七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 82話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 82話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」82話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 82話

 ヴィラルはベッドに座って本を読んでいたところらしい。寝巻を着ている。

「病気?」
「そうだね、体調はよくない」
「じゃあ、ベッドに戻ろう」

 私はヴィラルの背中を押し、ベッドの元居た場所に座らせる。そして、ちゃっかり私もそのベッドの上に乗った。

「ルカルエム、君はなぜここにいるの?」
「ルカでいいよ。クォロ公爵に連れてこられたんだ」
「連れてこられた?」
「君はクォロ公爵の息子?」
「違うよ。クォロ公爵は僕の後見人のようなものなんだ」

 後見人か。というと、この子は親がいないのだろうか。

「連れてこられたって、どういうことかな?」
「誘拐されたんだ」
「誘拐!?」

 ヴィラルは驚きと戸惑いが混ざったような顔をし、そのまま考え込みだした。

「……もしかしたら、僕の身代わりのつもりなのかもしれない」
「どういうこと?」

 その時ヴィラルは、はっとして言った。

「人が来る。ここに隠れて」

 ベッドの中に慌てて入った私は、息を殺した。

「お加減いかがでしょうか、陛下」
「問題ない」
「それはようございました。こちら、午後のお薬です」
「置いておいてくれ」
「かしこまりました」

 がちゃがちゃと物を動かす音がしばらく続き、使用人が出ていく気配が過ぎた後、ヴィラルは吐息をした。

「もう大丈夫だよ」

 そろりと布団から顔を出し、じっとヴィラルを見た。

「……ヴィラルって、もしかしてザクラシア王なの?」
「一応ね」

 まさかザクラシア王が、こんな少年王だとは思いもしなかった。

「さっき言っていた身代わりって……」
「王の代わりだよ。僕の体は壊れ気味だから。それに君は神髪神瞳だし」
「……ヴィラルは何かの病気?」
「みたいだね。もうずっと、長い時間起きていることができない。最近、血を吐くことがあるから、もう長くないとクォロ公爵は考えているのかもしれないな」

 自分のことなのに、淡々と話すその姿は子供らしくなく、またどこか他人事を話しているようでもあった。
 布団から起き上がり、ヴィラルの前に座り、両手で彼の顔を包む。確かにヴィラルの顔には生気がない。今にも倒れそうである。
 おでこに手をやると、微熱がありそうだった。

「ヴィラルは兄妹は?」
「いるよ。姉が二人」
「王を代わってもらえないの?」
「無理だろうな。女性だもの」

 やはり男尊女卑が激しいのか、ザクラシアは。

「ヴィラルは女性が王なのは嫌なの?」
「え? ……考えたことなかったな。どうだろう、女性は家にいるものだし、他家に顔も出すことがない。王の仕事など無理じゃないかと思うのだけれど、僕みたいに病気でクォロ公爵任せにしているくらいなら、女性のほうがいいのかな」
「それは……女性が王でもかまわないってこと?」
「そうだね。僕はいいと思う。だけど、クォロ公爵や他の国民は許さないだろうけれど」

 ヴィラルは少し疲れたのか、ベッドの枕に深々と体を預けた。

「僕が死んだら、姉が次の王になるなんてことはないよ。たぶんシャイロ叔父上かクォロ公爵か、あとはメレソォ公爵あたりの誰かがなるだろうと思ってた。君を見るまでは」

 ヴィラルは私の髪と瞳をじっと見る。

「ルカのように神髪神瞳の人を見るのは初めてだ。いつもどちらかが欠けているものだし、僕のようにどちらも持っていないものが王になることも多い。君こそクォロ公爵の息子ではないの? 神髪神瞳の君がいれば、次の王は間違いなく君が一番近いと思う」

 やはり王になる条件の優先順位には、神髪神瞳が強く影響するようだ。

「あんなおじさんがパパなんて嫌だ」

 嫌すぎて顔が歪む。私のパパは、パパがいい。

「さっきシャイロさまの名前が出ていたね。叔父上って言っていたけれど、シャイロさまの兄妹がヴィラルのパパかママ?」
「僕の父は先王ジェラル。シャイロ叔父上の兄だよ」
「同腹の?」
「そうだよ」

 ということは、ママとシャイロとジェラルは、同じ母から生まれた兄妹ということである。

「なあんだ、だったらヴィラルと俺は、いとこだね。俺のママはフローリアっていうんだ」
「……え!? まさかルカはグラルスティール帝国から誘拐されてきたの?」
「そう。びっくりだよね」
「……」

 ヴィラルは落ち着こうと息を吐いた。

「……それだけ、クォロ公爵が焦っているということなのだろう。僕の死期はそこまで迫っているようだ」

 すると薬を飲まなければならないことを思い出したのか、起き上がると薬を包んだ紙を開く。

「それ、いつも飲んでいるの?」
「うん。一日二回」

 なんだろうなあ。少し心がざわっとするのだ。過去にも幾度か感じた、この気持ちわるい感覚。

 ヴィラルが薬を口に持っていこうとするのを見ていたが、口に入る直前で彼の手を握った。

「それ、飲まないとどうなるの?」
「どうって?」
「すぐに死んじゃう?」
「……いや、そんなことはないけれど」
「じゃあ、しばらく飲むの、やめない? 嫌な感じするから」
「嫌な感じって?」
「説明が難しいんだけど……。こういうときって、大体当たるんだ。そもそも、この薬いつから飲むようになったの?」
「……五歳くらいかな」
「それって何年前?」
「三年前。今八歳だから」
「へぇ! 俺よりお兄さんだね! 俺は六歳」

