七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 55話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 55話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」55話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 55話

「ピクニック?」
「そうなの。外で昼食の予定なのだけれど、エメルも一緒にどう? カイルさまも」

 勉強部屋で勉強中のエメルとカイルに提案してみる。

「外で食べると美味しいのよ。風が気持ちいいし、お昼寝も良く寝れるの」
「僕はいいですよ」
「分かりました」

 二人の了解を得て、侍女に準備をお願いする。
 他の兄たちは朝から騎士団へ行っていていないため、今日は三人でランチだ。

 エメルが帰ってきて二週間が経過していた。あと二週間はこちらに滞在する予定だ。
 カイルは相変わらず何考えているか分からない。家族のだんらんにも一緒にいるが、いまだ返事は簡潔だし、自分から話すことがほとんどない。

 エメルと二人の時は、もう少し話しているようだが、それも勉強に関する議論の時くらいだ。
 カイルが私より年上ということで、ウィタノスでないから私の警戒心は皆無だけれど、だからといってカイルに興味があるわけでもない。だから、私も積極的に話すようなことはしなかった。

 それよりも、普段近くにいないエメルやディアルド、ジュードと話しているほうが楽しいのだ。

 とはいえ、カイルはせっかくダルディエ領に来たのなら、騎士団に連れて行ってあげればいいと思うのだが、兄に探りを入れたところ、理由があって連れて行かないようにしているようだった。
 詳しくは分からないが街にも行かないし、敷地内で過ごすだけだとせっかくの夏休みがもったいないと思ってしまうのは、私の前世の影響だろうか。

 だからピクニックに誘ってみた。ピクニックに行ってしまえば、あとはエメルがカイルの相手をしてくれるだろうことに期待する。

 午前の勉強が終わるのを待ち、エメルとカイルを連れて、いざピクニックである。侍女がいつもより大きめの籠を持っている。きっとキッチンメイドが、外でも食べやすくて美味しい料理を詰めてくれているに違いない。

「今日はここでピクニックにしましょう」

 私が場所を決めると、侍女たちが手際よく準備を進めてくれる。シート代わりの布をひき、美味しそうなサンドイッチが数種類、カットされた果物、お菓子、そして瓶に詰められたジュース。

 三人は座って、さっそく昼食である。

「うん、このサンドイッチ? 美味しいですね」
「そうでしょう! それに外で食べると、余計に美味しいと思うの」

 貴族はこのように外でサンドイッチのような軽食を食べることはしない。外で食べることはあっても、コース料理の品数を減らしただけの上品な食事会か、もしくはお菓子やお茶を上品にたしなむお茶会が一般的である。

 私がサンドイッチのようなものを食べたいとキッチンメイドにお願いしても、最初は難色を示されたのだ。だからママにお願いしたところ、キッチンメイドはあっさりお願いを聞いてくれるようになった。

(ママやパパは、運動に絡むお願い以外は、たいてい聞いてくれるし)

 もちろん、これは屋敷内だからできるわがままである。

「こっちのサンドイッチも美味しいの。カイルさまも食べてみて」
「わかりました」

 カイルもこういった形式で食べることは初めてなのだろう、戸惑い気味な様子である。

「美味しい?」
「美味しいです」

 カイルはただオウム返しするだけだが、顔見れば本当に美味しいと思っているように見えるので、よしとする。

 デザートで果物やお菓子も食べて満足すると、少し離れたところで待機していた侍女たちが片付けにやってくる。そして片付けが終わると、クッションが六個置かれる。

「……もしかして、ここでお昼寝ですか?」
「うん、風が気持ちいいのよ」
「わかりました。ちょっと、僕……。すぐに戻ってきます」

 トイレだろう。エメルは走って行ってしまった。
 そこで私は我に返る。侍女はまた離れたところに待機しているので、実質ここにいるのは私とカイルの二人っきりである。

(話題がない!)

 エメルに任せる気満々だったから、カイルとの二人が気まずい。

「えっと……。カイルさまは夏休み楽しんでる?」
「そうですね」
「うちは家族が多いから……うるさくないですか?」
「賑やかだなと思います」

(否定しない。やっぱりうるさいと思っているのかな)

 苦笑するしかない。

「カイルさまは兄妹いますか?」
「兄妹はいません。俺は一人っ子なので」
「じゃあ、パパとママがたくさん可愛がってくれるでしょう」
「……父上と母上は忙しい人たちですから。ほとんど会わないですね」
「……で、でも、会った時は抱きしめたりキスしてくれたりするでしょう?」
「記憶にないですね」

(やらかした!? 地雷踏んだかもしれない!)

