七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 87話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 87話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」87話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 87話

 誰かの起きる気配で目が覚めた私は、目の前に兄ではなくヴィラルがいることを思い出した。

「おはようヴィラル」
「おはようルカ」

 大きく欠伸をして、温かいヴィラルにくっつくと、心音がトクトクと聞こえるのだ。落ち着く音に耳をすませ、ついウトウトとしてしまう。

「ルカ、そろそろ戻らないと」

 その言葉に、はっと覚醒する。

「そうでした。ヴィラル、一緒に寝てくれてありがとう。今日の夜もまた一緒に寝てくれる?」
「うん」

 お互い笑いあい、そして私は部屋に戻る。
 外はまだ薄暗い。相変わらず雪深いが、物音を察した犬がトテトテとやってきた。

「わんわん、おはようー」

 全員の犬を一通り撫でると、犬を外に置いて自室に入った。
 そっとベッドに滑り込み、使用人がやってくるまでの間にシオンに連絡をしておくことにした。

 シオンによるとネロも一緒にいるということで、ヴィラルの薬が何なのかを知るために、ネロだけ王宮に忍び込んでほしいと頼んだ。シオンは渋っていたが、とりあえずパパに相談してくれるらしい。

 それの返事待ちをしていると、使用人がやってきて服を持ってきたので、使用人を外に出して一人で着た。その後、朝食をし、昨日クォロ公爵が言っていたとおり家庭教師がやってきた。

 私がザクラシア王国の人間でないため、まずは神のご加護とその恩恵について学ぶのだった。

 その中で面白かったのは、私たちが薄着でも温かく暮らせることについて。
 先生がまず見せてくれたのは、温度計である。私がいる部屋は暖かいと思っていたが、温度計を見ると三度しかなかった。寒くて震える温度である。外はもっと寒くて、住む場所によって多少違いがあるものの、真冬のザクラシア王国の外気温はマイナス十度から三十度ほどになるらしい。ちなみに、先生によると、今の王宮の外はマイナス八度。暖かい部類に入るのだろうか。春が近づいているからかもしれない。

 屋敷内には暖炉があるが、国民は恩恵があるため、室内が三度でも十分暖かく暮らせる温度なのだという。しかもこれは錯覚だとか暖かく感じるだけ、という話ではなく、体自体が本当に暖かいのだ。

 では恩恵でどのくらい暖かくなるのかというと、実際の気温より二十度ほど暖かくなるという。ということは、部屋の温度は三度でも、二十三度ほどに感じているということである。長袖とはいえ、薄着でも暖かいはずだ。
 どういう仕組みなのか先生に聞いたが、仕組みなどはなく、恩恵です、と言われてしまった。まあ、それはそうなんでしょうけれど。

 ザクラシア王国の短い夏は涼しいというが、恩恵で二十度も上がれば暑そうなものだと思う。ところが、年に数度、王の行う祭儀により、恩恵が夏仕様になるのだとか。つまり夏でも暮らしやすい温度に調整されるらしい。何でもありなんだなと思った私は悪くない。

 次に面白かったものは、農業が盛んなことについて。
 一年の大半を雪に覆われている国で、作物を育てるのは大変なことである。ザクラシア王国は温室栽培が盛んで、大半の作物は温室で育てられるらしい。その温室で重宝されているのが、これまた恩恵効果のある石。教会扱いとなっている温室専用の恩恵効果のある石で、教会に依頼すれば購入できる。代金は安く、またその代金は親のいない施設の子供たちの生活費の一部となるらしい。その石を温室の四隅に置けば、温室の中が二十度ほど上昇するらしい。おかげで作物はたくさんできるため、国民が食べるものに困ることはほとんどないという。
 ママの言っていたのは、これのことのようだ。

 ただ、恩恵というものは、王の資質というものに左右されるらしく、恩恵が安定していれば明君、安定していなければ暗君と揶揄されるらしい。安定など、どこを見て判断するのか聞いたが、先生は私を見て「ルカルエムさまであれば、問題なく明君におなりでしょう」と言われた。やはり神髪神瞳が関係しているのだろうか。
 いまいち神だの恩恵だの、ピンとこない。確かに暖かいという恩恵を受けているが、たかが髪の色や眼の色くらいで王の資質などと言われるのは釈然としないものがある。

 先生は他にも神のご加護について熱弁していたが、あまり頭に入ってこなかった。

 それから昼食時にシオンと連絡を取った。先生がいる時に一度シオンから連絡が入っていたのだが、温室の話が面白かったので、またあとで連絡すると言っておいたのだ。

 シオンの話は、私が頼んでいたネロの忍びこみの件と、私を迎えに行く時は、シャイロを頼るという件だった。早ければ、明日には一度ネロが忍び込んできてくれる。

 それから午後も先生による講義があり、夕食をいただいて、トイレを行ったり来たりしつつ、今夜こそは風呂の手伝いをさせろという使用人を追い出した。その代わり、髪の毛を洗う洗料や手順を聞き、その通りにやってみた。私の髪を整えにやってきた使用人は、私の髪を見て、昨日よりはマシですね、とでも言いたげな顔をしていた。ただまだ及第点には程遠いようである。

 それから寝る準備が整えられ使用人は出て行ったが、そろっと廊下に出てみた。すると廊下に立っていた護衛のような男が、「お部屋にお戻りください」と言って私を部屋に戻した。やはり廊下には私が逃げないように見張りがいるようである。

 廊下から逃げるのは無理そうだが、なぜ庭には見張りを配置しないのだろう。あんな懐きやすい犬では番犬にもならないと思う。しかし私には好都合だ。今日もヴィラルの元へ行くために、外へ出る。ぶんぶんと尻尾をふる犬をわしわしと撫で、ヴィラルの部屋を覗く。すると私に気づいたヴィラルが窓を開けてくれた。

「ルカ」
「もう誰も来ない?」
「もう今日は来ないよ」

 二人でベッドにもぐりこむ。

「ヴィラルも祭儀ってするの?」
「え?」
「今日先生に教えてもらったんだ。恩恵の温度を切り替える祭儀があるって」
「ああ。うん、祭儀だけは僕がしないといけないからね。年に三度行うんだ」
「それで温度が切り替わるのって不思議」
「ふふふ。そうだよね。でもルカも祭儀を行えば、神がすぐそばにいることを理解できると思うよ。儀式は形だけのものじゃない。王はこのためにいるんだって僕は思う。でもそうか、もうそういうことを学び出したんだね」
「あ……ごめん」

 それすなわち、次期王になるための知識の植え付けである。ヴィラルからすれば、良い気はしないだろう。

「いいんだよ、ルカのせいではない」
「あのね、ヴィラル。俺そんなに遠くない日、ここを出ていくよ」
「え?」
「だから俺が次の王になることはない」
「出ていくって、どうやって?」
「迎えが来るはずだから。パパやお兄さまが来てくれる」
「……信じているの? こんなところまで来てくれるって」

 信じているということもあるが、ただの事実だ。明日には王都入りしてくれる。それを言うわけにはいかないけれど。

「信じているよ」
「……そっか。でも寂しいな。初めて友達ができたのに」
「離れていても友達だよ」
「ルカは僕のことなんて忘れるよ」
「忘れないよ。ザクラシア王国で唯一優しくしてくれたヴィラルのことは、ずっと覚えてる」

 ヴィラルのおでこにおでこをくっつけた。

「だからヴィラルも俺のことを忘れないでね」

 くすくすと笑いあう。ずっと一緒にはいられない。だからずっと覚えている。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。