 ヴィラルは儚げなせいでもう少し幼く見える。

「俺もよく熱が出るし体が弱いんだけど、ヴィラルも小さいころからそうなの?」
「ううん、僕は、五歳頃からよく体調を崩すようになったんだ」
「だから薬を飲みだしたんだね」
「うん。……いや、違うかな。それより前から飲みだした気がする」
「それより前って?」
「僕が王位についたのは三歳なんだ。それからクォロ公爵が世話をしてくれてはいたんだけど、僕はまだ子供で、次の跡継ぎができるまでは体力がいるからって。子供の体づくりに必要なものだって言われて飲むようになったのだったような気がする。でもこの薬じゃなかったかもしれない、もう少し甘かったような」

 記憶があいまいなのだろう。ヴィラルは思い出そうと眉をよせていた。

 それを聞いて、ますます怪しい薬な気がする。私の嫌な感じがするのも、昔パパの危機を感じた時と同じような感覚なのだ。あれから幾度か兄たちにもそんな感覚がすることがあり、兄たちを何かから守った感覚だけが残る。その後、あれはそうだったのか、という答え合わせができないので、そんな曖昧なものなのだが。
 そのなぞの嫌な感覚が自分自身にも効くなら、誘拐される前に気づけただろうに。一度も自分に発揮できたことはない。

「やっぱり、この薬、いったん飲むのやめない?」
「……クォロ公爵が僕に何かしているかもしれないってこと?」
「しているかもしれないし、していないかもしれない。それを確かめたくない?」

 ヴィラルは静かに考え込む。

「いいよ。そうしよう。飲んでも飲まなくても、僕に先は長くないもの」

 悲しい結論を自ら導き出したヴィラルは、その薬を私に渡した。
 私はそばのテーブルに置いてあった紙へ、薬の中身をうつすと、薬を包んでいた紙は元の場所へ戻す。そして、うつしかえた薬を紙で丁寧に包む。

「これは俺が預かる。また薬を持ってきたら、今みたいに薬は移し替えて、飲んだふりだけしてくれる?」
「うん、わかった」

 それからヴィラルと少し話をし、私はあてがわれた部屋に戻ろうと窓を開けようとする。

「ちょっと待って、ルカ」
「なに?」
「ここへ来るとき、外に犬がいなかった?」
「いたよ」
「……追いかけられなかった?」
「ううん? いい子いい子してって頭を差し出すから、撫でてあげたよ」
「……そっか」

 ヴィラルは何か困惑している。

(確かにあの犬、怖い顔してるもんね。性格が優しいとは思いづらいもん)

「じゃあ、俺が行ったら鍵してね」
「うん」
「またね」

 行きと同じ場所を通りながら、私は急いで部屋へ戻った。
 犬が部屋の中に入らないよう注意しつつ、部屋に誰もいないのを確認する。
 持ってきた薬はどこかに隠さなければならないが、使用人が掃除してしまえそうなところは隠せない。とりあえず机の引き出しを引き出し毎取り出し、薬をその奥へ押し込めた。そしてまた引き出しをはめ込む。

(これでいったん安心)

 ふらふらとベッドへダイブする。

(情報過多だなあ)

 ヴィラルはいい子だった。死期が迫っていると本人は言うが、どこかその死が作為的な感じを否定できない。クォロ公爵がとにかく怪しいのだが、私も捕らわれの身。頼るものがいなくて、心細い。ヴィラルの件もどうにかしたいと思っても、私に何ができるのか。

(薬を飲むのは止めさせたけど)

 これが正しいとも限らない。もしかしたら、本当にただの薬かもしれない。
 枕に顔を埋め、もんもんとしていると、声が聞こえた。

「え!?」

(リィ! ミリィ!)
(シオン!)

 懐かしい声を聞いた。ここ数日、聞けてなかった大好きな兄の声。

(ミリィ! 聞こえるな!?)
(聞こえるー! よかった! シオン、嬉しい)

 じわじわと涙が出る。

(元気なのか? 体調は? 怪我はないのか?)
(うん、どこも悪くない。ミリィ元気よ)

 止まらない涙を、顔ごと枕に押し付ける。

(ごめん、ずっと心細かっただろう)
(うん。シオンの声聞きたかったの。どうして聞こえなくなったの? 体調悪かった?)
(違う。今ミリィ、ザクラシア王国にいるな?)
(どうして知ってるの?)
(今、俺もザクラシアにいる)

「え!?」

 つい驚いて声が出てしまった。

(本当に? もしかして迎えに来てくれた?)
(当然だろ。俺の妹を連れ去ったやつ、殺す)

 ああ、シオンだなあ。殺伐としたセリフなのに安心してしまう。

(どうやら、ザクラシアの国境に見えない何かがあるらしくて、話が出来なかったのは、それのせいらしい)
(うん?)
(いいよ、分からなくても。それより、今どこにいるか分かるか?)
(あ、それ聞けばよかった)
(え?)
(ううん、こっちの話。たぶん、王宮だと思うの。ザクラシア王のいるところ)

 ヴィラルに聞けばよかったと思いつつ、しかしザクラシア王がいるのだから、十中八九そうだと思うのだ。

(ということは、王都だな。分かった、いったん話切るけど、いいか?)
(また連絡してね)
(ああ。今は連絡できるから、ミリィからも連絡できるからな)
(うん。早くみんなに会いたい)
(分かってる。すぐに行くから、待ってろ)

 そのまま声はしなくなった。
 私はシオンと連絡できたのが嬉しくて、それとホッとしたことで、しばらく涙を流しながら笑うという器用なことをするのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。