七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 79話 シオン視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 79話 シオン視点

このページでは小説を掲載しています。
七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」79話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 79話 シオン視点

 アカリエル公爵家の一室、シオンは床に倒れ込んでいた。
 額に汗が浮き出ている。

(あー苦しい)

 天恵の才能を伸ばすには、それ相応の訓練が必要である。だからこうしてアカリエル公爵家まで出向いて訓練しているわけだが、この訓練がなかなか精神的に疲れるのだ。

「疲れてそうだねぇ」
「ネロはいいよな、楽そうで」
「俺はただの手伝いだもん」

 先ほどまで天恵の師範がいたが、あの人はあの人で忙しい。仕事が入ったとバタバタと出て行ってしまった。やり方さえわかれば、あとは自分の問題な部分が大半なので構いやしないが。

「シオンさーん、お母さまがお菓子をいただきませんかと言っていますが、どうしますか?」

 ドアの向こうから顔を出したのは、アカリエル公爵家の長男ノアである。腕に小さな赤ん坊を抱いていた。妹のオーロラだ。

「いただく」
「食べる食べるー」

 ネロは両手を挙げて答え、オーロラの元へ走っていく。

「大きくなったねぇ! お嬢を思い出すなぁ」

 オーロラははち切れんばかりの頬をぷくぷくさせ、指をしゃぶっていた。俺もオーロラへ近寄り、ついその頬を触ってしまう。

「しぃぃ」
「シオンだ。言ってみろ」
「しぃぃぃ」

 一歳のオーロラは、なぜか俺が気に入ってるらしく、「シオン」のつもりでいつも呼ぶのだ。両手を出すと、ノアの腕からオーロラがこちらへ来ようとする。

「あー、シオンさん! その手、ずるいです。今俺が抱っこしているのに」
「オーロラが俺を呼んだからだろう。ほら」

 すでにこちらへ移る体制のオーロラには文句を言えないようで、ノアはしぶしぶオーロラを渡す。

 にこっと笑うオーロラは、可愛いのは間違いない。ネロの言うようにミリィの小さいころを思い出す。頬だけでなく、腕や足など赤ちゃん特有のぷくぷくがたまらないのだ。

 部屋を移動すると、そこには公爵夫人とレオがお菓子とお茶の前に座っていた。

「お疲れ様シオン。お菓子で休憩しましょう」
「はい」
「さ、オーロラ、こちらへいらっしゃい」

 オーロラは夫人の言葉にふいっと顔をそらした。嫌だと言いたいらしい。

「本当にオーロラはシオンが好きねぇ」
「いいですよ、俺が抱いてますから」

 俺とノアとネロも席について、お茶でゆったりとした時間を過ごす。普通はネロはこういう席にはつかないものだが、アカリエル公爵夫人は身分関係なく一緒に食べたい人なので問題ないのである。

 その時、使用人が入室してきた。

「シオンさま、ダルディエ家から急ぎの遣いが参られてますが、お呼びしてもよろしいですか」
「急ぎ? 呼んでくれ」

 遣いが来る前に、公爵夫人はオーロラを俺の膝から引き取った。気を使ったのだろう。遣いが部屋へ入室する。

「どうした」
「これを急ぎ、シオン様へお渡しするようにと」

 小さいメモだった。すぐに開封して読むと、全身に鳥肌が立った。

『ミリィが誘拐された。ネロと急ぎ帰れ』

 俺の緊張感が部屋中にピリっと浸食するのが分かる。オーロラがびくっと俺を見ていた。

(ミリィ! 聞こえるか! ミリィ!)

 どれだけ声をかけても、ミリィの反応がない。
 俺が落としたメモをネロがひろうと、それにさっと目を通し顔色を変えた。

「シオン坊ちゃん、すぐに帰ろう。……お嬢、反応ないんだね?」
「……」

 俺はすぐに部屋を出た。

「あっもう! すみません夫人、緊急事態で失礼しますねぇー」
「ええ」

 そんな声が遠くで聞こえたが、構っていられない。遣いが使っていた馬を奪うと、すぐにネロが後ろに乗った。急いで馬を走らせる。

(ミリィ!)

 まったく反応がない。帝都とダルディエ領で何度もやり取りしているから、この距離で話ができないはずないのに。気を失っているのか? それとも――。

 嫌な予感を振り払う。
 早くダルディエ領へ戻らなければ。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。