七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 59話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 59話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」59話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 59話

 雪がちらちらと舞い、降り積もった雪に厚みが増す。
 ダルディエ領は真っ白な銀世界の中にいた。先日双子と作った雪だるまが、まだ解けずにいる。

 私はいつものようにパパの執務室で本を読んでいた。今はまっている本は、料理のレシピ本である。気になるものを見つけては、料理長にお願いして作ってもらうのだ。

 お腹が壊しやすい私は、変わった食材を使った料理や、たくさんの量を食べることは許されていない。しかしいつも食べている食材ならば、変わった料理でも量さえ間違えなければ、食べてもいいことになっている。
 だからこうやってレシピを見ては、食べたい料理の食材を確認し、料理長に作るのをお願いする。それが楽しみだった。

 その時、横で手紙を確認していたパパからため息が聞こえた。

「パパ、どうしたの?」
「うん。いや、今年は早めに帝都入りしないといけなさそうだと思ってね。今年はミリディアナも連れて行こう」
「本当? ジュードにお願いしているものがあるの! 寮から帰ってきてくれるかな?」
「お願いしてみなさい」
「はーい」

 私はさっそくジュードに手紙を書こうと思った。

 ジュードにお願いしているものとは、パンツのことである。こういうのが欲しいと説明して、何度か作成しては微調整しているのだ。ジュードは学生なため、商会とのやりとりや職人とのやりとりがカルディエ領にいるときよりやりづらいようだ。けれど私のために、学生の本分の合間をぬって、パンツ作りに励んでくれている。
 そして先日、修正したものができたと手紙をもらったのである。早くその最新バージョンを見たかったのだ。

 私の高揚とした気持ちとは裏腹に、パパの表情は憂鬱そうだったのを私は気づかなかった。

 そして、それから一か月後。
 まだダルディエ領では雪が降っていたが、帝都に付いた私は春の訪れを感じていた。
 まだ寒いものの雪は降っていないし、昼間は日差しが暖かい。この時期は、ダルディエ領と帝都は様子がだいぶ違うと感じる。

 今年は両親と兄妹全員で帝都入りした。まだ社交界シーズン前だがパパは仕事に忙しく、ママもお茶会などにせっせと参加していた。

 それから数日後。
 私はいつもとは違う恰好をさせられ、首をかしげていた。
 貴族というよりももっとラフな格好で、簡単に言うなら裕福な商家の娘といったかんじだろうか。私の髪色は目立つからと、猫耳付フードの頭巾をかぶらされる。

 そして問題はパパだ。同じく裕福な商家をイメージしているのだろうが、少し気崩して髪を流さずにいるだけなのに、いつもよりワイルド! 目力が増して、イケメンぶりが上がっている!

(いつものパパもかっこいいけど、こういう姿も好き!)

 よだれが出そうになるのを我慢しながら、パパをガン見する。

 しかしなぜ、こういう恰好をするのだろう。この商家風の恰好をしているのは私とパパだけである。護衛もいるがいつもの護衛服ではなく、もっと街の人に溶け込みそうなラフな恰好だ。だけど、二人のための護衛にしては人数が多すぎる。それに。

(影も数人、一緒についてくるみたいだし)

 さっきネロが片目をパチンとウインクして去っていった。「俺が付いているから、安心して」という言葉と共に。

「パパ、どこいくの?」
「着いてからの楽しみだよ」

 ダルディエ家の紋章の付いていない馬車に乗り帝都を抜けた。帝都からはそう遠くない町で馬車は止まる。

 そこは夕方なのに大賑わいで、そこかしこに綺麗な灯がともっている。人々が笑い、明るい雰囲気だ。

「春の祭りだよ」
「お祭り!?」

 祭りだから賑わっているのか。子供も大人もみんな楽しそうで、私の気分も上がってくる。

 パパに部下らしき人が声をかける。その男の人の案内で、私はパパに抱かれ町の中を進む。そこかしこにいい匂いがして、なんだかお腹がすいてきた。

 ある一角にテーブルが三台と椅子が並んでいる。そこを部下が用意していたようで、パパは椅子に座った。私も椅子に座り、ジュースの瓶を渡されたのでとりあえず飲む。

「パパ、お祭り行かないの?」
「行くよ。待ち合わせしているからね、もう少し待っていなさい」

 テーブルがある一角は、町中に溶け込むように配置され、埋まっていない椅子は変装した護衛が座って埋めている。一見普通の町並みに溶け込んでいるはずなのに、パパが目立つ。

(みんなパパを一瞬見て、目をそらしている)

