七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 64話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 64話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」64話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 64話

 まだテイラー学園が夏休み中のディアルドとジュードは朝から不在で、今日はどちらかに一緒にいて相手してもらおうとしていた私は、ちょっと不貞腐れていた。午前はパパの隣で大人しく勉強していたのだが、午後に偶然シオンと双子を庭で見つけるとまとわりついた。

「何しているの?」
「んー、追いかけながら泥団子を投げる遊びをやるところ」

 三人は腰の左右に袋を下げ、その袋から大量の泥団子が体をのぞかせている。
 庭師に怒られること間違いなしの遊びである。ただこの三人は、怒られることなど大したことだとも思っていない悪ガキである。

「ミリィもやりたい!」
「ミリィは無理でしょ。走るんだよ」
「走れるもん」
「ミリィ走らせて、ジュードに怒られるのは俺たちなんだけど」

 双子の言う通りである。

「今ならジュードも見てないよ! ちょっとくらいなら大丈夫!」
「えー。そもそも俺らの速さについてこられないでしょ」
「あっという間に、俺ら見えなくなるよ」

 これまた、双子の言う通りである。
 ぐぬぬ、と何も言えなくなる。

「分かった分かった、おれがおんぶしてやるよ」
「えー、連れてくの?」
「シオン負け確定じゃん」
「ばーか、ハンデだよ、ハンデ。いつも勝つの俺ばかりだし」

 シオンはいったんどこかへ消えると、頑丈な紐を持って戻ってきた。

「前に約束したし。はい、ミリィ背に乗って」

 そういえば、そんなことを去年言っていた。シオンが覚えていたとは。

「いいの?」
「言っただろう。アルトとバルトにやるハンデだって。ミリィ乗っけてても、俺なら負けないから」
「シオン、言うねぇ。俺らも負けないからな」

 シオンは頑丈に私とシオンを結ぶ。

「その紐、取れない?」
「前にネロに取れない結び方習った」
「ずるい。今度それ俺らにも教えて」

 そして泥団子を投げる勝負の火ぶたが切られた。
 アルト対バルト対私をおぶったシオンで、誰がどう見てもシオンは不利だった。

 シオンは流れるように走り出すと、いったん双子から距離を開けた。双子もそれについてくる。一度誰にも邪魔されないよう、庭の奥を目指しているのだろう。
 影のネロのように、おぶわれていても揺れない走り方をするシオンなので、私は酔うことなく、早々と過ぎる風景を楽しんでいた。

 屋敷から十分に離れると、三人はタイミングを見計らい、泥団子を投げ合う。シオンは素早くそれを避け、バルトに泥団子を当てる。それを見計らったかのように、アルトもバルトに泥団子を当てた。

「げっ」

 バルトの勝負心がさらに上がったのが分かる。それからは混戦だった。シオンは私に当たりそうになると自分が当たりに行ったりし、私にも泥がかかったりして全員ドロドロだった。
 私はシオンの背に乗っているだけで何もしていないが、その勝負があまりにも楽しくて、きゃあきゃあと騒ぎ、その楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

 結局勝負はシオンの勝ちである。
 あまりにも楽しかったから、シオンにまたやってと頼んだ。

 そして夕方になり、屋敷に戻ってくると、侍女が驚愕に叫んだ。

「お嬢様、なんて恰好なのです!」
「えへへぇ」

 可愛い服は泥だらけ、可愛らしく編んでいた長い髪もところどころほつれ、やんちゃしてきました丸出しの恰好に、私は笑ってごまかした。

 そこに、ジュードが入室してくる。
 私の恰好に目を丸くした後、私をジュードの後ろへやり、目を吊り上げてシオンと双子に怒鳴った。

「ミリィをこんなにして、何やってるんだ!」

 私以上に泥だらけのシオンと双子は、怒られ慣れているので飄々としている。

「えー、別に疲れるようなことは、させてないけど」
「嘘を言うな! それでミリィが、こんなになるわけないだろう!」
「本当だって。シオンがおんぶしていただけだし」
「そうだよ。ちょっと泥がかかったけど、ミリィ楽しかったみたいだから、いいじゃん」
「よくない!」

 ジュードの怒号に、部屋の空気が揺れる。

「ミリィが熱出したらどうするんだ? いつも熱でて辛そうにしているの見ているだろう。こんな泥だらけにして、変な病気にでもなったらどうする! いいか、ミリィを走らせるな。疲れさせるな。泣かせても駄目だ、興奮して体調が悪くなるかもしれない。できるだけ抱えて移動するんだ」
「抱えるのはいいけどさぁ、ミリィも熱出るの前より少なくなったじゃん」
「そうそう。ちょっとくらいなら走ったって、問題な……」

 バルトが話の途中で私を見て、言葉を止めた。それに気づいたアルトとシオンも、私を見ている。
 三人とも、少しの焦りと緊張の混じった表情で無言になる。
 怪訝な顔をしたジュードは後ろを振り向き、私を見てギョッとした顔をした。

「ミ、ミリィ?」

 私は汚れたスカートを両手でぎゅっと握り、頬は涙で濡れていた。

「違うからね!? ミリィを怒っているんじゃないんだ」
「……いつもミリィばっかり! 走っちゃだめって言う! 動き過ぎてもだめって言う! いつも我慢してるもん、なのにどうしておんぶも駄目なの? 泥で服が汚れるくらいで、ミリィ熱でないもん。ミリィだって楽しいことしたい、遊んだりしたいのに、いつも駄目駄目ばかり! ジュードなんて、ジュードなんて、嫌い!」

「あっ、ミリィ!」

 私は泣きながら走って部屋を去る。

 ジュードはショックのあまり体育座りして顔を下に向け、シオンと双子は、そんなジュードの肩に「気にするな」と言ってそれぞれ手を置いて去っていった。

 部屋に取り残されたジュードは、そっとしておくようにと、視線で会話する使用人たちから気を使われ、夜遅くまでその部屋で悲嘆に暮れていた。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。