七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 51話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 51話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」51話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 51話

 カロディー家での夕食は、お茶会とは違い穏やかな雰囲気だった。長女次女はあからさまにディアルドの関心を引くように話し、ディアルドはそれに友好的に返す。それを好意だと受け取っているのか、長女と次女は始終ご機嫌だった。

 ただ夕食後、まだ話したりないからお茶でも、という長女と次女の誘いを丁寧に断ったディアルドは、私を連れて準備されている部屋でくつろいだ。
 私の荷物は夕方前に届いていた。侍女を呼んで先に風呂へ入れられた私は、侍女に髪をふかれているうちに眠くなってきていた。

「もう眠い?」

 私の後に風呂に入っていたディアルドが、バスローブをまとい上がってきた。髪が濡れて、雑にバスローブをまとう姿は、やけに色っぽい。テイラー学園へ行っている間も、鍛錬は欠かさないのだろう。バスローブから覗く身体は、引き締まっている。
 そんなディアルドを見て、侍女が顔を赤らめている。罪な男である。

「眠くないよ」
「嘘つかなくてもいいのに。目がトロンとしているじゃないか」

 私の顔を上へ向かせ、ディアルドはふっと笑う。

「そういえば、今日はジュードが当番だっただろう? 今頃悔しがっているかな」

 添い寝のことだろう。いつも領にいないディアルドとジュードが帰っている間は、この二人の添い寝ローテーションの回数が増えるのだ。

「ミリィはディアルドもジュードも好き」
「分かっているよ。今日は俺が独り占めだなと思っているだけ」

 ディアルドは私のおでこにキスをし、またバスルームへ向かう。バスローブから着替えるためだろう。
 ディアルドは特別な服の時以外は、侍女や下僕を使って着替えるようなことはしない。時間がかかるし、本人は面倒だと思っているようだ。

 私の寝る準備が完了すると、侍女は去っていった。着替えたディアルドと共に、ベッドに入る。カロディー家の客間には取り外しのできる柵がない。「しまったな」とディアルドは独り言を言っていたが、赤ちゃんの頃よりも寝相が良くなったから、ベッドに柵がなくとも今なら落ちたりしないだろう。たぶん。

 私は寝つきがいい。ディアルドと共にベッドに入り、お休みのキスをもらって三呼吸めには、寝息が聞こえだす。遠くの方でディアルドの笑う気配がしたような気がした。

 カロディー家二日目。

 ディアルドが動く気配がして、私の目が覚めた。
 まだ外は薄暗闇だが、ディアルドはだいたい日の出とともに起きる人である。そして隣で眠る人の起きる気配を察知する能力が高い私は、隣の人の目が覚めるタイミングで一緒に目が覚めるのである。

「ミリィ、おはよう」
「お……ょう」

 起きたものの、まだ覚醒しているとは言えない私は、伸びをすると、その流れでまだ横になったままのディアルドの上に乗った。
 ディアルドの心臓の上に耳を載せ、その音を聞くと落ち着くのだ。

「まだ寝ててもいいんだよ」
「ううん、起きる」

 ディアルドは私をぎゅっと抱きしめ、身体を起こした。そして私を抱えてベッドを抜けると、壁側にある紐を引っ張る。
 この紐は使用人呼び出し用のものである。ひっぱることで、使用人の部屋のベルが鳴る仕組みだ。貴族の家は、だいたいこの仕組みで、ダルディエ家も同様である。

 侍女がやってくると、抱えていた私を侍女に任せ、ディアルドはバスルームへ向かう。いつものルーティーンなら、ディアルドは着替えて走りに行くはずだ。
 案の定、ディアルドは着替えて走りに向かった。

 私は侍女に手伝ってもらい、顔を洗ったり着替えたり髪を整えてもらったりする。これは家にいる時から変わらない。
 その後、侍女が部屋を出ていくと、私はバルコニーに出てみた。朝もやが少しあって景色は見づらいが、太陽の光が斜めに入り、気分はすがすがしい。
 そしてディアルドが帰ってきて、またバスルームで汗を流し、着替えると一緒に朝食をとる。

 カロディー家の子供たちはまだ起きていないようで、朝食は私とディアルドとパパの部下の三人だった。

 朝食が終わると、三人は執務室に向かい、ディアルドとパパの部下は仕事、私は算数の勉強である。算数といっても、簡単な足し算と引き算なので、中身が大人な私は歌いながらでも解けるが、もちろん歌ったりはしない。そんなことしたらディアルドの邪魔になる。

