七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 86話 シオン視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 86話 シオン視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」86話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 86話 シオン視点

 ザクラシア王国の港エベラから王都までは、馬ソリで約一日半。このザクラシア王国の一年の大半は雪で覆われ、その雪の時期は、道路が用途別に二つずつあるという。一つは少しの休憩を挟む以外は馬ソリで昼も夜も走り続ける専用の道、そして馬ソリでも農業でよく使うため渋滞の起きやすい道。それが往路であるため、道は四本あることになる。

 その昼も夜も走り続ける馬ソリを貸し切りにしたものを二台、急いで手配した。借りた馬ソリの中は馬車とは違い、向かい合うものではなく、人間が同じ方向を向くように椅子が三列並んでいる。つまり中が大きくて、人数が入るのだ。

 そのため、一台に父上とその息子たち、そしてネロ。もう一台に残りの影と護衛騎士が乗り込んだ。護衛騎士が別に乗ってどうするんだ、とは思うが、いったん父上と兄弟間の話し合いが必要であるし、何かあってもネロが強いため、なんとかしてくれるだろう。それに、俺や兄たちもそこそこ戦える。

 馬ソリに乗って一夜が明けた。
 俺たちは寒くないが、父とネロは寒いのか、港エベラで取り急ぎ揃えた熱を発する器具を抱えてうずくまっている。

 昨日のミリィの話から、黒幕がクォロ公爵だと分かった。父上は会ったことないらしいが、母上の腹違いの弟にあたるらしい。そのクォロ公爵が本当に黒幕であるなら、今回のミリィ誘拐にはウィタノスは関係ないと思っていてもいいだろうとは思う。ザクラシア王が少年王であり、その後見をしているそうだが、ザクラシア王は病床のため、王としての実権を握っているのはクォロ公爵だと父は言っていた。
 そのクォロ公爵がミリィを次期王にしようと動いているのだという。

 もし今の少年王が死ぬことがあれば、王位継承権で一番高いのは母の同腹の弟シャイロだというから、ザクラシア王国にミリィが連れ去られたと分かった時、最初はシャイロを疑ったのだと父は言う。母上の話では、シャイロは昔から王家を嫌っていて、王家から離れるために聖職者になったと聞いていた。そのため自分が次期王となりたくないシャイロが、ダルディエ家から息子を一人誘拐した可能性を考えていた。それがたまたま男装していたミリィが誘拐されたのだと。

 しかし黒幕がクォロ公爵なのであれば、また話は違ってくる。クォロ公爵は王位継承権第三位だというが、王位に近そうな位置であり実は遠い。そのため、今のザクラシア王のように裏から実権を握るべく、神髪、もしくは神瞳の男の子がダルディエにいると聞いて、誘拐にやってきたのだろう。

 つまりは。

(狙われたのは、神瞳の俺ではないか)

 なのに、手違いでミリィが誘拐されてしまうとは。
 腹立たしかった。俺であれば返り討ちにしてやったのに。ミリィをあんなに悲しませて。
 やっと声が聞けたときは、涙声だったミリィ。心細かっただろうに、怖かっただろうに。うちの妹をこんな目に合わせたクォロ公爵は絶対に許さない。

 ぐぐっと拳に力を入れた時、その妹から連絡がきた。

(シオン、起きてる?)
(起きてるよ)

 今のところ、声は元気そうだ。

(ネロも来てる?)
(来てるよ)
(あのね、迎えに来る前に、一度ネロだけ王宮に忍び込めるかな?)
(どういう意味だ?)
(ネロに調べて欲しいものがあるの)

 ミリィの話はこうだった。
 ザクラシア王のヴィラルとかいう少年と仲良くなったのだという。その少年が病気のようだが、その飲んでいる薬が何なのか、嫌な感じがするので、一度調べて欲しいという。

