七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 95話 ディアルド視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 95話 ディアルド視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」95話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 95話 ディアルド視点

 弟が面会に来ている。
 講義の間にある休みの時間にそんな連絡を受け、ディアルドは面会室へ向かっていた。

(アルトかバルト、もしくは二人一緒か。何の用だろう)

 あの二人がわざわざ会いに来るとは珍しい。何かあれば手紙をよこすのに。テイラー学園は帝都の端にあり、ダルディエの別邸からは馬車で四十分はかかる。
 面会室の扉を開けると、ディアルドは目を見開いた。窓の外を興味深そうに眺めている少年姿。

「ミ……ルカ? どうしてここに」

 最近は女の子の恰好が多かったのに、今日は男装である。ジュードの髪で作ったおなじみのカツラを装着していた。

「ディアルド! お使いに来たの!」

 ミリィが包を見せた。学校の剣術の時間で使う剣である。街へ修理に出していたのだ。普段ディアルドが使う剣は使いやすいよう特注となっていて、学校で使用するのには向いていない。だから学校用でいくつか作っていた一般的な剣なのだが、思ったより脆く、すぐに駄目になってしまうのだ。自分の力をもう少し加減しないといけないな、そう思ってはいるのだが、どうしてもいつも通りにふるってしまうため、すぐに欠けてしまう。

「わざわざありがとう。でも剣は危ないからね、使用人に任せてよかったんだよ」

 いつもなら剣職人もしくは家の使用人が届けてくれるのにと、首をかしげる。

「ルカが行きたいって言ったんだ。テイラー学園見て見たかったの」

 ウィタノスや先日の誘拐を考えると、あまり一人でウロウロしてほしくないとは思う。ただ嬉しそうに笑う妹を見ると、普段家にこもりっきりが多いことに不憫にも思う。

「……じゃあ、見学していく?」

 だから、ついそんなことを言ってしまった。本来であれば、すぐに屋敷へ返した方がいいのは理解しているのだけれど。

「いいの?」

 ぱあっと輝く表情に、こちらも嬉しくなる。

「将来テイラー学園に通うことを考えている子息のために、いつでも見学できるようになっているんだよ。しかも、今日はルカの恰好だしね」

 女の子の恰好だったなら、年齢的に見学はできなかった。女性がテイラー学園に通うのは十六歳からなので、それより一年ほど前の年齢からしか女性は見学できないのだ。けれど、男性は十三歳から通えるので、見学に年齢制限がない。

「講義も参加できるけれど、俺と一緒に受けてみる?」

 内容が分かるはずもないが、普通であれば見学の目的は講義の内容ではなく、講義の雰囲気を見るためのものなので問題はない。

「受けてみるー!」

 いったん馬車と護衛を返しミリィの見学の許可を取りつけると、さっそく教室へ向かう。途中で先生に会ったため、講義の参加も了承を得た。
 ディアルドに手を引かれながら、ミリィはわくわくしながら周りを見回している。
 教室に入ると、見慣れぬミリィに学友たちが驚いた顔で見ていた。

「うちの末っ子なんだ。この後の講義を一緒に受ける予定だから、よろしく」

 間違っても妹とは言わない。あいまいにしておく。
 学友たちに一斉に見られ緊張したのか、ディアルドと繋いでいる手をひっぱり、ディアルドの腕を顔の前に壁のように置き、その隙間から妹が挨拶した。

「ルカルエムです。今日はよろしくお願い致します」

 女生徒は可愛いと興味深々のようだが、すぐに講義も始まるためディアルドは自席へ移動した。少し傾斜のある机、そして長椅子はふかふかしている。机と椅子は基本的に二人で使う。俺の隣の席のグレイが、ミリィの頭を撫でた。

「ちっこい弟がいるのな! 俺グレイ。よろしくな」
「よろしくお願いします」

 人懐っこいグレイに、ほっとした顔の妹はグレイをじっと見ている。

「俺の顔が気になるか? 南の国の出身なんだよ」

 テイラー学園は、国外からの留学生も多い。グレイも近隣諸国の出身ではないが、南の国の王族なのである。日焼けした肌は一目で自国民でないことが分かる。

 その後すぐに講義が始まり、妹は内容も分からないはずなのに楽しそうに聞いていた。ディアルドのノートを覗いたり、隣でいつも机の上を散らかしているグレイのノートを見たりしている。グレイは講義そっちのけで手紙らしきものを書いている。留学してまで何してるんだと思うが、こう見えてグレイは理解力が高く、手紙を書きながらも、たぶん講義も聞いている。講義が終わるまでに何枚か書き終えた手紙を、机に散らかしていた。いつも思うが、どうしてまとめて置かないんだ。

「グレイは何人彼女がいるの?」
「え?」

 講義が終わると、妹がそんなことを言い出した。

「手紙が三人分。全部違う人宛てだよね。名前が違うから」
「……えっと」
「愛してるとか、君だけに愛を捧ぐとか、待っていてくれとか、夜の君は昼と違……」

 グレイは慌てて妹の口をふさいだ。
 女性にだらしないグレイは、どうやら自分の国でもだらしないようだ。それはともかく。

「……読めるの?」

 口を引くつかせながら動揺するグレイがつぶやく。

「だって見えるように机に置いてあるんだもの。読んじゃ駄目だった?」

 グレイの自国語だと思われる言葉で書かれてある言葉は、さすがにディアルドも読めない。グレイの国はあまり大きくないし、認知度が低い。ザクラシア王国にいるときに思ったのだが、もしや妹はどこの国の言葉でも読めるし話せるのか?

