七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 104話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 104話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」104話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 104話

 上品な柵で囲われた皇太子宮の裏庭で、エメル、カイル、ソロソと四人でお茶をしていた。春が過ぎ、初夏が近づいて、新緑の空気がすがすがしい。

 楽しいはずのお茶の時間だが、私の頭は別のことでいっぱいだった。先日、帝都の郊外にあるティアママの屋敷へ、ママとラウ領のお土産を持参して訪問したときのこと。話の流れでティアママの息子がダルディエ領へ、夏の避暑に訪れている、という話になった。まさかその息子というのが、カイルだというのである。

 ティアママに息子がいるのは知っていたが、まさかそれがカイルだとは思っていなかった。ということは、ティアママは皇妃であり、ルイパパの妻だということになる。ここ何年も、知らずにいれた自分が怖い。今までティアママと会っていた屋敷は、皇宮の離宮だったのである。

 カイルの瞳はいわゆる神瞳である。ルイパパが紫瞳であることから、カイルの瞳は母から継いだものであろうことは分かっていた。けれどカイルは母は厳しいと言っていたことから、明るいティアママだとは私の中で結びつかなかったのである。

 またカイルはこうも言っていた。カイルの本当の母は亡くなっていると。では、カイルの本当の母は誰なのだろうか。ティアママでないのなら、私の知る情報で考えられるのは、もう一つだけ。ママとティアママの間で時々話題になる、二人の妹メナルティである。そうであれば、カイルの神瞳が継がれていることも理解できる。

「ミリィどうしたの? 今日は元気がないね」

 カイルが心配の表情で言う。

「ううん、元気よ。大丈夫」
「だけど……もしかして何か話がある?」
「話というか……」

 ちらっとソロソとエメルを見る。以前、カイルの母が亡くなっているという話は、みんな知っているとカイルは言っていたが、ソロソとエメルがいるところで聞いてもいいものなのか躊躇ってしまう。

「私たちは先に戻っていますね」

 エメルとソロソは揃って気を利かせ、去っていった。

「さ、ミリィ、話してみて?」
「あの……もし話したくないことなら、話さないでね?」
「うん、わかった」
「この前……」

 ティアママの子供がカイルだと知ったこと、もしかしてメナルティが本当の母なのだろうか。そんな不躾な質問に、カイルは嫌な顔もせず、ふむと思案顔をする。

「ミリィは母上によく会うの?」
「半年に一度くらい、ママと一緒にお茶会するの」
「そうなんだね。……確かにメナルティは俺の本当の母の名前だよ」

 みんな知っている話だから、とカイルは淡々と話しだした。

 グラルスティール帝国の皇太子ルイとザクラシア王国の王女ティアルナの結婚は、政略結婚だった。しかし二人は初顔合わせの時にお互いを一目ぼれし、政略結婚とはいえ愛情いっぱいの結婚だったという。二人のラブラブぶりは有名で、二人に憧れている人も多くいた。しかし、二人は子供に恵まれなかった。

 皇帝であるがために、世継ぎは必須である。結婚からの数年間は側近や貴族たちの世継ぎを望む声をかわせていたものの、結婚後八年を過ぎたあたりから、そういった声をかわすのが難しくなっていった。そうなると声高々になるのは第二皇妃を望む声である。そして第二皇妃という存在を良く思わないのはザクラシア王国だった。

 ザクラシア王国の血筋が世継ぎとなることを望んでいたのに、他のものが世継ぎとなるくらいなら、ティアルナが駄目ならメナルティをと、ティアルナの実の妹を差し出してきたのである。ザクラシア王国の言うことに逆らえないティアルナは、第二皇妃として妹メナルティを迎え入れることを了承した。

 メナルティは結婚後すぐに妊娠した。ティアルナとメナルティは仲の良い姉妹であったが、カイルが生まれるまでほとんど話すことがなくなったという。それからカイルが生まれたものの、メナルティは出産後一か月もしないうちに亡くなってしまう。

 それからはカイルの母としてティアルナがカイルを育てた。赤ちゃんの頃は優しかったティアルナは、皇太子を立派に育てようと厳しくなった。またティアルナ自身、皇妃としての公務で忙しいこともあり、カイルはティアルナと会う機会は少ないという。

「昔はどうして母上が俺に厳しくなったのか分からなかった。けれど、今は理解している。母上が俺に厳しいのは、もっともな話だ。俺は皇太子として果たさなければならない責任も多い。本当の母メナルティの分も、俺を立派な皇太子にしなければならないと背負っておられると思う」

 カイルは分かっているのだ。母が厳しい理由を。そしてそれを当然のことのように受け入れている。

「カイルお兄さまがまだティアママの息子だって知らなかった頃、ティアママはいつも嬉しそうに息子の話をしていたのよ」
「……母上が?」
「ティアママは立場的には厳しいことをおっしゃるかもしれないけれど、カイルお兄さまが大好きなの。それはミリィにも分かるわ」
「……ありがとう、ミリィ」

 ティアママはカイルの本当の母ではなくとも、間違いなくカイルを愛しているのだ。それだけは伝えたかった。私の手を握って感謝を伝えるカイルの手は、温かかった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。