七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 53話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 53話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」53話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 53話

「お嬢様、いったん室内へ入りませんか?」
「ううん! まだ入らないわ! もうそろそろだと思うの!」

 屋敷の入り口の外の階段に座り、私はそわそわと道の先を見ていた。エメルがもうすぐ帝都より帰ってくる予定なのである。
 社交界シーズンで帝都へ行っていた両親はエメルに会っているが、私は半年ぶりの再会である。
 早く会いたくて、朝からずっと外で待っていた。もうすぐ昼時だから、まだ待つ気なのかと侍女があきれ顔でいるのは分からなくもない。

「あ! あれかな!」

 馬車が三台走ってくる。

「今度こそ、そうかもしれませんね」

 朝から何台か馬車が到着するたびに、エメルだと勘違いしてはしゃいでしまったため、侍女がすっかりお疲れ気味だ。

「エメルー! エメルー!」

 叫ぶと、一番前にいた馬車の窓が開き、エメルが顔を出した。

「ミリィ! ただいま!」
「エメル! おかえりなさい!」

 嬉しすぎて私はぴょんぴょん飛び跳ねてしまう。

 馬車が到着すると、エメルが飛び出してきた。私はエメルの胸に飛び込む。

「ミリィ!」
「エメル! 会いたかったの!」
「僕もですよ!」

 エメルがぎゅうぎゅうに抱きしめてくれるから、私も抱きしめ返していると、エメルの後ろに見たことのない少年が立っていた。

「どちらさま?」
「あ、そうでした。ミリィ、彼はカイルさま。夏休みの間、一緒にここで過ごすことになったんです」

 私はエメルから離れると、スカートをつまんでお辞儀した。

「はじめまして、カイルさま。ダルディエ家へようこそ。エメルの妹のミリディアナです」
「はじめまして、ミリディアナ嬢。一か月、お世話になります」

 お辞儀を返すカイルは、黒髪の美少年だった。うちの兄たちは美形ぞろいだと思っているが、カイルも負けないくらいの美貌である。挨拶の間、緊張しているのか笑いもせず、ほとんど無表情といっていい彼は、どこか明るさの欠けた独特な雰囲気を持つ。それに。

(ママと同じ緑のキラキラの瞳)

 よく見るとママと同じ瞳なのに、ママとは印象が違う。髪色のせいだろうか。
 それから続々と両親や兄たちが集まり、エメルとカイルを歓迎する。
 私は意識がカイルからエメルに移り、二人で手を繋いで屋敷へ入るのだった。

 その日の夜は、カイルへの歓迎の意味をこめた晩餐会だった。
 両親や兄たちがカイルに会話をふるが、カイルは「はい」「いいえ」「そうですね」くらいの返事しかせず、いまいちどういった子なのか分からない。

(エメル以外知らない人ばかりだろうしね)

 緊張しているのだろう。

 エメルはこの半年間、同じ年の子が集まる勉学関係の集まりのため帝都へ行っていたのだが、カイルはその集まりの仲間の一人らしい。だからか、ダルディエ家で生活する中で、エメルがカイルの面倒をみていた。

 エメルが帰ってきて、その翌日。
 いつもならパパの執務室で勉強に励む時間だが、エメルとカイルが勉強部屋で勉強するというので、一緒にいさせてもらった。

 夏休みといえど、宿題のようなものがあるらしく、二人は問題を黙々と解いたり、時には議論をしていた。その議論の時、『横領』や『詐欺』などの言葉が飛び交っている。

(犯罪学かなにか?)

 エメルもカイルも九歳のはずなのだが、普通九歳はこういう議論するのだろうか。少なくとも、中身大人の自分が、四年後この議論ができるのかといえば、間違いなく否と答える。

 私はと言うと、五桁の足し算にいそしんでいた。

「それなんですか? 暗号ですか?」
「ううん? 足し算よ」

 私が足し算を暗算でできるのは三桁が限界である。四桁超える計算は筆算しないと駄目だった。

「最近、早く解けるようになったの。やっぱり筆算ってすごいわ。見て」

 エメルに五桁の計算をした紙を見せる。
 筆算なんて、前世の小学生以来である。

「……ひっさん?」

(あれ?)

 エメルがじっと筆算を見ている。今まで私に興味がなさそうだったカイルまで、こちらを見ている。

(やらかした? 現世には筆算がないとか、言わないよね!? ね!?)

 『筆算』という言葉を使わないだけで、それ相応のものがあるはず。だよね?

「その暗号みたいなの、やってみてもらってもいいですか?」
「……いいよぉ」

 冷や汗かいてきた。今回ばかりは「エメルに教えてもらったのー」作戦は使えない。
 エメルもカイルも興味津々で私が筆算で解くのを見ている。

「……なるほど、そうやって解くんですね。よくできてます。これ、ミリィが考えたんですか?」
「えっとぉ、数字が大きい足し算は難しいなと思ってぇ。……なんとなくやったら、できちゃった」

 つい目が泳いでしまう。動揺して口調まで私らしくないが、最後は適当に流してしまう。
 エメルとカイルは、私が話した筆算のやり方をすぐに理解し、新しい問題を自身で解いてみている。

「うん、よくできています。ミリィはすごいですね」

 エメルの目がキラキラしている。そ、そんな目で見ないでほしい。開発者は私ではないの。

「……参考までに、エメルはどうやって計算しているの?」
「僕?」

 エメルは私の足し算の問題を一つ解いてくれた。

(一瞬で解いてすごいと思うけど、まさかの暗算だった……)

「えっと、カイルさまも同じやり方?」
「そうですね」

 うそでしょ。桁数の多い足し算は、暗算きついでしょうよ。
 やらかしたことに、ドキドキが止まらない。
 まさか天才現るなんて、間違った誤解をみんなに言ってまわったりしないよね?

 私には家庭教師がいない。本は好きだし、本から知識はたくさん得られるから、もうしばらくは家庭教師は不要だと思っていたが、ここの常識を知るためにも、パパに家庭教師をつけてもらうか、と本気で考えることとなった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。