七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 113話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 113話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」113話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 113話

 あと数日もすれば、帝都から夏休みのため、兄たちがダルディエ領へ戻ってくるだろうという日を指折り数えながら待っていたある日。ディアルドがカロディー家へ仕事に行くというので、私もついて行った。

 実は去年カロディー家三女のユフィーナは、無事テイラー学園に入学したらしいと聞いていた。シオンと同じ学年なのである。ディアルドから聞いていたが、入学前でバタバタしているのは分かっていたため、会いには行かなかったのだ。

 入学自体はお祝いしたい話だが、それよりも別にお祝いしたいことがあったのだ。しかしこれも三女が忙しいだろうと思い、聞きたいのはやまやまだったが我慢していた。

 しかしうちの兄たちより数日早く帰宅すると聞き、こうやってディアルドと共にやってきたのである。ディアルドはいつもどおり執務室にこもってしまったので、私は久しぶりに三女とお茶会である。

「一年経って今更な話ですけれど、ユフィーナさま、テイラー学園へ入学おめでとうございます」
「ありがとうございます。これもミリディアナさまのお陰ですわ」
「いいえ、ユフィーナさまの努力の賜物です」

 三女は今でも私が発破をかけたおかげだと思っているのである。そしてもう一つのことも。

「それに、居候だったお二方にはご退去願えたようで。本当に良かったと思います」

 ユフィーナは肯定するように微笑んだ。
 そうなのだ、あの傲慢な長女と次女、いや元長女と元次女の追い出しが成功したのである。

 まずは元長女と元次女と繋がっていた家政婦長を辞めさせた。二人と一緒になってお金を使っていたからで、二人を追い出すためにも邪魔だからである。それから信頼できる者を新たに家政婦長につけた。そして三女と長男を見下す使用人は辞めさせ、元長女と元次女から屋敷に使う内部の予算管理の権限を奪い返した。そして使用人の味方を増やし、最終的には家族でもないただの居候である元長女と元次女を追い出したのである。
 本来であれば、使い込んだお金は返してもらうべきだが、それに関しては不問としたという。今後一切カロディー家に関わらないことを条件にであるが。

 テイラー学園に入る前にギリギリとはなったが、なんとか間に合ったと三女はほっとしたという。それはそうだ。ディアルドやジュードが時々ここへやってくるとはいえ、長男はしばらく一人で生活するのである。三女も長期の休みになれば戻ってくるだろうが、週末の短い休みに戻ってこれるほどカロディー領は帝都から近くはないのだ。だから少しでも憂いがあれば取り除いておきたいというのは、長男に対する姉心である。

 本当によかったと思う。最近は私より二歳上の長男も、だいぶ成長したというし、しばらくカロディー家は安心である。

 それから、明日カロディー領の隣町で夏祭りがあるらしいため、三女と長男と一緒に行く約束をした。ディアルドは仕事をするというので、一緒に行けなくて残念である。

 そして次の日。護衛を連れて三人で隣町へ向かった。馬車で一時間ほどの距離であるが、なかなか大きい祭りのようで人が多くいた。今日は三人とも貴族というより、もっと軽装の商家の子女の恰好である。迷子になるといけないので、私は長男と手を繋ぎながら歩いた。小さい包み紙のお菓子がたくさん売っていて、たくさん買ってポケットに入れた。サーカスとは違うが、サルを使った見世物や人間が芸をしているのを見物した。

「少し休憩しましょうか」

 三女の言葉に賛成した。楽しいが人が多く歩きづらいため、足が痛くなってきていた。どこか座れるお店に入ろうと移動するが、人が多すぎてなかなか前へ進めない。そんな時、長男からくぐもった声がした。手を繋いでいるはずの長男が、少し高い位置にいる。あれ、と思った時には、私も誰かに抱えられていた。男は私と長男を左右に抱え、わらわらと人がいる間を器用にするすると抜けていく。護衛と目が合い、こちらに手を伸ばすが、人が多すぎて届かない。私と長男はあっという間に攫われてしまった。