 パパが周囲に溶け込むのは難しい。パパもフードを被っておけばよかったのに、そう思いながら足をぶらぶらさせていると、知った声が聞こえた。

「ミリィ?」

 声の方向を見ると、半年前に見たきり会えていない兄がいた。驚愕の表情を浮かべている。

「カイルお兄さま!」

 私は椅子を降りて走り、カイルに抱きついた。

「お兄さま、久しぶりね! 会いたかったわ!」
「うん」

 ぎゅぎゅぎゅっと抱き返される。う、ちょっと苦しいかもしれない。背中をトントンと指で叩くと、カイルは私を放してくれた。カイルは驚きと嬉しさが混じったような表情をしている。

「お兄さまもお祭りに?」
「そうなんだけど……父上?」

 カイルが後ろを振り返ると、父上と呼ばれた男が笑った。

「あなたがミリディアナ嬢だね。はじめまして、カイルの父です」
「お兄さまのパパ?」
「ああ、そうそう。俺のことはルイパパと呼んでくれるかな」
「ルイやめろ。パパは俺なんだが」
「いいじゃないか、いつか本当にそうなるかもしれないし」
「兄と妹は結婚できない」
「あははははははは」

 何やら、ルイパパとパパが言い争っている。パパにあんな風に気安く話す人がいるとは、珍しいものを見たような気がする。そう思ってカイルを見ると、カイルもルイパパを驚いたような顔をして見ていた。

「さて、ミリディアナ嬢。ルイパパ。言ってごらん?」
「……ルイパパ」
「よくできました」

 ちらっとパパを見ると、ものすごく嫌そうな顔をしている。パパがそんな顔をすると、よけいに強面になるのだが。

「ミリディアナと、呼び捨てにしても?」
「……いいよお」
「ありがとう」

 ルイパパは膝をつき、私の手の甲にキスをした。うーん、ルイパパもイケメンだ。絵になる。

 なんだか若干陽気そうに見えるルイパパは、カイルのパパなだけあって、とっても麗しいイケメンである。パパのような恰好をしているが、たぶんこの人も貴族に違いない。上品さが消せていないし、無造作な黒髪と紫色の瞳が色っぽい。陽気さがそういったものを少しは隠しているように見えるが、やはりパパとは違った意味で目立つ。

「こういったことは、今回限りにしてもらいたいのだが」
「いいじゃないか。俺も少しくらい休みが欲しくてね。ジルなら付き合ってくれると思って」
「何もこんな場でなくともいいだろう。護衛が大変なんだぞ」
「大丈夫大丈夫! 俺も護衛を連れてきているし、ジルの護衛にも期待しているよ! ほら、昔を思い出すじゃないか」

 盛大なため息をつくパパは、どうやらルイパパには勝てないようだ。

「それに、どうしてもミリディアナに会いたくてね」

 ルイパパはまた片膝をつき、私と目線を合わせる。

「カイルの妹になってくれたんだってね。こんなうれしそうな息子は初めてだったのでね、お礼を言いたかったんだ。ありがとう」
「えっと……カイルお兄さまがミリィのお兄さまになってくれて、ありがとう」

 ルイパパが目を大きく見開く。

「……ミリディアナはいい子だ。夫人に似たのだろうね」

 嬉しそうに笑うルイパパは、息子を思うパパだった。

「フローリアに似ているのは否定せん、だが俺に似てもいい子だと思うが」
「えーそれはどうだろう?」

 優しい表情がニヤっと笑いに変化し、またもやパパと言い争いをしている。

「とまあ、挨拶はここらへんにして。今日の本来の目的は、カイルがお祭りを楽しむことだからね」
「え?」
「ミリディアナに会いたかったのだろう? なかなか機会がなくて遅くなったが、カイルの日々の頑張りに対する俺からの褒美だよ。護衛が付いているから、好きなように祭りを楽しみなさい」

 カイルは驚愕の目でルイパパを見ている。今日はずっとカイルは驚いた表情ばかりだ。

「やったね、カイルお兄さま! 私お祭り初めてなの! あっちの方で甘い匂いがしているの! 行ってみましょう!」
「……そうしよう」

 私につられたのか、誰が見ても笑顔という表情を浮かべたカイルは、手を繋いだ私に引っ張られるように歩き出した。

「ミリディアナ! 走るんじゃないぞ!」
「はぁい」

 私たちが歩いていくと、さっと護衛が目立たぬようについていく。

「あんなに笑った顔は、はじめて見たよ」
「……確かに珍しいな。うちにいた時は、もう少し、なんというか戸惑い気味な笑みだったな」
「いやあ、今でもそんなに表情は変わらないんだけどね!? いつも無表情というか、淡々としているというか。だけど、ミリディアナの話をふると、手紙貰ったとか、わずかだけど嬉しそうな顔で報告してくるんだ」
「よかったな」
「本当だよ。持つべきものは親友だね」

 口調は軽いが、目は優しく息子を見ていた。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。