七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 93話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 93話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」93話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 93話

「パパ、大丈夫?」

 現在ザクラシア王国の王都から馬ソリで帰国の途についている。馬ソリは二台で、一台目が私とパパ、ジュードとシオン、護衛と影が数名ずつ。二台目がディアルド、双子、護衛と影が数名ずつの組み分けの状態である。

 パパや護衛、影は恩恵の影響がなく震えていた。一応暖房の役割があるものを傍に置いているものの、寒さはなかなか緩和できないようである。

 パパは怖い顔をいつもよりさらに険しくし、ある一点から目が動かない。目を開けて気絶しているのではないかと不安になる。

「大丈夫だ」

 そう答えるパパは、全然大丈夫そうには見えない。

「ミリィが暖房になってあげようか?」
「うん?」

 パパが着こんでいる上着の外側の留め金を全て外し、パパの膝の上に座る。そして私とパパを一緒に包むように、上着の留め具を全て取り付けた。
 私は顔だけパパの上着から出ている。私は恩恵があるので少し暑いが、パパが寒くないほうがいい。

「暖かいでしょう?」
「そうだな」
「えぇぇ、ずるいよ公爵! 俺もお嬢湯たんぽ欲しい」

 ぷるぷると震えて足ぶみしていたネロが、駄々をこねだした。本当の湯たんぽはすぐに中がぬるくなるので、持ってきていないのだ。

「俺も欲しい」

 ぼそっと寒さに関係のないジュードの声がしたが無視する。
 パパがこれで少しでも暖かいといいのだが。

 現在馬ソリは陸続きの国境を目指していた。陸続きの国境とは、ダルディエ領の北部騎士団が守っているところだ。
 私がさらわれた時は、あまり意識がなかったものの、船に乗ったであろうということは分かっている。パパたちもザクラシア王国入りする時は船を使ったらしいが、帰りは船を使わないという。

 私がさらわれた時、まだクォロ公爵が黒幕だとは分かっておらず、誰が犯人かも分からない状態だったために、陸続きの国境が使えなかったらしい。国境を使ったことがザクラシア王国のどこかにいるはずの黒幕に知られれば、そちらにパパたちが向かっていることがバレてしまうからだ。陸続きの国境を使う場合は、一応の身分検査があるからである。

 そうなのだ。よく考えれば、誘拐犯はなぜ国境を使わなかったのだろう。ダルディエ領にあるザクラシア王国との国境は、普段入国審査をすれば平民でも通ることはできる。荷物検査等はあるから、私のような子供を連れ出すのは難しいのかもしれない。けれどザクラシア王国との国境はかなり広い。入国審査ができる門は一カ所しかなく、それ以外は聞いた話だと壁もないという。

 それでは密入国し放題なのではないかと思うのだ。何キロもある広い国境を北部騎士団だけで守るのは難しい。だから誘拐犯がそれをなぜ使わないのだろうかと思っていたら、それの説明をジュードがしてくれた。

 ザクラシア王国とグラルスティール帝国の国境、それぞれの国の端には断崖絶壁が広がっているという。その間には谷があり、一度その谷に降りないと国をまたぐことはできない。断崖絶壁のそれぞれの門には、谷へ降りれる昇降機があり、それを使わないと谷へは降りられない。そしてそれぞれの断崖絶壁の高さは谷まで一キロを超えるほどあるという。

 壁がないのは変だと思っていたが、なるほど天然の城壁のようなものがあるからだったのである。ザクラシア王国側とグラルスティール帝国側の距離は二キロほどあり、互いの断崖絶壁から向こうへ飛ぶことはまず無理である。それでも断崖絶壁を自分で超えようとする輩がいないとは限らないため、グラルスティール帝国側では北部騎士団が巡回している。それも鼻が効く三尾を連れてである。

 時々三尾をつれて巡回しているのは、そういったことだったのかと理解する。

 しかし聞くのと見るのはまったく違う。
 馬ソリで走る事、約三日。ザクラシア王国の国境へ到達した私たちは、入国審査を終え、谷へ降りるための昇降機に乗った。昇降機は三台あり、とても頑丈である。一台で人間なら五十人ほどは乗れるようで、人ではなく馬車を乗せることも可能である。

 谷までを覗くと、ぞわっとする感覚がある。雪が降っているため谷底は真っ白で崖と雪しか見えない。風もびゅんびゅんとふいて、昇降機が思ったより揺れるのである。怖くてディアルドの服を掴んだら、ディアルドが抱えてくれた。

「怖い?」
「うん。離さないでね」
「離さないよ」

 私がこれ以上怖がらないようになのか、抱きしめる腕に力が入った。
 目を瞑ると揺れで気持ち悪くなるので目を開けていたが、怖いので外を見ないようにしてディアルドの首に手を巻き付けて、頭をディアルドの首につけた。

 思ったよりも長い時間をかけて谷を降りたら、今度は馬車が待ち受けていた。貴族が乗るような屋根付き扉付きの馬車ではなく、長椅子が並んでいるだけの簡易な馬車である。それを使って向こう側まで行き、断崖絶壁を昇降機で上まで登るのである。

 また昇降機が揺れるのを忘れるためにディアルドにしがみつく。そうして上まで上ると、やっとグラルスティール帝国側の入国審査である。

 ここまで帰ってくれば、もうほとんど安全である。パパや兄たちに驚く北部騎士団に馬を用意してもらい、そこからは乗馬で帰宅である。

 約十三日ぶりの帰宅は、心からほっとするものだった。ママは泣き崩れ大変だったけれど、ママが心配していたのは分かるので、しばらくはママの言うことを聞くことにしよう、と思うのだった。迎えに来てくれたパパや兄たち、影や護衛たちにも感謝しかない。

 やっと心から安心して過ごせる日々が送れる。それを取り戻してくれた皆に、何か恩返しがしたいと思うのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。