「いや、俺が見えるように置いていたのが悪い。だけど口に出して読まないで」

 それはそうだ。周りに女性がいることを考えれば、いろんな女性に手を出していることを知られたくないだろう。もしかしたら、この教室にもグレイが手を出している女性がいるかもしれない。

「あ、ごめんなさい」

 周りをキョロキョロする妹だが、グレイを睨んでいる女性がいる。すでに遅し。

 ちょうど昼時であるため、グレイと共に食堂へ移動する。グレイは深いため息をついていた。

「やっぱり聞こえちゃってたかなー」
「同じ教室にも彼女がいるの? 駄目だよ」
「そうだよ、グレイの自業自得。それに教育上よくないから、そろそろこの話――」
「二股みたいに複数彼女がいるときは、それを隠したいなら、手紙とかああいう形に残るもの、送っては駄目なんだよ。いつかそういう手紙から複数人との交際がバレるのだから。同じ教室の彼女にも、いや彼女たちにも、手紙送っているのじゃない?」
「ミ、ルカ!?」

 妹の言葉にぎょっとする。

「あ! 今流行りの本にね! 二股とか三股の話がね!」
「またアルトとバルトがそういう本買ってきたのか!」

 てへへと笑う妹に、グレイがキラキラとした目を向けている。

「そうなんだ!? でもなー、遠く離れていると、愛を伝える方法が手紙しかなくてなー」
「もうこの話、終わり!」

 ディアルドは無理やり話を切った。教育上良くない!

「ねーねーディアルド」

 こそっとミリィが耳打ちする。

「もしディアルドに彼女がたくさんいても、ルカは応援するからね!」
「そんなにいないからね!?」

 どっと疲れが。双子に説教再びである。

 テイラー学園の食堂は、貴族とはいえ懐事情は各家庭により違うため、好きなものを頼んで、一か月分を後払いする方式である。妹の分は、もちろん俺のにツケる。
 メニューはいつも五種類ほど。コース料理はなくて、メイン料理を選んでパンを付けるか、肉や魚とサラダにグラタンなどが一皿になっているものから選ぶ。人によってはパンのみ、サラダのみを選ぶ人もいる。

 ディアルドは肉料理とパンを選んだが、ミリィは一皿料理を選んだ。
 グレイと三人で並ぶと、女生徒が数名、同じテーブルに着席する。

 ミリィが食事を楽しみながら、俺の肉を見ている。

「食べてみる?」
「うん」

 あーんすると美味しそうに頬張っている。本当はこういったことは、はしたないことにはなるのだが、学生の食堂はそこまで格式ばっていないのであまり気にする者はいない。と思ったら、女生徒が熱心に俺たちを見ていた。

「ディアルドにはミニトマト二つあげるね」

 トマト、特にミニトマトはミリィが嫌いな野菜である。笑ってしまいそうになるが、指摘するとむくれてしまうかもしれないので、黙ってトマトをあーんしておく。
 すると今度は女生徒が赤い顔でこちらを見ている。なんなんだ。

 その後、ディアルドは妹のためにデザートを持ってくると、女生徒とグレイが話をしていた。

「そうなのです、東の国から菓子職人を呼んでますの。花の形や鳥の形など、お菓子が可愛くて。楽しみにしてらしてください」
「へー。鳥の形とは珍しいね」
「そうなのです。食べるのが惜しいくらい可愛らしいんですよ。栗餡や芋餡というもので作るらしいのですが」
「栗餡?」

 栗餡に反応した妹が、興味津々で女生徒の話に入った。

「ええ。ルカルエムさんも興味がありまして? 遠く離れたトウエイワイド帝国のお菓子は、餡子というものをよく嗜んでいるそうですのよ」
「餡子……」

 デザートを食べている最中なのに、ヨダレでも垂れそうな表情をしている。

「もしよかったら……ルカルエムさんもお茶会にいらっしゃいませんか? 先日ディアルドさまには残念ながら断られてしまいましたが」

 確かに断った。お茶会の誘いは多いため、厳選しないとこちらが疲弊する。それにディアルドには生徒会の仕事や、ダルディエ家としての仕事、騎士としての訓練などやることが多いのだ。

「俺、お茶会は禁止なんです」

 妹はウィタノスに狙われているため、兄会議でお茶会は当分禁止だと決まったのだ。しかし妹のしゅんとした表情に罪悪感を覚える。

「お茶会の参加者に、ルカくらいの年齢の子はいますか」
「いいえ。みなさんテイラー学園の生徒のみですから。もしよければ、他に小さい子も招待は可能ですけれど」
「いや、他の子供はいないほうがいいんだ。断っていて申し訳ないけれど、俺とルカもお茶会に参加させていただいてもいいかな。用事があるので、少し遅れるのだけれど」
「まあ! もちろん大歓迎ですわ! ディアルドさまが参加されると、みなさん喜びます」

 ミリィの表情がぱあっと華やぐ。

「いいの?」
「俺が一緒だから、いいよ。餡子が食べたいのだろう?」
「うん! ありがとうディアルド!」

 妹が喜ぶなら、なによりである。急きょ週末のスケジュールを変更する必要はあるが。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。