七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 110話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 110話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」110話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 110話

 数日後にはダルディエ領へ戻る予定のある日、ジュードと帝都にあるレックス商会へやってきていた。仕事をするからミリィは暇になるよ、とジュードには言われたが、無理やりついてきたのは、ママによる着せ替え人形から解放されるためである。

 一昨日から家にやってきている仕立て屋は、ママの服を何着も仕立てるために泊まり込みでママとやり取りしていたが、その矛先が私に向いたのである。いつものことではあるが。

 昨日から何着も着せ替えさせられ疲れているのに、今日もと言われれば、それは逃げたくもなるだろう。どれもこれも可愛いのだが、似たり寄ったりで、とにかく着づらい。侍女に着せてもらわないと着られない複雑なものばかりで、ペチコートのふくらみも邪魔であるし、とにかく一着着るのも面倒で疲れるのだ。

 その反動で、今日は少年服にジュードの髪のカツラを被り、気楽にレックス商会のジュードの個室でお茶を楽しんでいた。窓からは人の行きかう姿が見れて、人々の生活が垣間見えて面白いのだ。

(あ、あの子、今日もいる)

 道端で可愛らしい花を売っている私より少し年上の女の子は、よくこの窓から見かけるのである。この窓の下をよく通るだけの人はたくさんいるが、あの子が気になっているのは、少し斬新な服を着ているからだった。つぎはぎといえばそうなのだが、ただつぎはぎしているわけではなく、デザインも考えられているように感じるのだ。長袖の部分も途中から切れていて、やぶけていると言えなくもないが、わざと切っている気がする。現世ではあまり見かけないデザインである。

「ジュード、お店の前のところまで行ってきていい?」
「いいけれど、護衛は連れていくんだよ。それに遠くには行ったら駄目だよ」
「はーい」

 護衛を連れて店を出る。そして花売りの少女に近づいた。

「こんにちは。お花を一つ下さい」
「ありがとうございます」

 前もってジュードに貰った銅貨を渡す。なぜか花とたくさんのお釣りをもらった。このお花いくらだったんだろう。

「可愛い服着てるね」
「え!」

 少女は顔を赤くした。

「これは……私が作ったの」
「へえ、すごい! 上手なんだね」
「お母さんが好きだったから。私も教えてもらって、自分の服は自分で作ってたの。前は仕立て屋で働かせてもらってたから」
「前は? 今は辞めてお花屋になったんだね」
「……お母さんが死んだから」

 おっと。地雷踏んだ。私は少女の手を握ると、近くにあるベンチへ連れて行った。そしてジュードにもらったお菓子を包んできたものを渡す。

「よかったら食べて。もし嫌でなければ、話を聞いてもいい?」

 少女はお菓子を一口食べて、目を輝かせた。

「美味しい!」
「それはよかった。私はお腹いっぱいだからあげる」
「ありがとう! ラナが喜ぶ!」

 少女の名前はアン。ラナという妹がいて、父と三人くらし。母が半年ほど前に亡くなったという。父はほとんど働かず、母が働いて稼いで父と子供たちを養っていたらしい。アンも仕立て屋で働いていたのだが、母が亡くなり、まだ幼い妹の面倒を見なくてはならず、拘束時間の長い仕立て屋で働くことが難しくなったらしい。母が死んだというのに、父は相変わらず働かず、酒を飲むか賭博に興じているという。アンの花売りで稼いだお金もほとんど父が奪っていくらしい。
 ここまで聞いて、もう一つありがちな話が思い浮かぶ。

「まさか、お父さん、アンやラナを殴ったりはしていないよね?」

 びくっとして、アンは何も言わない。これは確定だろう。

「ご飯は食べられているの?」
「近所に住むお店の人が、ときどき閉店間際に残ったパンをくれるの」

 つまりは、それがないなら生きていけないくらいなのだ。
 本当は仕立て屋で働いていたかったが、幼いラナをほってはおけず、そして父からも逃げられない。

 聞かなければよかったとは思うが、ここまで聞いてしまった以上、助けられるなら助けたい。

「ねえ、アンはお父さんを捨てられる?」

 それからアンとは別れ、私の話を聞いたジュードは頭を抱えていた。

「とうとうミリィが人間まで拾ってきた……」
「まだ拾ってないよ。アンの返事待ちだもの」

 ジュードにお願いと提案をしたのだ。のちにパパにも同じお願いをする必要はあるが、まずはジュードの了承がいるのである。

 アンと妹のラナを父親から引き離したい。だからダルディエ領へ連れていきたい。アンとラナは最初の数年はダルディエ家で面倒をみたい、けれどタダで見るわけではなく、出世払いである。アンは服作りに興味があるので、将来仕立て屋として手に職を付けてもらうべく、レックス商会で抱えている職人の弟子として、色々教えてあげて欲しい。そして将来的にアンが仕立て屋で稼いでもらったら、今までアンとラナに必要だったお金は返してもらえばいいのだ。あげるのではなく貸し。そのほうがアンも遠慮しなくてすむし、仕立て屋の技術を磨く努力だってするだろう。そのためにもジュードの協力が必要なのだ。もしかしたら、いずれはレックス商会で人気の職人になる可能性もある。

 考え込んでいたジュードだったが、ため息交じりに了承してくれた。パパへの交渉も一緒にしてくれるという。
 これで準備は整った。あとはアンの決心次第である。

 そしてダルディエ領へ帰郷する馬車の中には、アンと妹のラナの姿もあった。帝都、つまり故郷を離れることになるが、アンは父を捨て、妹と一緒に二人で強く生きていく決心をしたのである。

 アンとラナはダルディエ家の客人ではない。けれど困らない程度には面倒を見たかったので、二人は私の使っていない家に住んでもらうこととなった。本邸ではなく、同じ敷地内にあって、パパが私の七歳の誕生日に建てた家である。部屋は有り余っているし、その一室を使ってもらう。そして、食事に関しては、うちの使用人たちと一緒にとることとなった。それからアンが仕立て屋の技術を学ぶために昼間は家を空けるので、ラナはその間、うちの庭師のおじいちゃんたちが面倒を見てくれる。私もちょいちょいおやつを持って遊びに行くのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。