七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 98話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 98話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」98話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 98話

 帝都からダルディエ領へ戻ってしばらく経った頃、今日は騎士団へ行くという双子に、一緒に馬に乗り連れて行ってもらうことになった。今日は少年の恰好だけれど、伸びてきた自分の髪の毛を侍女に編み込んでもらっている。
 正門ではなく裏門から向かうというので、馬を引き庭を横切っていた。裏門を使って外に出たことがない私は、その道順がどんなふうになっているのかと楽しみにしていた。

 庭の途中で、工事現場に遭遇する。何やら家を建てているようだ。すでにかなり出来上がっている。前はただの芝生だったのだが、帝都へ行っている間に建て始めたのだろう。

「なんでこんなところに家を建ててるんだ?」
「さあ?」

 双子も事情は知らないようである。ダルディエ家の本邸の敷地には、いくつか別邸があるにも関わらず、何に使うのだろうか。他の別邸に比べると小さいの屋敷だが、それでも前世の日本の一般的な家屋よりは豪邸だなと思う。

 まあ考えても仕方なし、と三人は裏門へ向かった。裏門を通ると、馬に乗った。私は自力では乗れないので、バルトに乗せてもらうのである。裏門は山の中ということもあり、人気もなく、また岩がごろごろとしていた。道路はあるので馬や馬車も通れるが、普段はやはり使いづらくてほとんど使用していないらしい。

 その裏道を行くのかと思いきや、双子はわざわざ岩がごろごろとしている方へ馬を進める。

「どこ行くの?」
「騎士団だよ」
「こっちなの?」
「こっちからも行けるんだよ」

 双子がニヤニヤしている。
 馬も歩きづらいだろうに、岩の間を進む。ただ風は涼しい。天気もよく、岩の間には小さな花が咲いているし、蝶々だって飛んでいる。気分はいい。

 さらに進むと、小さな小川があった。ダルティエ家の小川ほど小さくはないが、足を付けても足の甲ほどしか深さがなく、まず溺れはしないだろう。そこでいったん降りて、水を触ってみる。

「冷たーい!」
「もう少し上の方に行くと、小さい湖もあるんだよ。そこのは水が湧いているから飲める。今日は行かないけれど」
「今度つれてって!」
「いいよ」

 少し涼んだ後、また馬に乗り岩の間を進む。
 すると、声が聞こえた気がした。

「え?」
「どうした?」
「何か言った?」
「言ってないよ」

 おかしいな。『こっち』そう聞こえた気がしたのだけれど。
 あ、また。

「何か聞こえる」
「何かって?」
「こっち、って言ってるよ」

 双子が顔を見合わせる。

「どっちから聞こえた?」
「うーん……あっちかな」

 馬が向かっていた方向とは少し外れたところを指さした。
 双子は息ぴったりに、何も言わずそちらへ馬を動かした。それからしばらく馬を進める。

(うん、やっぱりこっちって聞こえる。声も大きくなっているし)

 でも聞こえるのは、なんとなく、耳ではなく頭の中、そんな気がしてきていた。

「このあたり!」

 双子に馬を止めてもらい、馬から降ろしてもらう。
 岩がゴロゴロしていて、歩きづらい。けれど、その声の方へ向かう。

「これだ!」

 ごつごつした丸い岩である。大きさは五十センチほどの卵型とでも言おうか。

「これが何?」
「分からないけれど、声が聞こえるよ」

 岩をポンポンと叩いた。すると、岩の外側のガタガタした岩くずがポロポロと取れだしたのである。

「あえ?」

 ぽろぽろと取れた外側の部分が勝手にほとんどはがれてしまうと、滑らかな卵が現れた。

「卵だ」
「「……まさか」」

 双子の声が重なる。
 岩の中から卵が出るとは思わなかった。すごく大きい卵である。ダチョウだろうか。ダチョウの卵焼きって美味しいんだろうか、そんなことを考えながら卵を撫でると、卵にヒビが入った。

「え!? 何か生まれる?」

(ダチョウかな? それとも、ちょっと大きい鶏かな?)

