七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 81話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 81話

このページでは小説を掲載しています。
七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」81話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 81話

 部屋を案内された私は、まず部屋の中を確認した。
 ベッドのある広い部屋があり、机も用意されている。続き部屋が二つあり、一つはバスルーム、もう一つはトイレだった。

(この部屋から出るなといいたいのね)

 食事や服など、必要なものは都度運んでくる予定なのだろう。最低限トイレと風呂、ベッドがそろっているため、部屋から出なくても生活できる。もちろん部屋から出さないぞ、というクォロ公爵からの意思表示だと受け取る。

 ベッドの横のテーブルにはベルが置いてあり、私は早速ベルを鳴らした。
 やってきたメイド、もしくは侍女だろうか、その女性の使用人に風呂の用意を頼む。

(とにかくお風呂に入りたい)

 気を失っていた二日、そして馬ソリで移動の三日、計五日風呂に入っていないのである。毎日風呂に入っていた身として、すでに限界だった。

 実は、平民であればお風呂に三日程度入らないのは一般的である。国によっては水は貴重であるし、女性は長い髪を風呂のたびに洗うことも少ない。貴族であれば毎日入る人もいるが、それでも髪は毎回洗わないものだ。

 ただ前世日本人で毎日風呂に入っていた私からすると、毎日お風呂に入らないなんて考えられない。髪だって毎日洗いたい。そういう部分は、うちはママがいたから、それが異質にはうつらないのがありがたかった。ママは風呂好きである。私も時々使わせてもらっていたが、ママは毎日うちにある温泉に入っている。なんで温泉があるんだろうと思っていたが、ママがザクラシアの王女だったかららしい。

 ザクラシア王国は温泉大国でもあるらしく、国のいたるところで温泉が出るのだとか。だから平民も温泉に入る習慣があるらしい。その温泉好きなママのために、ママがパパと結婚した時に、パパが作ったのだ。最初はただの大きい風呂の予定だったのだが、まさか温泉まで引き当てるとは驚きだが。

 不本意とはいえ、せっかくザクラシア王国へやってきたのだから、その名物の温泉に入りたいものだが、なんせ今の私は男の子なのだ。まだ幼児で凹凸のない身体の子供とはいえ、見られたら性別がバレてしまう。

 だから、ここでお風呂に入る時も気を付けなければならない。いつもであれば、侍女にお風呂に入れてもらい、洗ってもらい、ふいてもらい、と至れり尽くせりだが、ここではそうもいかない。

 お風呂の準備が整うと、予想通り私の風呂を手伝おうとやってきた使用人を追い出した。

「俺は親しくもない使用人に体を触られるのは嫌いなんだ。自分で洗えるから出て行ってくれ」
「そんな、困ります! お世話をするように、言付かっておりますのに」
「では、あとで髪の毛くらいはふかせてやる! それまで、外で待機していろ」

 シオンのように命令してみたけれど、どうだろうか。男の子のように見えただろうか。
 ただ命令されてやってきただけの使用人には悪いが、どうしても性別を知られるわけにはいかないのだ。

(いくら普段一人で風呂に入ったことがないとはいえ、前世では自分でやってたんだから! できるはず!)

 しかし、風呂に入るのは、思った以上に難しかった。バスタブの側に石鹸のようなもの、何か液体が入っているものが数種類、どれも何が入っているとは書かれていない。使用人にシャンプーやトリートメントとか聞いておけばよかったと後悔するが、いまさらだ。少量手にとっては確認し、あとは勘である。

 四苦八苦しながらなんとか風呂を済ませ、用意されていたタオルでふき、服を着る。

(あー気持ちよかった。やっと人心地つけるわ)

 とにかく体が痒い気がして気持ち悪かったのが、すっきりする。
 ただ問題は、髪の毛だ。肩まで伸びた髪の毛は、今はぐちゃぐちゃである。今まで侍女がどういう手順で手入れしていたのか、任せっきりで見ていなかったツケがこんなところで回ってくるとは。

 とりあえず、風呂も入り服も着たので、あとは使用人に任せようと呼んだ。
 呼ばれた使用人は、私の髪を見て、悲しそうな顔をした。

(ごめん)

 あとで髪を洗う手順くらい聞いておこう。

 それから、使用人が苦労したおかげで、髪の毛は綺麗に整えられた。
 すると、待ち構えていたように、昼の食事が運ばれてくる。

(良い匂い)

 お腹は空いている。けれど、これは食べてもお腹を壊さないか心配だった。見たことのない料理が並んでいるのである。なんせすぐに腹痛を起こす身体である。私を連れ去った男が馬ソリでは干し肉ばかりよこすから仕方なくそれを食べたが、あれもお腹が痛くなって大変だった。

