七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 75話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 75話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」75話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 75話

 季節はもうすぐ春。けれど国の北にあるダルディエでは、まだ雪深いある日。

 肩まで伸びた虹色のおかっぱのようなボブ頭を揺らし、男装姿の私は、今日も護衛を連れて街へ遊びに来ている。最近はすぐに本を読んでしまうので、本屋で新しい本を仕入れて帰るのが楽しみだった。双子が時々買ってきてくれる恋愛本は、私には買う勇気がない。だから私が最近買うのは、南にある国の童謡である。これがなかなか面白いのだ。

 買った本は公爵家に届けてもらうお願いをして、まだ時間があるから他のお店を見て回ろうとしていると、にぎやかな音が聞こえた。

「あれ何?」
「春の祭りの準備ですね」
「もう? まだ寒いのに」
「ダルディエ領では、いつもこの時期ですよ。雪が残る中、春の訪れを待つ祭りを行うと春がやってくると言われています」
「領のお祭りは行ったことないから、行ってみたい!」
「旦那様にお願いしてみてはいかがですか? 公爵家からも準備に人を手配しているはずですよ」
「そうなの? 準備しているの、見てみてもいいかな?」
「よろしいですが、危ないので端の方で見てみましょう」
「うん」

 ざわざわと祭りのための小屋やテントの準備に、人の声や物音がいきかう。まだ準備の段階のはずなのに、試作品でも作っているのだろうか、甘い良い匂いが風に乗ってやってくる。

「わぁ……! 美味しそう!」

 匂いだけでヨダレが出そうになる。
 どこで作っているのだろう、匂いの元をたどるように足早に進む。

「お嬢、ルカさま! あまり先に行かないでください!」

 そんな護衛の声が聞こえたような聞こえなかったような。とにかく匂いの元へ、そう意識が先に向かい、人々が行きかう中を縫うように歩いていく。

「ルカさま!」

 少し離れたところで、護衛が叫ぶ。

「あ! たぶん、あの店だと思う!」

 護衛に叫び返した。店の前に人々がわらわらと集まっている。
 いい匂いが増す。もう少し。

 子供というものは、目的にしか意識がいかないものだろうか。
 あともう少しでいい匂いのお店、というところで、横から手が伸びた。

「えっ――」

 伸びた手は、私の口を布で覆う。その手の主を確認する間もなく意識は飛んだ。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。