七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 71話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 71話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」71話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 71話

 シオンが口を開いた。

「まずは確認のために、みんなにミリィの夢の内容をもう一度話す」

 それを聞いて、は? となった私だが、シオン以外の兄たちが頷くのを見ているしかなかった。

「ここ一ヶ月で、ミリィが見た悪夢は三回。一度目はどこかの暗闇、小さい灯りがまわりにたくさんある中、男が首を切られて死んだ。二度目は結婚式かと思うが、黒いドレスの女が白いドレスの女に何かすると、胸に血が広がり死んだ。三度目は夜の道、女が待ち伏せしていた女の腹を刺し、刺された女は死んだ」

 どうして。なぜ私の夢の内容を知っているのか。
 シオンが言っているのは、私の夢を見たのだと分かる内容だった。
 一度目は宇宙船の中で殺されたもの、二度目は前世の結婚式中に殺されたもの、三度目は私がウィタノスを殺したもの。

「ミリィ、最近見たのは、これで合っているか」
「……」

 言葉が出てこなかった。
 何を言えば正解なのかが、分からない。
 冷や汗が服の中をつたい流れていく。

「ミリィ? 怖いと言っていたのは、この夢だろう?」
「……どうして」

 知っているのか。
 何か考えなければならないのに、頭がうまく回転しない。思いもよらぬことを言われると、人はこうも思考が鈍くなるのか。

「訓練したんだ。ミリィが小さいころから夢を怖がっていただろう。意識を同調させる訓練をすると、夢も見れるようになった」

 私の夢を見れるようになった?
 私が夢を怖がったために、どうにかしたいと思って?

(……もしかして)

 シオンにだけに話しかける。

(もしかして、ミリィを怖い夢から助けるために、訓練をがんばったの?)

 シオンはふいっと横を向いた。それはシオンの癖だ。誰かのためにしたことを、素直に認める人でないことを知っている。
 それでも私には分かる。シオンは自分の耳の能力を嫌っているのに、私のために訓練を頑張って能力を高めたのだと。

 その頑張りに報いるためには、これはもう、言った方がいいのかもしれない。素直にこの苦しみを。たとえ兄たちに背負わせてしまうとしても。私が黙っているほうが、兄は余計に心配し辛い思いをするのかもしれない。

「うん。シオンの言っている夢が怖い夢なの」
「そうなんだね。ミリィいつも、そんな夢を見ていたのか。可哀そうに」

 ジュードが私をぎゅうぎゅうに抱きしめる。苦しいけれど、どこかそれが心地いい。今は誰かとくっついて温もりがあるほうが嬉しい。

「一度目の殺された男の人はミリィなの。それに二度目の殺された女の人もミリィ。今もどこかで、ミリィを殺そうと狙っている人がいるの。たぶん今は女の子で、ミリィと同じ年で……」
「ちょっと待って!」
「ミリィ、ちょっと待って!」

 下を向いて話していたところ、ディアルドとジュードが待ったをかけた。
 なんだろう、と上を向くと、兄全員が、思ってもみなかったことを聞かされたような表情をしている。
 最初にシオンからあらかた聞いているという雰囲気だったので、だいたいのことを想定していたのではないのだろうか。

「怖い夢の話をしているんだよね?」
「うん? そうだよ?」
「なんでミリィが今まさに狙われているような話になるのかな?」
「狙われているからだよ?」
「……えっと」

 ジュードはディアルドと顔を見合わせて困惑している。

「ミリィ、いいですか?」

 エメルが手を挙げる。

「殺された男の人や女の人が、ミリィだというのは、どういうことですか?」
「男の人はね、何代前か分からないけど、転生する前のミリィなの。女の人はひとつ前の前世のミリィ。ここ銃で撃たれると、熱くて痛いんだ」

 私は前世でウィタノスに撃たれた胸を押さえた。

「……前世とはなんですか?」
「え?」
「……」
「……」

 おっとぉ。
 やらかした!? もしや、言わなくていい事をペラペラと話してしまったのでは?
 途中から話にずれがある気はしていたが。

「あの、ところで、ミリィが怖い夢を見ていたとして、何かをやろうとしていたの?」
「……もしかしたら、俺の能力で、見る夢を変えれるかと思ってたんだが」

 なるほど! 怖い夢見てうなされていたら、夢の書き換えみたいなことで楽しい夢に変えようとしていたと!
 なんて、ええ子や……思わず関西弁になるくらい、兄たちはええ子や。

 どうしよう。このずれは、私が『怖い夢を見た』と誤魔化したことから発生したのだろう。怖い夢に違いないのだが、私が怖いのは、これが現実で今回も命がかかっているからである。

 全部言うべきか、このへんで誤魔化すべきか。
 全部言う気で話していたが、最初はこのずれに気づいてなかったのだ。とはいえ、今から誤魔化せる説明が私にできるのだろうか。

「ミリィ。どうか全部話をしてくれませんか? よく分からない話でも構いませんから。ミリィが本当に怖がっていることを知りたいんです」
「エメル……」

 兄たちは、みんな真剣な目をしていた。
 言うだけ言ってみよう。兄たちなら、笑わずに聞いていくれる。

「人は死んだら、違う人として生まれ変わるの。そういうことを、ミリィの前の人生で、転生とか輪廻とか言っていたわ。普通なら転生すれば、生まれ変わる前の記憶は消されて何も覚えていないはずなんだけど、ミリィは覚えたままだったの。ミリィが生まれる前の人生、それを前世というのだけど、さっきの結婚式で殺されたと言っていたのが、前世なの」
「人は死んだら、生まれ変わる……か」
「この国には、そういった話はないの?」
「少なくとも、この国にはないね。人は死んだら土になる。それだけだ」
「それは肉体の話ね。ミリィも詳しくは分からないけれど、転生というと、だいたい魂のことを指すの。肉体は死んでも魂は生き続ける。だから新しい生命が誕生すると、その生命に魂が入って生まれ変わるの」