 途中でパパの部下が、「五歳って足し算引き算するんだっけ?」とブツブツ言っていた。確かに、この世界の勉強レベルは、前世より低い。なにか怪しまれても困るので、「エメルに教えてもらったの」と言っておいた。天才エメルが教えたのか、とパパの部下も納得したようだった。

 それから昼食はカロディー家の子供たちも一緒だった。
 その時に、長女が家の中を案内したいと言い出した。当然ながら、ディアルドは仕事なので丁重にお断りした。ならばと、私だけでも案内したいと長女が言うので、カロディー家の探検に興味があった私は、誘いに乗ってみた。

 そして現在。
 どうやら『子供の面倒もみます』といい女アピールがしたかっただけなのか、ディアルドが執務室へ行ってしまうと、私はほっぽり出された。

「家の中なんて、勝手に見なさいよ。私、暇じゃないの」

 長女と次女は去っていき、その場に取り残された私に話しかけたのは三女だった。

「あの……よかったら、私が案内しましょうか?」

 そして、今、私は三女と三女の侍女の案内で、カロディー家の屋敷の中を見て回っている。
 カロディー家の屋敷は、ダルディエ家より小さいが、歴史的な趣があって、なかなか素敵である。絵や調度品なんかも歴史を感じるものが多く、この家が代々受け継がれてきた歴史というものを垣間見た感覚になる。

 屋敷の中を見終わると、庭も案内してくれるというので、外へ向かった。庭は綺麗に整えてあり、小さな噴水や彫刻なんかも丁寧に掃除されている。しかし、裏庭の方へ私が足を向けようとしたところ、三女に止められた。ここまで案内されたなら、せっかくだから裏庭も見たいものだ。

 しかし必死に止める様子に首を傾げ、私は無邪気を装い走って裏庭へ向かった。走ったりすると家では止められるが、ここには走る事を止める人はいない。

 裏庭へ行くと、三女がやけに行ってほしくなさそうにする理由が分かった。裏庭は荒れ放題だったのだ。私を追いかけてきた三女は、青い顔をしていた。

 それから場所を室内へ移し、私と三女は侍女の用意するお茶とお菓子を食べて、ほっとしていた。

「裏庭は、誰も見ていないのだから、綺麗にする必要はないとお姉さまが言いますの」

 ぽつりぽつりと三女が事情を話し出す。

 三女の話によると、おおまかにはこういうことらしい。

 実は姉二人は、父の後妻の連れ子で元は平民。そして三女と長男は先妻の子だという。つまり上の姉二人とは血が繋がっていない。三年前、父の再婚でこの家に入った妻と娘は、最初から金遣いが荒かったという。そして一年前父と義母が事故死すると、姉たちが家のお金の管理をしだしたらしい。

 貴族の家のお金事情だが、大きく分けると、領内のことや事業に関することは夫の役目、屋敷の管理や使用人の管理、庭の管理なんかは妻の役目とするところが多い。もちろん家庭の力関係はそれぞれなので、一概にすべてがそうだとは言えない。全て夫が管理する家庭もある。

 カロディー家は一般的な貴族と同じで、後妻がやってきた時に、妻の役目として屋敷全般の管理は妻へ一任したらしいのだ。そこから後妻がどう采配したのか分からないが、後妻とその娘二人に使うお金は増え、三女と長男に使うお金は減っていった。そして当時のカロディー伯爵は後妻にベタぼれで、それに気づくことはなかった。

 貴族にも予算がある。領や事業に関するお金は、現在のカロディー伯爵の後ろ盾であるパパがしっかり管理している。そこから屋敷で使えるお金としての予算は、いったん執事に預けられているが、その管理はパパは執事に一任している。そしてこの家の現在の主人は自分たちだとでも言うように、長女と次女が予算に口出しをしているのだ。

 長女と次女は自分を着飾るためのお金が欲しかった。そこで、裏庭はどうせ誰も見ることがないのだからと、庭師を数人解雇したのだという。両親が亡くなり、客人の少なくなったカロディー家は、客室を減らし、普段使わない部屋は掃除しないなどして、使用人も減らした。

 実は三女が案内しなかった部屋があり、そこは管理されず掃除もされていないらしい。

 まだ幼い三女と長男では、彼女らの横暴には勝てず、また口を出そうものなら、ヒステリーに攻撃されるという。

 なるほどと思った。上の二人と下の二人は性格も顔も全然違う。運よく突然お金を手にした娘たちは、本当に権利のある二人には渡さず、自分たちで使ってしまうつもりなのだろう。最終的にはその美貌で、将来のお金持ちで貴族の夫を捕まえようとしているのだ。

