七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 109話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 109話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」109話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 109話

 今日はアカリエル公爵邸へ行くというシオンに付いて一緒に訪問していた。表向きはアカリエル公爵家の末っ子令嬢オーロラと戯れるためだが、実は別の理由があった。天恵に関する本を読ませてもらいたかったのである。

 ダルディエ家には本邸や別邸に立派な図書室があるのだが、天恵関係の本はほとんどない。しかしシオンによるとアカリエル公爵家は天恵を多く輩出する一族なだけあり、天恵の本があるというのである。天恵の訓練などは禁止されているのでするつもりはないが、私も動物遣いという天恵を持つ以上、先祖返りの動物たちの情報が分かるなら見たいと思っていたのである。

 本来の目的は別にあるとはいえ、オーロラに関してはブラコンに育てるという使命があるので、もちろん布教活動に手は抜かない。

 三歳のオーロラは可愛さ全開だった。現代では女姉妹がいないので、オーロラのことは妹のように思っていた。オーロラも私のことはミリィお姉さまと呼んでくれている。いつもアカリエル邸を訪問した時は、オーロラと二人で遊んでいるのに、今日はなぜかノアとレオと一緒に来たシオンまで傍にいる。変だなとは思っていたが、それが判明したのは私が天井に飛ばされてからだった。

「シオンー!!」
「大丈夫だ、落ち着け」

 天井に飛ばされる前にとっさにシオンが手を握ってくれたため、天井へはシオンと共に飛ばされたのが幸いだった。天井までは四メートルはある。ここから落ちれば、私なら骨は間違いなく折れる。わけがわからずシオンに縋りつくしかない。

「すみません! すぐに降ろしますから!」
「オーロラ、兄さまを見てごらん、落ち着いて」

 レオがオーロラを宥め、ノアが私たち二人を見ていると、シオンと私はゆっくりと天井から降ろされた。泣きはしないが、驚きすぎて心臓がバクバクしている。

「すみません、オーロラがまだ力を制御できなんです」
「力?」
「念力です。先日力を持っているのは分かったんですが、まだ訓練できていなくて。ミリィと遊んでいて楽しくて興奮したんでしょう。楽しくなると力が勝手に出てしまうんです」
「さっき天井から降ろしてくれたのはノアでしょう? ノアは制御できるのね」
「俺は訓練していますから。すみません、怖かったでしょう。用心のために俺らが待機していたのですが、シオンさんがいてよかった」
「ううん、いいの。オーロラはミリィと楽しんでいただけだもの」

 なるほど、みんないたのは、そういう理由だったか。当の本人のオーロラは次はこれで遊ぼうとおもちゃを持ってきている。無邪気である。

 ノアやレオが念力を持っているのは知っていた。何度か見たことがあるからであるが、やはりオーロラも念力があるとは。血筋ってすごい。ノアやレオは他にも天恵を持っているらしく、どんな能力を持っているのか全部は分からないが、天恵の名門なだけある。

 その後、しばらくオーロラと遊び、昼食を一緒に取って、オーロラはお昼寝の時間だというので、ノアに天恵の本を見せてもらうことにした。天恵といえば、基本的にはあまり公にするようなことではないので、本を見せることをしぶられるかと思ったけれど、あっさり見せてくれた。

 この時間はシオンも危険がないと思ったのか、訓練するために去っていったので、今はノアと二人で図書室にいた。レオはシオンと一緒に訓練に行っていない。

「ミリィ」
「何?」
「オーロラがさっきはすみませんでした」
「さっきも謝ってくれたでしょう? 気にしていないわ」
「……ミリィは本当にいつもどおりですね。ああいうの、普通は怖がるものですよ」
「攻撃しようと思って使ったわけじゃないって分かっているのに、怖がる必要ないじゃない」
「……ありがとうございます。これからもオーロラと仲良くしてくれるとうれしいです」

 こんなことをノアが言うのは、理由があったらしい。オーロラはまだ力を制御できないため、オーロラの侍女を飛ばしてしまったというのだ。オーロラを可愛がっていた侍女に急に怖がられるようになり、まだよく分からないオーロラは態度が急変した侍女を今でも探すのだという。侍女はオーロラが恐怖で辞めてしまっていた。

 アカリエル公爵家は天恵一族であるため、使用人も多少は耐性がある。能力を見ても見慣れれば、仕事は仕事と割り切って行うプロばかり。内心思うことがあるかもしれないが、それでも仕事をしてくれるなら文句はない。アカリエル公爵家の使用人は給料が良いのだが、それは多少危険手当も含まれているからだろう。けれど、やはり時々はオーロラの侍女のような者も出てくる。

 人は自分が持たない力を怖がるものである。ダルディエ家の使用人も、シオンのことを遠巻きにしているものもいた。私も、もし力を持っている人が知らない人ならば、間違いなく警戒するだろう。ただシオンのことは知っている。ノアやレオやオーロラだって、普段がどんな子なのか知っている。彼らを知っているからこそ、彼らの持つ力を恐れる必要はないと分かるのだ。それだけ彼らを信用している。