 嫌な感じ。それはミリィが俺たち兄弟や、両親に何か危険なことがありそうな時、先に察知してしまうときに使う言葉だ。いつも漠然としている。何かすることを止められて、止めてみたものの何も起こらなくて、何だったのだ? ということもある。けれど、きっと止めたから何もなくてすんでいるのだ。そう俺たちは理解しているし、だから「嫌な感じ」と言われれば、それを止めるくらい信用している。

 しかし、それがヴィラルにも発揮されるのには首を傾げた。ヴィラルは家族ではない。それともザクラシア王は従兄弟らしいので、血のつながりが関係しているのか。そうであれば、かなり範囲が広すぎないかと思ってしまう。血のつながりのある親戚は多すぎるのだ。血のつながりだけで危機を察知するなら、ミリィはたびたび、嫌な感じがするのではないか。血のつながりだけでなく、何か条件でもあるのかもしれない。

 とはいえ。

(駄目だ。王宮に行くときは、ミリィも連れ出す)

 ただでさえ、今ミリィが無事でいるのは、性別を偽っているからである。それがいつばれてしまうかも分からないのに、いつまでもそんなところに置いておけない。

(ミリィもすぐに迎えに来てほしいけど、ヴィラルが心配なの。せめて薬が問題ないかだけ知ってから帰りたい)

 黒幕ではないとはいえ、ミリィを誘拐した国の王など、ほっておけばいいのに。従兄弟だとしても、俺はどうでもいい。生きようが死のうが興味はない。
 しかし、意外と頑固なミリィは、たぶん意見を曲げないのだ。
 頭が痛くなりながら、ため息をついた。

(一度、父上に相談する。後でまた声をかけるから)
(分かった)

 連絡が途切れると、さっそく父上に相談した。

「使えるかもしれんな」
「何がです?」

 兄弟全員とネロが父上を見ている。

「その薬がミリディアナの言う『嫌な感じ』のものだったとしたら、シャイロとの交渉に使えるかもしれん」
「どういう意味です?」
「王宮へ着いたとして、ネロなら侵入できるだろう。ただ、あそこは何があるか分からない。それこそ神の恩恵とやらが渦巻く中心地だ。私たちの知らない何かがあってもおかしくない。そこからミリディアナを無事に連れ出せるのか、それが気になる。お前、ザクラシアの王宮に侵入したことは?」
「あるよぉ。あそこヤバイのいる。一見ただの狂暴そうな犬なんだけどね、それだけじゃないんだ。見た目以上に侵入者には容赦ない」
「容赦ない犬はどこにでもいる」
「いやいや、あれはそれこそ神がかった犬だよ。水準が違う。できれば、もうお目にかかりたくない」
「それ何年前の話だ」
「うーん……五十年くらい前かなぁ。でもまだいると思うよ」

 途中ネロの声音が真剣身を帯びた。こういうときは、真剣に話を聞いておいた方がいい。

「そういうことだ。他にも何が起こるかわからん。そうなると、ミリディアナを無事に連れ出すなら、正規の道が望ましい。それにはシャイロを使うしかない。ただ、あの男の王家嫌いは根が深そうでな。だから少年王の薬が何かあるなら、それを材料に交渉できる可能性があるかもしれん」

 なるほど。確かに聖職者であるものの、王位継承権がまだ第一位ということは、それを捨てれなかったのか捨てさせてもらえなかったのか分からないが、まだ王家に影響力はある、ということだ。

 結論として、王都に着いたら、すぐに王宮へ向かうのではなく、とりあえずの身の置き場として王都のホテルを取ることとなった。そして、ネロはすぐに王宮へ。それからシャイロと交渉し、王宮へミリィを迎えに行く。

 本当なら、俺もネロと共に行きたいが、ネロに止められた。
 納得はしていないが、決まったことをミリィに伝えようとしたところ、「ごめーん、今勉強中なの! あとで連絡するね!」と元気よく言われ、連絡を切られてしまった。

 なんとのんきな。けれど、その元気さに安堵するのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。