 冷や汗がぶわっと毛穴から吹き出す。カイルは相変わらず無表情だが、この反応をどう受け取ればいいのか分からない。

 貴族の家は両親が忙しいことは、ままある。うちだってパパは働きづめだし、ママもお茶会や他の貴族の奥様方との交流など、情報収集に忙しい。その点、私は兄が多く、パパが仕事中に一緒にいてくれることも多いので、寂しく思うことは少ない。
 ということは、カイルのいう両親が忙しいというのは、言葉通りに受け取ればいいのだろうか。貴族の子女としては、一般的といえばそうなのかもしれない。

 とはいえ、抱きしめたりキスしてもらったりした記憶がないというのは、どう取ればいいのだろうか。

「じゃ、じゃあ、乳母が近くにいて、抱きしめてくれる?」
「乳母は俺が小さい頃解雇されて、もういませんね」

(ど、どゆこと?)

 つまり、帝都のカイルの家では、両親は仕事で忙しくて会うことも少なく、可愛がってくれるはずの乳母もいないということである。使用人はいるだろうが、いつも一人で過ごしているということだ。

(それって、悲しいな)

 エメルやカイルの大人びた態度から忘れそうになるが、彼らは九歳である。まだまだ親の愛情は必要であるし、甘やかされていい年齢だ。多感な時期であるし、もっと感傷的であってもおかしくないのに、この落ち着きようが、すごく悲しい。

 もともとそういう性格なのなら、いいのだろう。だけれど、環境のせいでそうなるべくしてなったような気がするのだ。そして、そのことに、本人さえ気づいていないのではなかろうか。本当は人恋しいはずなのに。

「誰も、抱きしめてくれないのは、寂しいね」
「そうですか? 俺には分からない」
「私はパパやママやお兄さまたちに抱きしめてもらえないと、寂しくて泣いちゃうわ」
「俺は……、本当の母上は死んでいるし、今の義母が俺に厳しくするのは、俺には俺の役割があるから仕方ない事なんです。だから……」

 す、すごいのぶっこんできた。現ママは後妻なのだろうか。
 カイルの表情が、わずかに変化した。一瞬だが、苦悩の感情があった。

「ごめんなさい。ママが亡くなっているの知らなくて」
「いいですよ。みんな知っていることですから」

(やばいな)

 カイルの無表情を崩したくて、わざと無邪気さを装い、つっこんだ話をしてみたのだ。だが、泣きそうになっているのは私だった。
 こんな可愛い子が、素直でいい子が、寂しさをずっと抱えていくなんて可哀そうだ。

 泣きそうな顔を見られたくなくて、私はカイルに抱き着いた。

「私が妹になってあげる!」
「……え?」
「カイルさまは私のお兄さまになるの!」
「兄に?」
「妹っていいのよ! お兄さまなら、好きなだけ抱きしめたり頬にキスしたりできるんだから!」
「……」
「ほら、カイルさま! 私を抱きしめてみて」

 戸惑い気味に、おずおずと背中に腕が回される。

「抱きしめるっていいでしょう?」
「……温かいです」

 遠慮がちだった腕に、力がこもる。

「……妹に、なってくれるのですか」
「うん!」
「……兄って、何をすればいいのですか」
「お兄さまたちは、いっぱいお話したり、抱きしめたり、たくさん可愛がってくれるの。お兄さまたちを観察して、覚えればいいと思うの」
「そうですね」

 カイルから体を離して笑うと、カイルはつられたように微笑み、その笑顔はやけに眩しかった。

「おまたせしました」

 エメルが戻ってきた。

「エメルおかえりなさい。報告があるの」
「どうしました?」
「カイルさまがね、ミリィのお兄さまになったのよ」
「え?」
「ミリィはカイルさまの妹になったの」
「そ、そうなのですか?」
「俺のことは、カイルでいいですよ」
「え?」
「ミリディアナ嬢は妹ですから」
「だったら、私もミリィと呼んでね」

 意味が分からない、そんな表情のエメルだが、私はクッションを並べなおすと横になった。

「さ、お昼寝しましょう。エメルは右、カイルは左にどうぞ」

 三人はクッションを枕に、横になる。
 風が気持ちよくて、すぐに眠気がやってくる。
 カイルの妹となることで、カイルを動揺させてしまった後ろめたさが解消され、私はすぐに眠りに落ちるのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。