七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 89話 シャイロ視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 89話 シャイロ視点

このページでは小説を掲載しています。
七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」89話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 89話 シャイロ視点

 王都にある教会は国で一番大きい。その大きい教会の中にシャイロの部屋もある。不本意だが、いまだ王位継承権が一位であるシャイロは、王都内に屋敷を持っていたが執事にほとんど任せっきり。シャイロ自身は普段からこの教会の一室で寝泊まりしていた。

 シャイロは普段から眠りが浅く、やっと寝付いた頃に叩き起こされ眉を寄せた。

「何事?」
「申し訳ありません。お断りしたのですが、シャイロさまのお知り合いという方が、どうしてもお会いしたいと」
「誰?」
「北公と言えば分かると申してましたが」
「北公?」

 そんな呼び名の公爵は、このザクラシア王国にはいない。ましてや、こんな夜中に叩き起こされてまで会ってやる必要は――
 そう思っていた時、思い出した。姉フローリアの夫は、あの国で何と呼ばれていたのだったかと。

「……会おう」

 そして教会の一室、客人の顔を見て予想通りの人物だと答え合わせができたと同時に困惑する。北公、もといダルディエ公爵と息子と思わしき青年が護衛を連れて、こんなところにこんな時間にやってくる理由は何なのだろう。嫌な予感しかしない。

「お久しぶりですね、ダルディエ公爵。三年ぶりほどでしょうか」
「ああ。これは一番上の息子ディアルドだ」

 ディアルドは前回は会えなかったが、ディアルドがまだ小さかった時に会ったことがある。聡明そうな少年だったが、青年となった今は、聡明な上に父に似た心を読ませない表情を携えている。

「ディアルドには、君が小さい頃会ったことがあるのだけれど、覚えているかい」
「覚えております。シャイロさまは母上から仲の良い姉弟だったと聞いておりますが、シャイロさまは今でも母を大事に思っておられますか」
「それはもちろん。……けれど、どういう意味なのかな? いきなりそんなことを聞きに来たとは思えないのだけど」
「いいえ。これを聞きに来たのですよ。母を裏切るつもりなのか、確かめに」
「……」
「ああ、その様子ですと、何もご存じないようですが」
「……何の話です?」

 本当に分からない。ディアルドは何を言っているのだ。
 ダルディエ公爵を窺うと、じっと私を見ていた。

「うちの娘が誘拐されてね」

 それはシャイロにとって、寝耳に水な話だった。

 ダルディエ公爵の話では、クォロ公爵が次期王とするためにミリディアナ嬢を誘拐したのだという。ミリディアナ嬢は姉と同じ神髪神眼とはいえ、女である。このザクラシア王国では女が王になるのはありえない。それはクォロ公爵も知っているはずだが、誘拐された当時、ミリディアナ嬢は男装していたらしく、手違いで誘拐されたのだろう、ということだった。

 ザクラシア王国では王は男のみと決められている。そのため、王族は多いがその王位継承権を持つ男子が少ない。現国王のヴィラルはまだ幼いため子はおらず、王位継承権を持つのは、先帝の兄弟であるシャイロ、そして腹違いの兄弟であるクォロ公爵とメレソォ公爵のみである。私は結婚しておらず子もいない。クォロ公爵とメレソォ公爵は子はいても女ばかり。だから王位を継ぐものが少ないといった不安は常にある。

 クォロ公爵が後見人をしている国王は病気がちであるし、だからクォロ公爵がもしかしたら、姉の子を保険にしようとした可能性は理解できる。ただそうするにも複雑な手続きが多く時間はかかるし、だからといって誘拐などもってのほか。下手すれば国際問題に発展する。

 正直、ミリディアナ嬢が誘拐されたなど、ダルディエ公爵の妄信ではないかと疑った。いやそうであってほしかった。しかし、彼の影がすでに王宮に侵入して、ミリディアナ嬢と接触したのだという。

「……あそこに侵入して、無事に帰ってこられたと?」
「難しくはあったが、無理なことではない」

 しれっと答えるのをやめてほしい。あそこは神に愛された動物離れの力を発する子たちが、王宮の敷地内の庭をうろうろとしているはずなのだ。いくら戦闘慣れした人間でも、暗殺にたけたものでも、幾度となく侵入を阻んできたというのに。