 しかしそのどちらでもなかった。
 バリバリとヒビのところから縞模様の腕が飛び出た。そして次々に殻が割れ、全身灰色の縞模様、四本の四肢、そしてぴくっと動く耳、そして赤ちゃん特有の可愛い顔。

 きゃぁぁあああ!!
 恐怖ではない。嬉しい悲鳴である。

「猫ちゃん!」

 よろよろと不安定な動きで、まだ目が開いていない。けれどミャアミャア鳴いている。
 可愛すぎる。猫好きにはたまらん光景である。

「可愛いー! 可愛いー!」

 猫って哺乳類じゃなかったっけ? 卵から生まれるんだっけ?
 そんな疑問が頭を過ったのは一瞬だけである。一般的な猫よりかなり大きいが、赤ちゃん猫がとにかく可愛い。大きいとはいえ、私でもまだ抱っこできる。まあまあ重いが。

「ねぇ! 猫ちゃん! 飼っていいでしょ? ココもいるものね!」

 猫を抱えて、嬉しくて笑顔で双子を見ると、双子は何とも言えない微妙な顔をしていた。

「いやあ、だってこれさ、あれだよね」
「あれだな」

 なんだよ、あれって。まさか捨ててこいとか言わないよな。こんなに可愛いのに!

「持って帰るの!」
「いや、とりあえず、屋敷はまずい」
「一度騎士団へ連れていくか」
「どうして? 可愛いよ? まずくないよ」
「そういう意味じゃないんだよなあ」

 双子の歯切れが悪い。なんでだ。大きいからダメなのだろうか。
 捨てられたら嫌なので、抱っこして少し双子から離れると、双子に阻止された。とりあえず、このまま騎士団へ行くこととなった。

「捨てないから、こっちに渡して」
「いや!」

 猫を持ったままバルトの馬に乗せてもらおうとすると、アルトが手を出してくる。

「いいよ、アルト。俺がミリィを支えていくから」

 猫を持ったままだと、馬上で私が危ないと言いたいのだろう。けれど、先ほどの双子の反応を見ているので、猫を預けるのを警戒してしまう。

 結局、バルトに支えてもらいながら猫を抱っこしつつ馬に乗り、騎士団へ向かった。腕の中でみゃあみゃあ鳴いている子猫が可愛い。たぶん私は今ニヤけているだろう。

 騎士団へ向かうと、いつもの正門とは違う門を使って中へ入った。その際、猫が見えないように、バルトに私ごとマントでくるまれてしまった。そして騎士団のある部屋に入ると、アルトが部屋を出て行った。

「バルト、この猫ちゃんお腹空いているんじゃないかな?」

 目は開いていないのに、乳を探すようなしぐさをしているのだ。

「そうだな。何か食べるものは後で用意するけれど、アルトが戻ってくるのを待とうか」
「うん」

 それから待っていると、パパがやってきた。

「パパ! 見て、大きい子猫ちゃん!」

 パパは驚愕すると、頭に手を当て何かを考えているようだ。

「……パパ? ねえ、この子、飼ってもいいでしょ? 生まれたばかりなの」
「……」
「す、捨ててこいって言わないよね!?」

 パパは困惑の表情を浮かべ、私の頭を撫でた。

「言わないよ。うちで飼おう」
「本当? 絶対よ! ミリィがママになるんだもん」
「ああ。だけど屋敷に連れて帰るのは、もう少し先になるかな。それまで騎士団に通って、ミリディアナが世話できるか?」
「うん! がんばる!」

 パパは戸惑っているようだが、どうにか飼う約束は取りつけたのだから問題なし。

「ママって何?」

 アルトが子猫を撫でて言った。

「ココのママはママでしょ。この子のママはミリィなの」
「ああ、なるほど」

 私の後ろでパパが苦悩していることには、まったく気が付かなかった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。