 私はノアの手を取った。

「もちろんよ。オーロラが大好きだもの。ノアやレオのことだって大好きよ。だから、これからもミリィと仲良くしてね」
「はい」

 それから、私たちは静かに本を読んだ。私は昔いたとされる先祖返りの本を見つけたため、それを熟読する。絵が載っていて説明もあるので分かりやすい。

 現在いるとされる先祖返りは、三尾たる狼、一角たる馬。それだけである。この帝都のアカリエル邸には先祖返りはいないが、領地には狼と馬が飼育されていると聞いている。私が孵化させたナナたる猫だが、これは今のところアカリエル公爵家にも伝えていないため、いまはいないことになっている。

 本には、昔は象、トカゲ、犬、ムササビ、亀、牛なんかの先祖返りもいたらしい。どれも今いる動物よりは大きい。先祖返りで一番強いのはトカゲだろうと説明されているが、予想で描かれている象がとにかく大きい。昔、こんな大きな象がいたのだろうか。

「……うそ」
「どうしました?」

 しまった、説明を読んで驚いた声が口に出てしまった。別のことで誤魔化さなければ。

「あ、うるさくしてごめんね。この馬のところなんだけれど、角が結晶化すると馬を探すことができるとあって、びっくりしたの。ノアのところにも馬いるでしょう」
「北部騎士団にも馬いるんですよね。確かに馬が死んで残った角が結晶化すると、馬を探すことができますよ。以前、うちにあったものを見たことがあります。今はその効力が切れてしまいましたが」
「効力に期限があるの?」
「そうみたいです。結晶化してから、だいたい数年程度らしいですが、正確な期限は角次第で変わるようですね」

 なるほど、期限があるわけですか。それは本にもなかった情報である。聞けて良かった。とりあえず一角の話題で話をそらしたが、私の気になる点は他にあった。けれどここでそれを口にすることはなかった。

 その後、昼寝から覚めたオーロラと再び遊び、今はシオンとダルディエ邸へ戻る馬車の中である。

「面白い本はあったか」
「うん、気になることが書いてあったの。ナナのことなんだけど」

 私が動物遣いの天恵持ちだとは秘密であるし、猫の先祖返りを孵化させた話などできないので、あの場では黙っていたのだが。

「猫の涙は万能薬になるんですって」
「万能薬?」
「傷が治せたり、病気を治せたり? それ以上の詳しいことは書かれていなかったのだけれど」

 そしてもっと気になることが書いてあった。万能薬となるからこそ、はるか昔、猫の先祖返りがたくさんいた時代、猫は乱獲されていたというのだ。

 今はどの先祖返りも貴重である。高い能力を持ち、人間とも共存できるくらいには人間に慣れやすく、そして何より少ない。また増やすことも難しい。

 先祖返りはその能力の高さから、戦争に利用されることが多い。グラルスティール帝国も、実は国の西にあるタニア大公国との戦争が数十年に一度は起きている。まさにアカリエル公爵領のすぐ隣であり、小さな小競り合いは今もよく起きているらしい。私が生まれてからはまだ一度も大きな戦争とはなっていないが、タニア大公国はいつもグラルスティール帝国を狙っているのである。

 小競り合いが多いからこそ、国にある六つの騎士団の内、西部騎士団はとにかく屈強であり、また一角の騎馬隊も所有する。つまり西部騎士団には一角がとにかく必要で、アカリエル公爵家所属の動物遣いは一角を増やすことが一番の仕事となっているらしい。タニア大公国もアカリエル公爵家ほどではないが、一角を戦争に投入してくるのだという。

 動物好き、そして動物遣いの私からすると、正直戦争に私が孵した一角や猫を投入などしたくはない。家族に思っているし、可愛くて仕方がないのだ。けれど、タニア大公国が戦争で投入してくる以上、一角を出しざるを得ないことも理解はできる。

「ナナはうちの子だもの。アカリエル公爵家にも誰にもあげないわ」

 乱獲できるほど先祖返りがいるわけではないので、そこは気にしていないが、万能薬がある可能性のある猫がいると知れば、欲しがるものは必ず出てくる。

「分かってる。ダルディエ家がそれはさせないから、ミリィは気にする必要はない」

 横にいたシオンは、私の頭に手を乗せた。

 それから帰宅し、私の部屋でくつろいでいたナナは私を見つけると近寄ってくる。生まれて二年が経ち、ますます大きくなったナナは、身体だけなら大人の人間くらいある。最近、二足歩行することがあり、つい中に人間が入っているのではないかと、チャックを探している私がいた。

「ねえナナ、ちょっと泣いてみて?」

 万能薬と言われると、試したい気持ちがあるのは許してほしい。
 人間の言葉が理解できるナナは、ニャアと鳴いた。

 うん、間違っていないが、そうではない。けれど可愛いので、まあいいか、とナナを撫でるのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。