 しかしいつまでここにいることになるか分からない以上、ここで出る食事を少しずつ体に慣らしていくしかないだろう。
 パンを少し、そして肉料理を少し、そのように少しずつ料理を口にする。ザクラシア王国は、どうやら塩分が少し高めのようだ。全て塩辛い。

「今度から、もう少し薄めの味付けにしてくれ」
「かしこまりました」

 これくらいの注文なら問題ないだろう。
 食事が終わると、使用人は出て行った。「今日は予定がないためここで休むように」というクォロ公爵の伝言を残して。

 結局、案の定あれからトイレに数度籠るはめになった。料理のどれかが私に合っていなかったのだろう。
 しかし落ち着いてきた。ベッドで休むついでに昼寝でもしようと横になるが、眠れない。知らない場所で緊張しているからろうか。しかしそうではない。

(よく考えたら、昼寝を一人でしたことなかったわ)

 夜は悪夢を見るため兄がいないと寝れず、昼は昼で侍女やママに見守られて、もしくは三尾に添い寝してもらいながらしか昼寝をしたことがないのだ。自分がすごく甘やかされているのを、改めて確認してしまう。
 さらわれた時でさえ、男が同席していたから寝れただけなのだ。

 だが。

(これはやばいかもしれない? この部屋誰もいないのに)

 私は夜どうやって寝る気なのか。昼寝もできないとなると、昼夜逆転もできないのだ。それに悪夢を見た時に起こしてくれる人も必要である。

(夜寝るとき、使用人を呼ぶ? 添い寝してくれって?)

 いやいや、おかしいだろう、それは。
 うーんうーん、と悩んでいると、窓の外からカサカサと音がしているのに気づく。

「あれ?」

 わんこがおる。獰猛そうな顔の犬が五匹。なぜか窓の前で整列してこちらを見ている。

(さっきまでいなかったよね?)

 窓の前まで移動し、わざと窓の右から左へ、また左から右へ移動してみると、犬の顔が私の移動に合わせて動くのである。

(ガン見しとるわ。監視されている?)

 クォロ公爵が言っていた、獰猛な犬とはこれらの子たちだろう。

(まさか、窓突き破ってきたりしないよね)

 鍵がかかっているのか心配になり、窓が開かないか確認するために取っ手を下へ押す。

「うそ」

 窓が開いた。鍵がかかってなかった。開くとは思っておらず、そのまま窓が開けられていくに連れられ、私はそのまま窓の外の地面に突っ伏した。

(食べられちゃう!)

 ぎゅぎゅぎゅっと目を瞑るが、何も衝撃がこない。

(……あれ?)

 少しずつ目を開けて上を向くと、犬が私を囲んでいた。しかし襲ってくる気配はなく、首を傾けていたり、手を舐めてきたりしている。これはどちらかというと。

(心配されている?)

 恐る恐る犬の頭を撫でる。すると気持ちよさそうにするのだ。尻尾をはち切れんばかりにぶんぶんと降っている。
 顔は確かに獰猛なのだが、実は優しい性格なのか。

(うちのパパみたい)

 獰猛に見えて優しいなんて。そう考えると、犬が可愛く見える。

「クォロ公爵が言ってた犬って、君たちのことではないみたいだね」

 他にもいるのだろうか。犬と戯れながら、あたりを見渡す。

 窓の外は雪深い。部屋は暖かかったが、やはり外は部屋の中より寒い。風呂上りに薄手の部屋着を着ているだけでは、この外の雪の中では寒いはずなのに、思った以上に寒くないのだ。ひんやりはするが。

(恩恵って、便利ね)

 これなら、この薄着でも外をウロウロできてしまう。
 こうなると、少しだけ外をこっそり見回ってみようという気になるのも無理はない。犬を放し飼いにしているからか、警戒している兵や騎士もいない。

 手始めに、隣の部屋らしき窓から、中を覗く。

(誰もいないな。窓も開かないし)

 入れない部屋には用はないので、次の部屋の窓もまた同じように試してみる。
 そんなことを、複数の窓で試していたとき、また同じように窓に鍵はかかっていたものの、中に人がいることに気づく。相手は私より少し年上に見える少年だった。しかもこちらに気づいており、驚いた顔で見ている。

 身振りで窓の鍵を開けて欲しいと頼むと、少年は戸惑いながらも開けてくれるのだった。

「君、だれ?」
「俺はルカルエム。君は?」
「ヴィラル」

 青白い顔色のヴィラルは、蜂蜜色の髪と菫を連想する紫色の瞳を持つ、儚げな少年だった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。