 ただ、領のお金はパパが管理しているのだ。だから領のお金に強欲な二人が手を付けられないのは確かだ。

「上のお姉さま方は、カロディーの名を継いでいるのですか?」
「まさか、とんでもない! あんな女たちがカロディーの名を名乗るなど、あってはなりません!」

 ずっと悔しそうな顔をしながら三女の話を聞いていた侍女は、震えた声で言った。少なくとも、この侍女は三女の味方なのだな、と心に止める。

 後妻の娘は、カロディーの姓を継いでいない。ただ母の結婚についてきただけの人間なのだ。ということは、昔の姓のままで、つまり平民。貴族でもない、後妻も死んだのに、まだこの家に留まる居候にすぎない。

(なんだ、簡単なことじゃないの)

 ただ追い出せばいいのだ。ただの強欲な居候である。わざわざここに置いてあげる必要はない。

(ただ、三女と長男にそれができるとは思えない)

 いい意味でも悪い意味でもいい子たちなのだ。少しくらい、悪知恵を働かせることができないと、この屋敷はおろか、今後貴族社会でも生きていけない。

「ところで、三女……ユフィーナさまは、家庭教師は? マナーや教養の先生は?」
「昔はいたのですが、お父様が亡くなってからは……。お姉さまが無駄だとおっしゃって」

 なるほど、そこも削減して、自分たちのために使うお金へ回しているのですね。徹底している。だけれど、それくらい自分で回避できるくらいの知識は必要である。

「だいたいお話は分かりました」
「ではディアルドさまに裏庭のこと、黙っていていただけますか?」

 うん、問題はそこではない。でも三女の問題は、荒れた裏庭が恥ずかしい、それをどうにか知られまいとする、その一点に向いている。私がこのまま黙っていることに問題はないが、根本的な解決をしないと、今後この歴史のある素敵な館が荒れていくのは、私だって気になる。

 単純にパパやディアルドに言って改善してもらうこともできるが、それでは三女の成長は見込めない。いつまでたっても奪われるだけの存在となってしまう。それが分かっているし、わざわざ私がアドバイスをするほどの情もないけれど、少し関わってしまった身として、少しくらいアドバイスをしてみようという気になった。

 それを五歳の戯言と跳ねのけるなら、それでもいい。三女次第だ。

「そこまでおっしゃるなら、裏庭のことは兄に黙っておきます」
「ありがとうございます!」

 三女はほっとした表情で答えた。

「ただ、ユフィーナさまに家庭教師もいないのはいけませんね。マナーや教養の先生も雇ってもらえるように、ユフィーナさまが兄にお願いしてみましょう」

 兄が先生を付けると言えば、それを奪おうと口出すことは長女や次女もできまい。

「え? でも」
「ずっと無知のままでいいのですか? いつまでもお姉さま方に、やられっぱなしのままですよ」

 三女とその侍女は、驚愕の表情を浮かべた。五歳のセリフっぽくないのかな。まあいいや。

「あなたは良くても、ちょうな……レンブロンさまはどうするのです? 屋敷の中で頼る相手はあなたしかいないのに。レンブロンさまが、いつかお姉さま方の傀儡となってもいいと?」

 三女がぎゅっとスカートを握る。

「家庭教師とマナーや教養の先生に学んだら、女性の学園にも行きましょう。そして頑張れるなら、テイラー学園にも行ける方がいいですね」
「そ、そんなに?」
「もちろん、無知に甘んじるというなら、私はそれでも結構ですよ。この家の荒れ具合など、私は正直気にするようなことではありませんから」

 正直いうと、テイラー学園にまで通う必要はないのだが、兄の話によると、あの学園は通うだけでステータスとなるようだから、通えるのなら通っておいたほうが良い。

「無知でなくなったら、いつかお姉さま方のことは、ユフィーナさま自身で解決できる力が得られると思いますよ」

 私は席を立つと、笑った。

「では失礼しますね。私はお兄さまのところへ行きます」

 呆然とする三女と侍女を置いて部屋をでる。つい五歳の枠を出た話をしてしまった。すこし助言しすぎたかもしれない。兄が見ていなくて、よかった。

 執務室で勉強の続きをしていたところ、三女がやってきた。
 そして兄に家庭教師とマナーや教養の先生を雇ってほしいと告げる。その表情は、さきほどとは打って変わって、決意に満ちた表情だった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。