしていたが、パパとディアルドの話では、いずれ私がテイラー学園に行く時に、一緒に入学することを想定しているようだった。アナンとカナン、何気に私と年が一緒だったのである。二人は貴族であるしね。それに確かに、学園へ通う時に私も気心知れる人が近くにいてくれるのは助かるのだ。

 そんなこんなで色々と決まったので、アナンもカナンも毎日忙しそうにしている。けれど表情は明るい。私も二人の成長が楽しみである。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。