七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 68話 後半アルト視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 68話 後半アルト視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」68話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 68話 後半アルト視点

 ウィタノスを殺す夢を見てから、私はぼーとしていることが多くなった。
 パパやママ、双子や使用人たちが様子を窺うように見ているのに気づき、どうやら心配しているのだと知った。

 これではいけないと思い、日中は騎士団へ連れて行ってもらい、三尾と戯れながら過ごすことが増えた。ここなら家族はみんな仕事で私を四六時中見ていることがないし、私は三尾をソファー代わりにモフモフできる。それに考え事だってできる。

 ウィタノスを殺したあの夢は、事実なのだと理解している。夢だというのにウィタノスを刺した、あの感触。ウィタノスが言うように、私はそれを忘れられない。それがウィタノスの思うつぼだと分かっていても。

 これまで殺されたいくつかの夢と、今回の殺した夢。
 いくつか疑問はあるし、矛盾も感じていた。だがそれを考えるよりも、私がウィタノスに言った言葉が頭をぐるぐるとめぐる。

『前世のように、まぬけに死にたくない』

 そうなのだ、結局はこれにつきる。

(殺されたくなければ、殺すしかない)

 涙が盛り上がるのを、阻止するように目に力を入れる。
 泣いてしまえば、たとえ家族はいなくても騎士がウロウロしているのだ、騎士が心配すれば家族に伝わってしまう。

 落ち着いたところで、ふーと息を吐く。
 いつのまにか三尾が一匹増え、私の膝の上に頭を置いた。三尾には私の不安がバレているのだろう、背中のソファー替わりの三尾もじーとこちらを見ている。

 膝の上の三尾を撫でて気持ちを落ち着かせながら、また物騒な思考へ考えを戻す。
 間違いなく、今回もウィタノスは殺しにやってくる。こんなひ弱な私でも、どんなことをしてでも殺されたくない。けれど。

(私にウィタノスを殺せるの?)

 私がひ弱だとか非力だとか誰かを殺す技術はないとか、そういったことは抜きにしても、ウィタノスを殺すことなどできるのだろうか。
 殺す、そう考えるだけで、心臓がバクバクと早鐘を打つ。

 体は正直である。
 殺すしかない、そう思っても、身体が嫌だと叫んでいる。

(誰か、助けて)

 そんな叫びを飲み込む。
 とうとう涙が我慢できなくなりそうな時、三尾が涙をなめてくれる。おかげで、近くの騎士に泣いているのがバレずにすんだ。

 今日はもう考えるのをやめよう。
 一気に考えようとすると、すぐに心に限界がきてしまう。毎日少しずつ考えて、耐性を付けていくしかないのだ。

 心の平穏を取り戻すべく、三尾の頭に頭をのせて、ぐりぐりとするのだった。

◆ 以下、アルト視点

『ミリィの元気がない。兄会議が必要だから、冬休み突入したら早く帰省してくれ』

 そんな手紙を帝都にいる兄に向けて双子が送ったのは、七日ほど前。
 一通送れば、帝都の別邸にいる執事が、兄たちに連絡してくれるだろう。

 十日ほど前にミリィが悪夢を見てから、様子が変だった。いつも悪夢を見て起こせば、時間を空けずに落ち着いて再び寝てしまうし、次の日は楽しく遊んだり元気にしていた。それなのに、夕食中にぼーとしたり、話しかけても心ここにあらずで返事がなかったりする。父と執務室にいても、本を開けてるだけで、考え事をしているようだと父上が言っていた。

 あの日悪夢を見た後のミリィは、変なことを叫んでいた。「殺してしまった」と、そう泣いていた。

 それから夢で誰を殺したのか聞いてみたが、「覚えていない」と言うだけだった。
 何か隠している。それは俺の相方のバルトも同じ意見だ。
 「覚えていない」は嘘だろう。だけど無理に聞き出そうにもミリィも頑固だし、言わないのは分かっている。

 少しでも元気を出してもらいたくて街に連れて行ってあげると言ったが、三尾と遊ぶからと断られてしまった。
 添い寝の時にバルトと面白い話をするが、ミリィは楽しそうに笑うものの、笑顔の質が前とは違うと思わずにはいられなかった。

 双子である俺たちは、俺たちだけで世界が完結する。
 二人がいれば何をしても楽しい。イタズラをして、みんなを困らせて、怒らせて、それが楽しい。何て奴だ、そう言うやつがいるのは知っている。だが、そんなことどうでもいいのだ。他の奴のことなんて気にしていない。

 けれど。

 ミリィの元気がないと、俺らにも元気がでないことを知った。
 二人で街に出かけても、どうすればミリィに元気が戻るのか考えてしまう。ミリィが好きそうなものをみれば買い、気づいたらバルトと両手いっぱいにお菓子や本を買い集めていた。
 あげたその時は、嬉しそうなミリィだけど、その笑顔がやはり心からの笑いではないという気がしてしまう。

 ミリィが元気だから、俺たちは好き勝手しても楽しめるのだ。ミリィにちょっかいを出して、ジュードに見つけられれば怒られるけれど、ムッとした表情や、泣きそうで泣かない表情や、一緒にイタズラして楽しそうに笑う表情が本当に可愛いのに。

 どうすればいいのか、分からなかった。
 俺たちに、どうにかできる力がないのが悔しいが、今はそれよりもミリィが元気になることが先決である。

 だから兄たちに手紙を書いた。手紙など、面倒だしキライだけど書いた。

 早く、ミリィが元気になるようにと、そのことだけを思って。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。