 ダルディエ公爵が紙包みをテーブルに置いた。

「これは?」
「ミリディアナが渡してきた。ザクラシア王が毎日二回飲んでいる薬だそうだ」

 シャイロはその包の中を見て、薬を匂う。その時点でこれが何なのか検討がついた。ザクラシア王国では病気や薬の類は教会の領分なのである。シャイロの部下には特に薬に長けている者がおり、この粉が何なのかシャイロは知っていた。

「これを……一日二度も飲んでいると」
「クォロ公爵が飲ませているそうだ。娘が誘拐されたことも踏まえ、もう何がいいたいのか分かるな?」

 ずっと目をそらしてきた。やっと離れられた王家には、まったく興味はなかった。王位継承権が第一位という鎖が私をいまだ王家に繋いでいたとしても、もう私は聖職者なのであり、あの忌々しい王宮にはもう二度と戻らないと思っていた。

 クォロ公爵とメレソォ公爵が王位というものに興味があるのは知っていた。だから後見人をやりたいというクォロ公爵に全てを任せた。できることなら、王位継承権の第一位というものを花束を添えて贈りたいくらいだった。

 クォロ公爵が後見人をしてくれるのなら、私が口出しなどしても嫌がるだろう、そういう名目で、現国王を顧みることもなかった。それのツケが今頃回ってきたのだろうか。

 私が見誤っていたのだ。自分の自由を守りたいがために、クォロ公爵の野心を見て見ぬふりをした。それがこの結果だ。

 クォロ公爵はただ簡単に操れる人形が欲しかったのだろう。比較的弱い毒を薬と偽り、ずっと弱らせ病床につかせることで、王の権力を意のままに操ろうとしたのだ。ただどれだけ弱い毒でも、飲み続ければ猛毒になる。いつから飲ませているのかは分からないが、数年あれば子供の小さな身体など、あっという間に弱ってしまおう。

 クォロ公爵も計算違いをしたに違いない。こんな簡単に弱るとは思わず、ヴィラルが弱りきってから大変だと気づいたのだろう。もしヴィラルが死んでしまえば、三人いる王位継承者の中でクォロ公爵は末席である。順当に行けば私が次期王であるし、私でなくとも第二位にメレソォ公爵がいる。

 メレソォ公爵が王位につけば、クォロ公爵は殺される可能性もある。あの二人は仲が悪い。

 だから神髪もしくは神眼の男子が必要だったのだ。たとえ他国から誘拐してきてでも必要だった。しかも神髪神眼の男子がいるならば、王位継承権第一位の私を差し置いてでも、次期王となる資格が十分にある。そして誘拐した子をクォロ公爵の隠し子だとでもいって、その子を次期王とならせ、自身がまた裏から権力を握るつもりだったのだろう。

 ああ、これのことなのか。
 先日、神ゼイナフが言っていたのは。私がいつか王宮に戻るという不吉な予言。そしてゼイナフはこうも言っていた。『私の兄弟がここにいる』と。

 三年前を思い出す。ダルディエ領で会った幼い少女の身体から、神々しい光が見えていた。神ゼイナフと相対する時に感じるような空気がミリディアナ嬢をまとっていた。だから、この子は神なのだと、すぐに感じた。

 ミリディアナ嬢は神ゼイナフの兄弟。
 ぞわぞわとした。これはまずいのではないだろうか。神ゼイナフは温和そうに見えて、実はそうではない。ザクラシア女神よりはまだ話の分かる方ではあるが、敵に回せば、ザクラシア王国などあっという間に滅んでしまう。それこそ一瞬のうちに。

 今の最優先事項は、早くミリディアナ嬢を解放し、神ゼイナフの伝言「酒でも飲もう」を伝えることだ。それが子供に言うような話でないのは分かっているが、伝える行動をすること、これが重要なのである。そしてミリディアナ嬢を怒らせることなく、国に帰らすことができれば、神ゼイナフをこの失態で怒らすことはないのでは? ただの願望であるが。

 余計なことをしてくれたクォロ公爵には、もう手放してもらうしかないだろう。この国を。その地位を。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。