七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 80話 パパ視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 80話 パパ視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」80話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 80話 パパ視点

 護衛から娘が消えた話を聞いたのは、その日の昼前だった。朝から娘と護衛は街へ出かけており、二時間で戻るはずだった。
 平謝りする護衛の処分はいったん保留である。まずはそのいなくなった娘を探す方が先決だ。

 護衛の話だと、春の祭りの準備をしている場所で甘い匂いにつられ、娘がその匂いの元へ急いでいたという。まだ雪が積もっているため、普段ならば街の行きかう人はそこまで多くないはずなのだが、祭りの準備中で人が多かったのが災いした。しかも特に人が集まっているところへ娘は向かい、小さな体は人々の隙間をするすると抜けて先に行ってしまったという。

 それでも声をかけるとすぐに娘の声が帰ってきて、直後にその店の前に護衛が到達したらしい。なのに、先にいるはずの娘がいない。最後に娘の声が聞こえてから、店まではほんの五秒ほど。その数秒間に娘は忽然と消えたという。

 当然護衛は娘を捜したし、祭りの準備ためにダルディエ公爵家から人を出していた影響で、すぐそばに護衛の同僚がいたという。協力してもらい探したが、娘は一向に見つからない。その同僚にはまだ探してもらっているが、護衛は娘が消えた報告のために、ここにやってきたのだ。

 すぐに娘捜索のため、街へ人を投入した。また影も数名配置し、情報収集へ向かわせる。それと同時に念のため、一番最速の伝書バトを帝都へ飛ばす。ネロが必要になる可能性があるからだ。もし途中で娘が見つかったなら、また伝書バトを送ればいい。

 しかし、また伝書バトを送る事はなかった。情報収集に向かわせた影から、娘らしき子供が不自然に馬車に乗せられた姿が目撃されていたという情報が入ったためだった。引き続き影は、その馬車がどこに向かったのか探っている。
 これはもう誘拐確定だろう。

 息子たちから、娘の前世とやらの話は聞いていた。ウィタノスという輩が娘の命を狙っているということも。この誘拐は、そのウィタノスが原因なのか、はたまた別件なのか。
 情報が足りなさ過ぎて判断ができない。

 しかし、その日は新しい情報は上がってこなかった。
 フローリアに黙っているわけにもいかず慎重に話をしたつもりだが、フローリアは寝込んでしまった。
 当然私も寝れるわけもなく、執務室で雑務をこなそうとするが、まったく進まない。そして執務室には部屋で寝ろというのに双子がソファーで寝息を立てていた。何かあれば、私のところに一番に情報が来るのは分かっているので、ここで待つと言って聞かないのだ。

 そして、誘拐と分かった次の日の朝方、影が音もなく部屋へ入ってきた。

 影の話によると、娘を誘拐したと思われる馬車はダルディエ領の東にある港へ向かったという。その港にあるホテルの一室に入った後、部屋を出ていないとホテルの従業員は説明するらしいが、その部屋はすでにもぬけの殻だった。支払いもせずに消えたらしい。

 その部屋には元々娘をさらった男とは別の男が入室していた。しかしその男の親戚だと名乗る男が、息子が途中で寝てしまってと、白銀に近い髪の女の子のような男の子を抱えてやってきたという。追加料金は払うからと言われたため、部屋に男と子供を通した。しかし影がホテルを探って、その部屋に到達した時点で、その部屋の男二人と子供はすでにいなくなっていたという。

 頭が痛かった。これでは、そこからどこに行ったのか分からない。男二人は特に特徴もない普通の男らしい。
 港には漁業を営む者、運送業や海外への行き来のある船の関係者、ホテルなどがあって、人の行き来が多い。港のホテルを利用したのは、実は港は関係なく偽装で、そこから国内のどこかへ移動しているのならまだいい。一番問題なのは、そこから海外へ出られた場合である。

 影たちは引き続き娘の行方を追っているが、それ以上有力な手掛かりを得ることができなかった。

 唯一の頼みの綱はネロである。今こちらに向かっているはずだが、どれくらいで到着するだろうか。どんなに飛ばしても馬では三日はかかるだろう。それだけあれば、誘拐実行者は娘をどれだけ遠く連れ去っているだろうか。

