七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 65話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 65話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」65話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 65話

 泣きながら部屋を飛び出した私は、廊下を歩いていたママにぶつかった。

「まぁ! ミリディアナちゃん、どうしたのです?」

 ママは膝を曲げると、私の涙を指の外側で拭う。

「ママー」

 ママに抱き着き号泣する娘に、眉を下げたママは私の部屋へ移動を促した。
 私の部屋では、ソファーに座ったママは私の話を聞いていた。

「そうですね、ミリディアナちゃんはいつもいい子にしていますもの。ママたちが走ったりしないでって、言いすぎてしまったわね。前より熱がでる回数も減っていますし、少しずつ走ったりするのを様子見しながら増やしましょう。今日みたいに、シオンにおんぶされるなら遊んでもいいですし。ジュードのことは許してあげてくださいね、ミリディアナちゃんが可愛いあまりに心配してしまっただけなのです。もう少し見守ることも大切よって、ママが言っておきますからね。だからもう泣かないで下さいな。目が溶けてしまいますよ」

 ママに慰められ、泣きながらいつのまにか寝てしまっていたらしい。
 目が覚めたら、添い寝担当だったディアルドの横で目が覚める。いつのまにか着替えており、頭は何故かタオルが巻かれていた。

 ぼーっとする頭で、昨日のジュードとのことを思い出し、だんだんと恥ずかしくなってきた。
 昨日は今まで我慢してきたことを心の内に溜めていたのか、興奮して爆発してしまい、ジュードに当たってしまった気がする。ジュードの心配は分かるし理解していたから、私も我慢して運動しないようにしていたのに、結局泣きわめくなんて大人げなさすぎる。

 はぁと息を吐くと、ディアルドが顔を覗いてきた。

「どうした? 体調悪い? 熱……は、ないみたいだけど」

 ディアルドは私のおでこに手を当てた。
 そういえば、目覚めると走りに行くルーティーンのディアルドが、まだここにいるのも珍しい。

「ディアルド走りに行かないの?」
「いくよ。だけどミリィが心配だから。昨日ジュードにいじめられたんだって?」
「いじめられてないよ!」

 慌てて返す。そこは誤解を受けるとジュードが可哀そうだ。

「ジュードが私がどろんこになって、体調悪くなるんじゃないかって心配してただけなの。なのに、私が泣いちゃったから……。ジュードを怒らないで?」
「怒らないよ。ジュード、もう十分反省していたし」

 ディアルドは私を抱えると、廊下へ出た。

「今回はジュードが悪いからね、ジュードの味方するわけじゃないけれど、俺たちはミリィがいつも心配なんだ。元気に楽しそうにしているのが一番いいんだよ。そこは忘れないで?」
「はい、あまり無理しないよう気を付ける」
「いい子だね」

 ディアルドは私を部屋へ届けると、おでこにキスをおくり去っていく。
 待ち構えていた侍女たちは、私をバスルームへ連れていく。昨日お風呂に入っていない上に、頭のタオルを取ると、まだ泥が付いていた。なるほど、タオルはベッドを汚さないための応急処置だったかと、納得するのだった。

 そして風呂に入り、朝食をとって、その後ジュードの部屋へ直行する。
 たった一夜でげっそりとなったジュードに、これは早々にフォローにやってきてよかったと思った。たぶん寝れなかったのであろう、心が痛くなる。

 ジュードは、ママやパパと話をしたようで、少しずつだけれど私に運動を許すことにしたと教えてくれた。私は心配してくれたことには感謝し、ジュードのこと好きだと言った。

「昨日は嫌いって言って、ごめんね。本当はジュードが大好きなの」
「ミ、ミリィー!」

 な、泣いた。
 そんなに嫌いって言われたのがショックだったのか。

 ジュードに泣きつかれながら、普段泣くまいと心掛けている私だが、普段泣かないとこういうところで弊害が発生するのだなぁ、と思いながら、ジュードが泣き止むまで、背中を手でトントンとするのだった。

 そして、私の知らないところで、私が泣いたこの件は『嫌い事件』という名がついていたという。

 ただ、この件はこれで終わったはずだった。いや、確実に終わったのだが、続きがあった。

 この三日後、前日に雨が降って外に出れなかったため、私は籠にジュースとちょっとしたお菓子を詰めて右手に持ち、左手に猫のぬいぐるみを持って庭に散歩に出かけた。今日は侍女を連れていなかった。

 昨日の雨が嘘のように晴れて、すがすがしい。
 私は湖の方へ足を向けた。途中、小川に差し掛かった頃、昨日の雨の影響で地面がぬかるみ、緩やかな傾斜になっていたものだから、私は足を滑らせた。そのまま面白いようにぬかるんだ泥の中を十歩分ほど背中を地面につけたまま移動するはめになった。

 朝に着替えたばかりの可愛い服が台無しになり、耳下に二つに結んだ長い髪の毛が泥の塊となって、頭が重い。背中やスカート、お尻辺りのパンツは泥でべとべとであるし、手を離してしまった猫のぬいぐるみも泥パック中である。
 せっかく散歩に出たが、これはすぐに帰るべきであろう。