 ガタガタと揺れる馬車。それは貴族が乗る馬車とは違い、乗り心地が悪く、椅子もない。ただの大きい箱に車輪を付けているだけの劣悪な馬車である。その箱の中には、私や長男を含め、子供が数名乗っていた。口に布を当てられ縛られているため、声も出せない。長男は気を失ったままである。私以外にも数名目を開けた子供がいるが、みな怯えていた。

 どうやら子供ばかりを誘拐しているようである。たぶん、私や長男も子供というだけで攫われたのだろう。貴族だという理由ではないと思う。他の子供も服装はまちまちだが、この中では私と長男が一番いい服を着ていることは間違いない。他は平民の子たちであろう。

 攫われた時はまだ昼間だったが、唯一馬車に付いている格子付きの窓を見るに、すでに夜になったのは分かる。今回私は二度目の誘拐である。以前はザクラシア王国でシオンとも連絡が付かず不安だったが、今回はすでにシオンと連絡ができていた。夏休みのため、双子とともにダルディエ領へ帰郷の途中だったらしいが、進路を変更し、今こちらに向かっているという。

 ただ向かっているとはいえ、私自身、今どこにいるのかさえ分からない。馬車が走った距離から祭りのあった街からそこまで離れていないとは思うが、シオンはどうやってここを見つける気なのだろうか。

 また、たぶん三女か護衛がディアルドにも連絡してくれていると思う。だから攫われているとはいえ、恐怖はまったくなかった。兄たちが迎えに来てくれるのは分かっているからである。

 問題は、どれくらいの子供たちが攫われているのかである。この馬車の中には十名ほどいるようだが、これから向かう先にも他に攫われた子供がいないとも限らない。シオンには子供がたくさんいることは伝えてあるので、どうにかしてくれるとは思うが、なにぶんシオンは私さえ連れ戻せれば他はどうでもいいタイプである。もう少し、シオンにはみんなと一緒に助けてね、とアピールしたほうがいいかもしれない。

 そんなことを考えているうちに、馬車が止まった。とりあえず目を瞑り、気絶しているフリをしておいた。馬車の子供たちは大人の手により運ばれ、石畳の牢のようなところに入れ込まれた。予想どおり、その牢には子供がいた。私たちより先に攫われてきた子供のようだった。牢の出入口は鉄の頑丈な柵で覆われている。柵とは反対側の天井付近に鉄格子付きの小さな窓がある。その窓の下に地面らしきものが見えるので、ここは半地下だろうか。

 子供たちを見て、私はあるチェックをした。子供たちの中には、私と同じ年齢の子もいそうで、また女の子であるなら警戒したほうがいいことがあるのだ。そう、この中にウィタノスはいないかどうかである。慎重に一人ひとり顔みて確認するが、ウィタノスと感じる子はいなかった。とりえあえず、そこは安心してよさそうとほっとする。

 牢の中の子供たちは、大きく騒ぐものはいなかった。泣いているか諦め顔か怖くて震えているかのどれかである。口を塞いでいた布は取れ、縛られていた紐は取られていたため、自由といえば自由である。そして長男はまだ気絶している。この子、幸せだな。