 娘のことは唯一の女の子で末っ子、そして体が弱いこともあり、かなり甘やかしているのは自覚している。いつも寂しがりで甘えたがりだが、実は我慢強くて泣かない子だった。娘のことだ、誘拐されても泣かないのかもしれない。きっと私たちが助けてくれると、希望を持っているだろう。それでも、決して怖くないはずがないのだ。見知らぬ人間に囲まれ、何をされるか分からないのだから。

 早く助けてあげなければ。そして早く無事な姿の娘を、この腕に抱きしめなければ安心できない。

 それからやはり何も情報がないまま二日経過し、やっと帝都からネロが帰ってきたと思ったら、ディアルドとジュードとシオンまでいた。

「なぜいる?」
「ミリィが誘拐されたと聞いて、そのままのうのうと帝都で講習など受けていられませんよ」

 それはそうだとは思いつつ、ため息がでる。エメルまで連れ出してきていないことが、せめてもの救いだ。

「それで、状況はどうなっているのです?」

 分かっている全てを話し、情報が港で止まっていることに、みな狼狽している。

「シオンがミリィと連絡できないみたいなんです、ずっと」

 ジュードがシオンを見ながら苦悩する。シオンはほとんど寝ていないと思われる瞳を鋭くしながら頷いた。

「こんなことはなかったのです。帝都とダルディエ領でいつもやりとりしていて、この距離で連絡つかないことなんてないのです。なのにここ三日近く、まったく連絡がつかない」

 ここまで連絡が付かないことは、何を示しているのか。三日も気を失っているのか。ずっと寝ているのか。もしくは、最悪の状況か。
 ここにくるまで、息子たちがその想像ばかりしてきたのだろう。

 確かに変である。他に考えうるとすれば、帝都とダルディエ領より離れた距離にいる可能性、もしくは……。
 そこまで考えて、はっとした。

「まさか……」
「父上? 何か思い当たる節が?」
「ザクラシア王国かもしれないな」
「ザクラシアですか?」
「それならシオンが連絡つかないのも、ありえるかもしれない。そういえばネロはどうした」
「それが、ここに着いた途端いなくなって」
「いるいる! いまここに到着!」

 緊張感のない声でネロが手を挙げた。

「あれはどうした」
「分かっているって。今取りに行っていたとこなんだから。はい、これでしょ」

 ネロは机の上に緑色の小さな宝石を置いた。すると、その宝石はひとりでにズズズと少しずつ動くのである。

「何これ」

 子供たちがそれを興味深そうに見た。

「共鳴石だよ。お嬢のと対のやつ」
「共鳴石?」
「お嬢が左耳に付けているでしょ、ピアス。あれだよ。赤ん坊の時、お嬢が地下に落ちちゃったこと覚えてる? あの後すぐに取り付けたんだよ、備えのつもりで。使わずにすめば、よかったんだけどね」
「……そういえば、ネロが付けてたの思い出した」
「あ、あの時、シオン坊ちゃんがいたんだっけね? 俺、複数共鳴石持ってるからね、ここに戻ってこないと、お嬢のは取りに来れないんだ」
「持ち歩けばいいのに」
「馬鹿言わないでくれる? 共鳴石の片方は、取り扱い注意なんだよ。普段は遮断しておかないと、いつでも共鳴しちゃうんだから」

 ネロは地図を広げると羅針盤を使い、地図を固定する。そして共鳴石を置いた。

「……うん、やっぱり公爵の言うように、ザクラシアかもしれないね」
「間違いないの?」
「うん、ほぼ。ザクラシアの向こうに国がなければだけど」

 我々の常識では、ザクラシア王国の向こうには海が広がるだけである。ただ、今それを議論しても仕方がない。シオンが連絡できないと言っていることからも、娘がザクラシア王国にいるだろうということは間違いなさそうだ。

「ザクラシアへ行く。準備をするぞ。お前たちも行くのだろう」
「もちろんです」

 本当は息子たちは連れて行きたくないのだが、ことザクラシアに限っては、私の方が役に立たないかもしれない。

「シオンがミリディアナと連絡できない件については、道中に話そう。そういえば、ここまで二日ほどでよく着いたな?」
「始終馬を変える以外は走らせましたから。さすがに夜は危ないので止めましたが、少しでも明るいうちはずっと」
「そうか」

 シオンの肩を軽くたたくと、家令に指示を出すために部屋に呼ぶのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。