 がっかりとした気持ちで屋敷へ戻っている途中、庭師に遭遇する。

「お嬢様! どうされたのですか!?」
「転んだの」
「大変だ!」

 庭師は慌てて私の手を引いた。
 なぜか庭師に連れていかれた先は、温室だった。

「奥様! お嬢様が大変です!」
「ミリディアナちゃん! どうしたのです!? 怪我はありませんか? 痛いところは?」
「大丈夫。土がドロってしててね、滑っちゃったの」
「昨日雨が降っていたものね。とりあえず、お風呂に入りましょう。それとも、一度泥を落としたほうがいいかしら? 髪の毛もドロドロになってしまったわね」

 ママは使用人に指示したりとバタバタしだした。

(髪の毛の泥を取るの、大変だろうなぁ)

 これを綺麗な髪に戻すのは、侍女の仕事である。
 私の髪の毛は普段から毛先を切りそろえるくらいで生まれた時から伸ばしっぱなしであるため、私のお尻辺りまで長さがある。それを侍女が毎日丁寧に手入れし、毎日キラキラと綺麗に輝いているが、ドライヤーのないこの時代、髪の毛を乾かすのも大変で、私はいつも髪の毛に時間を取られることに内心辟易していた。

(まてよ? 髪切っちゃえば、私も侍女もハッピーじゃない?)

 侍女は仕事が減るし、私も侍女に手入れされる時間をカットできる。
 温室をキョロキョロすると、庭師が使っている道具箱が目に入る。そこに近づき、園芸に使われそうなハサミを発見する。

 私は耳下にある左の髪の束を持ち、一気にハサミを入れた。ボトボトと泥付き髪の毛が床に落ち、左だけ頭が軽くなる。その軽さに嬉しくなり、右も同様、髪の束にハサミを入れる。

 すごく軽くなった頭に満足気に笑うと、悲鳴が聞こえた。

「お、お嬢様! か、髪の毛が……!」

 タオルを持ってきた使用人の声に、反応した人々がこちらへ顔を向ける。

「ミ、ミリディアナちゃん?」

 真っ青な顔をしたママが、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

「えへへ! 髪切っちゃった! これなら、泥取るの簡単だよね!」

 ママは私のところへ到達するまえに、気絶した。

(え……なぜ)

 それからは、屋敷中が大騒ぎになってしまった。
 ママは三日間うなされ、私を見ては泣き崩れた。ママの憔悴っぷりに慌てたパパは、今後勝手に髪を切らないでくれと懇願し、ジュードは俺が泣かしたから? とブツブツ言っていた。

 みんなハッピーのつもりが、ここまで裏目に出てしまうとは。
 グラルスティール帝国の女性は、髪が長いのが一般的である。とはいえ、女性でも肩くらいの長さの人は見たことあるし、そこまで大げさな反応をされるとは思っていなかった。

 結局、私の髪は綺麗に整えられたが、男の子のような髪型となった。私としては短くて楽だが、今までのような可愛い服は似合わないな、と内心思うのだった。

 そこで、エメルの小さいころの服がどこかにないか聞いたところ、収納されていたのを侍女が持ってきてくれた。

 男の子の服を着てみたところ、今の少年のような髪型に、すごく似合っていた。
 しかし、それをみんなに披露したところ、ママはショックでぐったりとした。だが、この機会に、男の子の服に慣れてもらおうという作戦を内心企み、髪が伸びるまで、しばらくこの格好でいることを宣言すると、みんないい顔はしなかったが、一時的なことということでしぶしぶ了承してくれたのだった。

「それでね、男の子の恰好の時は、ルカって呼んでほしいの」
「……ルカルエムのルカ?」
「うん! そのほうが、見た目とあっているでしょう?」

 私の名前は、ミリディアナ・ルカルエム・ル・ダルディエである。ルカルエムはダルディエ家でのしきたりで付けられた男の名だが、せっかく付けてもらった名なのだ。呼んでもらえるほうが、名前としても、本望だと思う。

 のちに、このことは『髪の毛ちょっきん事件』という名が付き、『嫌い事件』と同様、ダルディエ家のかたりぐさとなる。

 それからすぐに、ディアルドとジュードが夏休みが明けるため、帝都へ向かう日となった。
 今年はシオンもテイラー学園へ入学するため、一緒に帝都へ向かうのだ。

 シオンは先日帝都にいた時に、テイラー学園の試験を受けたらしい。普段から勉強する姿などほとんど見たことないが、よく受かったものだと思う。シオンまでもダルディエ領を出ていくことになり、残る兄は双子だけ。すっかり寂しくなってしまったと、悲しい気分になる。

 朝からジュードと顔を合わせた時に、ジュードの長い綺麗な髪が耳の下で切りそろえられていて驚く。

「ジュード、髪の毛どこにやったの?」
「ふふふ、カツラにしたんだ」

 ジュードの話によると、私が切った泥が付いた髪の毛は、ジュードの指示で集められ、綺麗に泥を落としたという。それからカツラを作っている職人へ持っていき、現在私の髪の毛でカツラを作ってもらっている最中だという。
 その時、ジュードの髪の長さがあればカツラができると聞き、髪を切ったのだそうだ。

「カツラにしておけば、いつでも使えるだろう? 女の子用の服を着なければならないこともあるだろうし、持っていて損はないから。俺が帝都に戻る前に出来上がらなかったのは残念だけどね」

 ジュードの金髪で作っているカツラも、私の頭のサイズで作っているという。
 綺麗な髪の毛を切らせてしまい申し訳ないと思いつつも、金髪のカツラが貰えるとは、嬉しい誤算である。

 それから、ディアルド、ジュード、シオンの三人はダルディエ領を去っていくのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。