 兄たちは全員難しい顔をしていた。どうにか私の話を飲み込んで、自身内でかみ砕こうとしているのだろう。

「本来なら忘れているはずの前世の記憶があるから、いつも夢の中で殺されるのが怖かった。最初は前世で殺された時の夢を何度も見た。夢だから痛くないはずなのに、銃で撃たれた胸が痛んで辛いの」
「銃って何かな?」
「銃は……ミリィも武器に詳しくないのだけど、銃は飛び道具の一種で、玉にはこれくらいの大きさの鉛とか鉄の玉を使うの。それを銃の本体に設置して打つと、玉が勢いよく飛び出して狙いに当たるしくみみたい。騎士団では飛び道具といえば矢と弓を使うでしょう?」

 玉の大きさを指で表現する。

「それから、前世より前の人生で死んだ時の夢をみるようになったの。それがただの夢じゃないことは分かった。いつもウィタノスに殺されるのだもの。ミリィはずっと生まれ変わるたびに、ウィタノスに狙われていたの。現世でも……ミリディアナも、絶対に狙われているの」
「……ミリィも!?」
「うん」

 兄たちは絶句して、頭を抱えている。

「……そのウィタノスて奴はどこにいるのか分かるか」

 あれ、シオンの目が据わっている。

「分からないの」
「顔は? 背格好とか、特徴とか」
「たぶん、同じ年の女の子」
「よし! 片っ端からそういった子を全員――」
「待て待て待て、落ち着けシオン!」
「ミリィ、どうして、同じ年の女の子って思うの?」
「今のところ、夢で見るミリィとウィタノスは同じ性別だったから。あと年齢も同じで……あれ、でも」

 そういえば、ウィタノスはあの時、変なことを言っていた。

「ミリィ?」
「……まだみんなに言ってないことがあって」
「なんだい?」
「シオンが三度目の……」

 服をぎゅっと握りしめる。
 ああ、みんなに言いたくない。私がウィタノスを殺したことなんて。
 けれど。

「『三度目は夜の道、女が待ち伏せしていた女の腹を刺し、刺された女は死んだ』と言っていたでしょう? 刺された女はウィタノス、刺したのはミリィなの」
「……」
「ウィタノスには殺されただけじゃないの。ミリィも殺しているの。殺さないと殺されるのだもの、だから……」
「ミリィ。大丈夫、俺らはミリィの味方だよ」

 ジュードの声にはっとした。

「ミリィが殺されるくらいなら、俺らだってミリィの前世と同じことをするよ。ミリィを殺そうと狙っているのだろう? だったら、先に対処しないとね」
「ミリィを怒らないの?」
「怒らないよ」
「ミリィを怖いと思わない?」
「ミリィを怖いと思う要素がどこにもないよ! こんなに可愛いのに」
「……ミリィが前世を覚えてるの、気持ち悪くない?」
「そんなこと気にしてたのか! 気持ち悪いどころか! 四六時中抱っこして連れまわしたいくらいだよ」
「……それは嫌」
「あはは!」

 ふふっと笑うものの、涙があふれた。兄たちは誰も私を気持ち悪いなんて思っていない。それどころか、私を心配し、ウィタノスをどのように対処しようか、一緒に考えようとしてくれている。

 私は止まらない涙を腕で拭いた。泣いている場合じゃない、話の続きをしなければ。
 しかし、ジュードが優しく私の腕を引っ張る。

「こすったら駄目だよ。可愛い目が腫れてしまう」
「でも……」
「泣いたほうがいいんだ、ミリィはいつも我慢していたんだね。でも俺たちはミリィのお兄さまだよ。ミリィが泣きたい時くらい受け止められる。辛いなら辛いって言っていいんだ。悲しい時は泣いていいんだよ」

 そんなこと言われると、涙が止まらないではないか。せめて泣き顔を見られるのは恥ずかしくて、ジュードの手で顔を隠しながら泣くのだった。

 それから、落ち着いたころ話を再開したが、恥ずかしさ最高潮だった。みんな私を見てる。つまり泣いた後の顔を見られているのだ。なんとなく、防御壁のつもりで私の腰にあったジュードの腕を、私の肩から前に出してみたが、顔が全然隠れない。気休めにしかならない。

「そ、それでね、ミリィがウィタノスを殺した時に、ウィタノスが最後に言ったの。『次は私の年上』って」
「というと?」
「もしかしたらなんだけど、ミリィが殺した場合、先にウィタノスが死ぬから、先に転生する、そうすると、ミリィは後から転生するから、同じ年にはならなくて、ミリィは年下になるんじゃないかって」
「……なるほど。ただ、今回、それは考えなくてもいいかもしれないね」
「どうして?」
「前世では、ミリィは殺したんじゃなくて、殺されたんだろう?」
「あ、そうか」
「うん、だけど、いったん休憩をはさもうか。ちょっと落ち着いて改めて整理しよう。俺たちも少し会議開始時とは違う心持ちで、話し合わないといけないから」

 みんな頷いたものの、どこか険しい表情をしていた。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。