七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 76話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 76話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」76話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 76話

 揺れる揺れる。めまいがしているのかと錯覚する、それ。

(……船?)

 意識が朦朧としているが、その揺れには前世で乗ったことのある荒れた海を思い出す。
 帝都へ行く時に乗る船は、川だからかこんな揺れはなかった。

(まさか海?)

 そう思うものの、揺れが気持ち悪くて考えがまとまらない。

「うぅぅぅ」

 猿ぐつわをかまされているのか、言葉にならない声が漏れる。

「ちっ起きやがったか。もう少し寝てろ」

 涙目で前が良く見えない。何かを嗅がせられ、また意識が遠のくのだった。

 そしてどれくらい時間が経過したのか、気づいたら馬車に乗っていた。目の前には態度の悪い男。

「ああ、目が覚めたのか坊ちゃん。かなり寝てたなあ」

 ニヤニヤ笑いの男は、私を舐めるように見ている。
 今は猿ぐつわは取られていた。けれど、手には拘束具が付けられている。

「ここがどこか気になるか? 悪いなあ、教えられないんだ。そもそも、俺が何を話しているか分からないだろ?」

 何を話しているか分からないとは、どういうことだろう。

「ま、あと三日三晩走れば王都に着く。そこで俺の雇い主に聞いてみろや。どうして誘拐されたんですか? ってな! ははははは!」

 やはり誘拐されたのか私は。背中に汗が流れていく。
 誘拐の雇い主は誰だろう。まさかウィタノスじゃないよね!?

「神瞳の少年を捕まえてこいって依頼でな? まさか、いないだろうと思ってみれば、本当にいるんだもんな。こういうのってさあ、王家の落ち度じゃあないの? 何で他国に流出してるのかね? こんなんだから、今回の国王は神のご加護がないとか言われるんだぜ」

 私に聞かれても意味が分からないと思っているのか、ペラペラと話している。

(このおじさんの話だと、私はザクラシア王国にいるのかな。神瞳の少年ってことは、シオンを狙っていたの?)

 ということは、このまま女だとバレないようにしたほうがよさそうだ。何を話しているのか分からない、というのは、ザクラシア語が分からないはず、ということだろうか。
 ザクラシア語どころか、他国の言葉をなぜか全部理解できるのが私だ。生まれた時から母国グラルスティール帝国語が分かったように。そういえば、外国語ペラペラですって、兄たちにも言っていない。言った方がいいだろうか。

「そういえば、坊ちゃん寒くないよな? 王の血筋だもんな?」

 理解できないだろう、というわりには、この男普通に話してくるな。何言っているか分からないフリをしているほうがいいだろう。

 王の血筋というのは、ママの言っていた神の恩恵の話に繋がるのだろう。私にはザクラシアの神の恩恵がママから遺伝しているようなもので、ザクラシアでは暖かいのだとか、どうとか。

(うーん、もう少しママの話、ちゃんと聞いておけばよかったかなぁ)

 馬車の窓の外を見ると、ダルディエ領より雪深い。私の今の恰好では寒そうに思えるが寒くない。確かに、恩恵の影響があるのだろうか。

 それに、もう一つ気になるのは、この馬車の揺れである。すごく揺れが少ない。私は普段馬車で酔いやすいのだが、この馬車では今のところ酔ってない。どういう作りなのか、馬車の窓から下を覗くが、真下は見えなかった。

「逃げる算段でもしてんのか? 坊ちゃんには無理だぜ」

(違うよ)

 なんだろうなぁ、実はちょっと落ち着いてきている。これも恩恵と関係があるのだろうか。誘拐相手がウィタノスかどうかも分からないのに。

(パパとママとお兄さまたち、心配しているだろうな)

 せっかく護衛を付けてくれていたのに、私が甘い匂いにつられたせいで護衛から離れてしまった。

(護衛のせいではないもの。怒られてなければいいけれど)

 はあ、とため息をつく。それと同時に、ぐうとお腹が鳴った。そういえば甘い匂いのもの、食べ損ねたのだった。

「そういえば、何も食わせてねぇんだった。二日も立てば、腹も減るよな」

(……はい? 二日!?)

 誘拐されてから二日経ったという意味だろう。

(嘘でしょ)

 よく分からない薬で眠らせられていたが、二日も気を失っていたとは。こんな子供に強い薬を盛りすぎだろう。

「ほらよ。干し肉だけど、まあまあ美味いんだぜ」

 少し躊躇したが、ありがたく貰うことにする。お腹が減っては、なんとやらである。
 干し肉は固いが、確かにまあまあ美味しい。塩辛いしお酒に合いそうな味付けだが。

(甘いものが食べたいなあ)

 干し肉を少しずつ食みながら、どうやってこの状況を打破しようか考える。私一人では、どうしようもない。協力者が必要不可欠だが、実は一つの案をさきほどから試しているのに返事がない。

(シオンー返事してー)

 いつもなら、これですぐに返事が来るのに。心は落ち着いているが、シオンの返事がないことに、涙が出そうだった。絶対泣くもんか。この男の前では。その意地だけが、今の私を保っている唯一のものである。

(お腹が空いているから、泣きそうになるんだ)

 干し肉をしっかり噛んで腹を満たそう。そう自分に言い聞かせながら、進む馬車の窓の外を眺めるのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。