七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 67話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 67話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」67話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 67話

 夏休み以降、ダルディエ領に兄が双子しかいない今は、ずっと添い寝担当は双子だった。それもすでに季節は冬。三か月以上続けて一緒に寝ている。
 双子は時々寝る前にイタズラを仕掛けてくるので、今日は何が起きるのかドキドキするのだった。

 ある時は、蛇のおもちゃがベッドの中にいて驚いた。ある時は、それが蜘蛛のおもちゃだった。
 そしてある時は、どこから仕入れてきたのか、怖い話を聞かされ、それ系には怖がらない妹につまらなさそうにしていた双子だった。
 またある時は、わきの下やら腰やらをくすぐられ、泣き笑いする日々だった。

「昨日セバスに怒られてなかった?」

 セバスは本邸の家令兼執事である。

「セバスはうるさいんだよ。ちょっと酒をくすねただけなのに」
「たぶん持っていった本数が多すぎたんだな。今度はもう少し少ない本数にしよう」

 おい、お前ら十二才だろう。酒は早すぎないか。
 実はこの国の酒が飲めると言われる年齢は曖昧である。

「それか、今度街に買いにいく?」
「それもいいな」
「えー、いいな! 街に行くならミリィも連れて行って!」
「ミリィは俺らが行きたい店と違う店にばかり行きたいって言うから、嫌」
「いじわる言わないでよぉ」
「街に行きたいなら、侍女か護衛についてきてもらえば?」

 目をぱちくりと開いた。そんなことできるのか?

「いいの? 怒られない?」
「もういいでしょ。俺らはそのくらいの年なら、街をうろちょろしてたよ」

 お前らはな。
 だが、それもいいかもしれない。急にやると駄目と言われそうなので、ちょっとずつ小出しにしてみよう。

「今みたいに、男装するなら護衛かな。女の恰好するなら侍女を連れていけばいい」
「挑戦してみる!」
「おおー」

 その日は、そのまま三人は深い眠りについた。

 ああ、これは夢だ。
 私は最近、悪夢を見るとき、これは夢なのだと分かるようになった。
 転生前の姿で、その内側から目を通して映画を見ているような、そんな感覚。もちろん夢だから、干渉はできないし、どんなにつらくても見ているしかない。

 今回は、始めて見る夢のようだった。
 暗闇の中、私は物陰に隠れ、息を殺している。
 ふと、自分の右手に持っているものを確認した。

(……ナイフ?)

 サバイバルナイフのような形で、のこぎりのようなギザギザも付いている。

(……何をするつもり?)

 転生前の私に問いかけるが、反応はない。
 転生前の姿は、どうやら女のようだった。ナイフを持っているのに、動揺も気の高ぶりもなく、私は『無』のようだった。

 私が物陰から飛び出した。そこにいた女は驚いた顔である。

 ――これは、ウィタノスだ。

 躊躇なくウィタノスの腹にナイフを差し込む。服に赤が広がる。
 崩れ落ちるウィタノスの両手を引っ張り、茂みへと移動する。力の抜けた女というものは、体重以上の重さを感じる。

 茂みは暗くて周りは見えない。なのに不思議とウィタノスだけは、はっきりと見える。
 私に引っ張られた状態のまま、両腕を上げて降ろす力もないくせにウィタノスの口は笑っていた。

「まさか、こんな手を使うなんて、ね。カル、フィノス」
「先手必勝でしょう。前世のように、まぬけに死にたくないの」

 話し辛そうにウィタノスは口を開く。
 先ほどまでは『無』だった私も、目の前にウィタノスがいるからなのか、ウィタノスの腹を裂いたからなのか、右手が小刻みに震えていた。それを左手で止めるように押さえつける。

「いい手、よ。だって、もうすぐ、あなたを殺す、算段つけてた、もの」
「でしょうね。だから、こんなに近くに住んでいたのでしょう」
「バレ、てた? なんだ、今回は、完全に、私の負け、か」

 ウィタノスは血を吐く。そしてにやっと笑うのだ。

「でも、これは、これで、いいわね」
「……なんですって?」
「だって、私を、忘れ、られないでしょう? 今、カルフィノス、あなた、の顔、どんな顔、してると思う?」
「……」
「あは! ……ああ、でも残念、次は、あなた、の年上……」

 ウィタノスは目を開けて、笑ったまま絶命していた。
 私の右手は、震えが止まらなかった。右手の手袋には、ウィタノスの血がべっとりとついていた。

「ミリィ!」

 はっと目が覚めると、双子が心配そうに私を見ていた。
 冷や汗で張りついた服が気持ち悪かった。
 ぷるぷると震える右手を、上げて確認する。

(血はついていない)

 ああ、それでも。震えが止まらない。
 どうしよう、ついにやってしまった。

「……殺しちゃった」

 刺した時の感覚が、まだ残っている。実際に自分がしたわけでもないのに、夢での疑似体験は、身体に染み付いた。

「殺しちゃった! どうしよう」
「ミリィ?」

 涙があふれる。
 今まで考えないようにしていた。前世でウィタノスを殺してしまっている可能性を。
 『八九戦八二勝六敗一引分』の、『六敗』の意味を。

 やっぱり、私はウィタノスを殺していたのだ。それも六回も。
 これではもう、ウィタノスと同じ穴のムジナである。

 泣き続ける私を、双子は朝方まで宥め続けたという。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。