 しばらくすると足音がやってきた。男は牢の鍵を開け、怯える子供たちの顔を確認すると、一人の少年を連れ出した。

「ああ、こいつだ」
「カナン! おい! 離せよ!」

 連れていかれようとする少年の知り合いだろうか、隣に座っていた少年が男に飛びかかった。

「お前は呼んでねぇ! すっこんでろ!」

 男はあろうことかナイフを持ち出し、飛びかかった少年の手を切りつけた。

「アナン! 俺は大丈夫だから!」

 男は少年を一人連れ去ったまま、牢の鍵を掛けた。連れ去られていく少年は、切り付けられた少年を心配そうにしながら遠ざかっていく。

「大丈夫?」

 私はスカートの横を切り裂くと、アナンと呼ばれた少年の手を取った。切り口に布を当てようと思ったのだが、血は手に付いているが、傷がほとんどなくなっていた。

「……」

 驚いて見ていると、アナンは気まずそうに手を隠した。

「気にするな」
「……分かった。さっきの子、カナンだっけ、は友達?」
「……妹だ」
「そうなの? 男の子かと思った」

 カナンは短い髪で、服も少年のものだった。よく見ると、アナンが着ている服の生地がいいものを使っているのが分かる。

「アナン、君ってもしかして貴族?」
「……違う!」

 うーん、少なくとも金持ちそうな気はするが。

「アナンも攫われてきたの?」
「お前はそうなのか。俺は違う。売られたんだ」
「売られた?」
「……さっきの、見ただろ。傷」

 切られたところが治った、傷。

「……うん」
「あれが気持ち悪いってさ。俺もカナンも……エナンも」
「エナン……も、ここにいるの?」
「いない。死んだ」

 泣きそうな顔をぐぐぐっと我慢すると、アナンは下を向いた。

「……もう俺にはカナンしかいないのに」

 そのカナンも連れていかれてしまった。

「……もし、ここから無事に帰れたら、アナンとカナンに帰る場所はあるの?」

 顔を上げたアナンは、きっと私を睨んだ。

「あるわけないだろ! 捨てられたんだ、俺たちは!」

 急に大声を出すので、子供たちがびくびくしている。そして、大きな声で長男が目を覚ました。もっと寝てればいいのに。

「捨てたのは親なのね?」

 私はぐっと顔をアナンに近づけた。

「それは……」
「そうなのね?」

 私に圧倒されたようにアナンはこくっと一つ頷いた。
 私はアナンに抱き着いた。震えるアナンを落ち着かせるように。

「大丈夫。うちに連れて帰るから」
「え」

 アナンを離し、私は笑う。

「大丈夫、遠慮しなくても。タダ飯食べさせるわけじゃないもの。出世払い」
「え?」
「アナンとカナンの二人で暮らせるなら、それがいいでしょう?」

 ぽかんとしていたアナンの瞳に、力強い意思のようなものが輝いた気がした。
 その時、小さく犬の遠吠えが聞こえた。

 ところで、目が覚めた長男は何が何か分からないようで、分からないくせに怯え、私の手を握っていた。しっかりしてきたと聞いていたが、おかしいな。せめて年下の私がいるのだから、見かけだけでも虚勢くらい張ってほしいものである。

 たぶんそろそろ来る。私は立ち上がり、天井付近にある窓に近づく。

「ど、どうしたの?」
「大丈夫だから、長男、少し離れてくれる?」

 長男の名前忘れたわ。戸惑いながら少し離れた長男を確認し、また窓を見る。すると音もなく獣の足が現れた。そしてすぐに狼の顔がこちらを覗く。

「三尾!」

 犬のような遠吠えが聞こえたので、それがすぐに三尾だと分かったのだ。遠吠えが聞こえるということは、鼻の良い三尾のことだ、まもなくここを見つけるだろうと分かっていた。

 シオンかディアルドかは分からないが、私が攫われた時点で、北部騎士団へ伝書ハトでも飛ばしたのだろう。馬車が止まった時点でシオンにそれを伝えたため、あとは攫われた街から馬車でいける範囲を逆算すれば、私の居場所はだいたい絞れる。あとは三尾の足の速さと鼻の効きで、ここまでやってこれたわけである。そしてネロが顔を出した。

「お嬢、いたぁ。元気そうだねぇ」
「うん。子供がたくさんいるの。全員連れ出したいんだけど」
「了解了解。任せて」
「あと、さっき一人連れていかれちゃったの。その子も連れ出したいの」
「わかった。すぐに状況把握するから、待ってて。それよりお嬢、怪我とか熱とかはない?」
「大丈夫」
「それはよかった。まずはそれを伝えないと、キレてる人が多いからね。じゃあ、もう少しお待ちあれ」

 ネロと三尾は去っていった。これで、もうほとんど解決と思っていいだろう。私たちは大人しく待っているだけでいい。

 振り返ると、子供たちがこっちを見ていた。

「もう少しで解放されそうよ。だから大人しく待っていましょう」

 長男の横へ行くと、私も大人しく待つことにした。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。