七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 106話 ディアルド視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 106話 ディアルド視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」106話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 106話 ディアルド視点

 その日ディアルドは午前中は騎士団へ行き、午後は仕事で人と会い、帰り際に街へ寄っていた。いくつかの用事を街で済ませると、途中で栗がたくさん売られているところを横切って戻ってくる。

(もう栗が出ているな。ミリィが好きだから買っていこうか)

 料理長にマロングラッセにしてもらおうと思っていると、護衛が動いた。
 後ろには見たことのある男が立っており、護衛が警戒している。

「君は……何か用だろうか」

 ディアルドはこの男と直接は話したことはないが、ある男といるところはよく見る。

「一応、報告するようにと、うちのボスからのお達しがありまして」
「……何の話だ?」
「私たちは何も悪くないことは、言っておきますよ?」

 男はにやっと笑うと言った。

「あなたの妹さんを、預かっていましてね」

 その言葉を聞いて、冷静さを装うのに苦労した。それからその男がついてこいというので、あとをついていった先は、街で人気のカフェである。個室も完備しているため、密談にも使えるのだ。その個室に案内されて入ったところ、妹はのほほんとウェイリー・スマルトとお茶を楽しんでいた。

「ミ、ミリィ?」
「あら? ディアルド!」

 妹の後ろには侍女と護衛が控えている。

「どうしてここに? ディアルドもお茶をしに来たの?」

 上機嫌でお茶している妹に脱力してしまいそうだった。

「どうしてここに、は俺のセリフだよ。どうしてウェイリーとお茶しているの?」
「どうしてって……。いつも一緒に行動していたら、お話したくなるでしょ? お話するならお茶も一緒にどうかなって思って、ウェイリーさまをお誘いしたの」
「……」

 言っている意味が分からない。いつも一緒に行動とはどういうことだろうか。

 そのウェイリーは俺たちを見て、クククと笑っている。

「どういうことか、教えていただいても?」
「いいですよ」

 ウェイリーはにやっと笑い、話し始めた。

 いつからか変な子供に付けられていることに気づいた。どうやら金持ちの娘のようだが、侍女や護衛がくっついていて、いつかはいなくなるだろうと思っていた。ところが頻繁に付いてきては、こちらを見ている。いつもいる。さすがに要件を聞こうと思い、この店に入って待ち伏せすると、すぐに後を追って入ってきた。しまった、見つかった! という顔をしたのは一瞬で、すぐにその子供はお茶でもどうですかと誘ってきたという。それで今に至る。

「その子供が、ミリディアナですか……」
「だな。まあお嬢ちゃんがダルディエ家の子だというのは、わりと早々に知ってはいたんだが」

 頭が痛い。

「ミリィ、どうしてウェイリーをつけたの?」
「だって、女の人をぱっと助けてかっこよかったんだもの! ミリィとよければお友達になっていただけないかなと思って! でもお友達になる前にウェイリーさまがどういった方なのか知りたいでしょう? だからついて行って調査したの! ……ところでウェイリーさま? 花屋の売り子のお姉さんと本屋の三階に住んでおられるお姉さんと時々宝石を買いに来られる貴族の奥様の中で、どなたが一番お好きなのかしら? 好みはどの方?」

 ウェイリーは目を丸くすると、途端に笑い出した。

「あはははは! よく見てるなあ、お嬢ちゃん。確かに三人とも付き合ってるけどよ。他にも俺を離さない女が大勢いてな。一人に決められないんだ。悪ぃな、お嬢ちゃん」
「まあ残念。けれど好みはあるでしょう? 胸は大きい方がいいとか、細身がいいとかいろいろと。参考にしたくて」
「なんの参考なの? ミリィには必要のない情報だよ!」
「だってディアルド、ミリィは成長中でまだこれから伸びしろあるもの。いかようにも好みに近づけられると思わない?」
「この男とどうにかなる予定なの!? まだミリィには早いよ! 俺が許さないからね!?」
「ディアルド、まだ先の話よ。今は好みを聞いておきたいだけ」

 その好みを聞かれている男は、腹をよじって大爆笑中である。腹立たしい。
 それにしても、どうしたらいいんだ。俺には珍しく眩暈がする。

「と、とにかく、今日は帰ろう」
「え、でも、まだお話を……」
「栗を買ってあげるから! さっき売ってた! 料理長にマロングラッセを作ってもらおう! ね!」
「……栗。うん、わかった」

 よし、まだ栗の威力は健在だ。有無を言わさず妹を抱えると、妹はウェイリーに手をふった。

「ウェイリーさま、またお会いしましょう!」
「おー」

 またがあるのか。しかもウェイリーめ、なぜ拒否しない。

 それから急いで屋敷へ帰った。栗を買うのは忘れなかったが。
 少し考える時間が欲しかったため、ベッドに入るまでこの話はしなかった。
 そしてベッドの中で妹に向き合う。

「ミリィ、やっぱりもうウェイリーには会わないでほしいな」
「どうして?」
「ウェイリーとは年も離れているだろう? ミリィはまだ八歳だよ」
「恋に障害は付きものよ?」
「ミリィ……お願いだよ」

 妹はぷくっと頬を膨らました。

「分かってる。ウェイリーさまと本当の恋をしようとは思ってないの。でも人をかっこいいと思ってしまうのは、仕方がないでしょう?」
「それはそうだけれど」
「分かった。もうついて行ったりはしない。けれど、たまたまウェイリーさまと街であったら、挨拶するくらいならいいでしょう? ウェイリーさま、変な人じゃないもの」
「……それくらいなら」

 わかっている。ウェイリーはああみえて、常識人だ。妹が付いてきているのも分かっていて、そして俺にちゃんと知らせてくれる。何度か一緒に仕事をしているが、仕事もちゃんとしているのだ。

 それでも、妹がウェイリーと近づきすぎるのは、すごく嫌だと思うのだ。なんだかなあと思いながら妹を抱きしめる。

「ねぇディアルド?」
「うん?」
「ディアルドは帝都に恋人を置いてきたの?」

 思わず顔を上げた。

「バルトがディアルドには恋人がいるって言っていたけれど」

 よし、バルトはまた説教だ。だいたいろくでもないことを妹に教えるのは、いつも双子なのだ。

「置いてきていないよ。別れたもの」
「そうなの!? 残念。どんな人か知りたかったなあ。ねえ、パパとママの出会いの話、聞いたことある?」
「知ってるよ。皇帝陛下と皇妃陛下の結婚式に出会ったという話でしょう」

 皇帝と皇妃の恋物語は有名だ。しかし我が父と母の恋物語も有名なのである。

 結婚式に参加するため、ザクラシア王国から国代表として母であるフローリアがやってきた。その場で、父と母は出会いお互い一目ぼれだったという。ザクラシアからやってきた姉妹が二人共一目ぼれで結婚するという、嘘のようで本当の話だ。とはいえ、母フローリアの恋は予定外だったために多少の横やりがザクラシア王国からあったようだが、皇妃が味方になってくれたお陰で、めでたく結婚できたらしい。それから今でも父と母は新婚かというくらい仲が良い。

「そうなの! 一目ぼれですって! 素敵よね! いいなあ、ママ。ミリィもパパと結婚したい」
「え」
「パパかっこいいもの! あの鋭い瞳とか素敵でしょ! 怖そうなのにとっても優しいでしょ! でもパパとは結婚できないよねぇ、重婚になってしまうものね」

 確かに重婚はできない。グラルスティール帝国で重婚が認められているのは、第三皇妃まで認められている皇帝だけである。

「……重婚の前に、父と娘は結婚できないからね」
「そうなの。残念。だからパパは諦める」
「……ところで、ミリィは兄さまの中では誰が一番好きなのかな?」
「え?」
「兄の中で、誰が一番好き?」
「ディアルド、それはパパとママどっちが好き? って聞くのと同じくらい重罪の質問よ。ミリィはお兄さまみんな大好きなんだから」
「……ごめんなさい」

 つい聞きたかった質問をしてしまった。妹に怒られ、反省である。
 とはいえ、妹は父が一番好きなのか、というショックはあるが。

「でも恋人と別れたのなら大変ね。ディアルドにもお見合いの話とか来ているのでしょう?」
「そうだね……」

 ダルディエ公爵家の長男ということもあり、お見合い話は小さい頃から多い。テイラー学園でも俺目当ての誘いは多数受けたし、夜会や舞踏会などに出席すると目の色変えた女性たちが熱心に誘いをかけてくる。俺も子供ではないし、多少は遊びもしたが、どこか冷めた目で彼女らを見ている自分にも気づいていて、そんな自分に嫌気がさしたのも事実だ。両親のような燃えるような恋をしたいわけではない。それでも多少は熱のある恋愛をしてみたいとは思うのである。

「お見合いの人たちの中で、いい人はいた?」
「なかなかこれという子はねぇ」

 お見合いに欠かせない釣書も送られてくるが、こういうものはだいたい誇張されているものである。参考にならない。だから見る気もしなくて、執務室の本棚に積みあがっていくばかりだ。

「でもまだディアルドは若いし、焦らなくてもいいと思うの! いろんな人と恋愛してみればいいわ。ほら、こっそり二股とか三股とかも、ばれないならいいと思うの! なんなら口裏合わせはミリィにまかせて!」
「ミリィ? 前々から思っていたんだけれど、どうして複数の人と付き合うこと、ミリィは肯定派なの!?」

 今日のウェイリーの件しかり、俺の友人グレイしかり。なぜか二股を肯定し、あまつさえ協力しようとするとは。

「いつでも肯定するわけじゃないのよ? 結婚しているのに浮気や不倫は駄目だと思うの。でもディアルドはまだ結婚しているわけじゃないし、生涯連れ添う人を決めようというなら、できるだけディアルドの心が動く人がいいと思うから」

 俺より妹は大人なのかもしれない。年相応に子供だったり、甘えたがりだったり、大人なところがあったり、妹はいろんな面を持っている。

「うん、ゆっくり考えるよ。大丈夫、焦ったりはしない」
「あ、でもね、私と妹のどっちが大事? って聞く人は嫌だなあ」
「うん?」
「ディアルドはミリィのお兄さまだもの。ミリィだってディアルドに甘えたい時があるでしょう? それを嫌がる人は、ミリィが嫌なの」
「あはは、そうだね、俺もそんな子は選ばないよ。俺だってミリィに甘えてもらえなくなるのは悲しいもの」
「ふふふ。ディアルドとミリィは相思相愛ね」
「そうだね。すごく愛してるよ、ミリィ」
「ミリィも」

 本当に可愛いくて愛しい俺の妹。そんな妹より大事に思える存在が、いつかできることなどあるのだろうか。そんな日は来ない気がする、そう思いながら、妹と共に眠りにつくのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。