七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 50話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 50話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」50話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 50話

 現在私は、カロディー家の長女、次女、三女、長男とお茶会をしていた。
 そういえば、家族以外とお茶会などしたことないな、と思いながら、私は粗相をしないよう大人しくお菓子をつまんでいた。

 お茶会はけっして良い雰囲気ではなかった。
 ディアルドとのお茶会を断られた長女と次女が不機嫌で、それを隠そうともしない。しかも長女と次女は口が悪い。ディアルドと話していた時は、一応は言葉遣いが整っていたのに、私のような五歳には、礼儀もへったくれもないのだろう。

「どうしてこの私が、こんなガキとお茶なんて飲まなきゃいけないの?」

(誘ったのは、そっちだと思うが)

「ふふ、お姉さまったら、ディアルドさまにまったく相手にされてなかったわよね」
「何よ! あんたには見向きもしなかったじゃないの!」
「今は、でしょ? 最近は年下が流行りだもの。同じ年のお姉さまより、私が誘ったら、お茶会だって来てくれたかもしれないわ」
「何ですって!? 年増だといいたいの!?」

(すごい会話だな。十分若いのに)

 十五歳そこらで、年増もなにもないと思う。世の中の女性を一気に敵にするセリフである。

 まだぎゃあぎゃあと言い合っていた長女と次女だったが、急に私を向いた。

「それで? ディアルドさまは、どういった女性が好みなのかしら」

(知りませんがな)

 ディアルドが女の好みなど、私に言うわけなかろう。まあ、私もわざわざ聞いたりしないからかもしれないが。

「……裏表のない人が好きだと思います」

 しれっと軽く毒づいてみた。
 貴族と言うものは、裏表が激しいものだ。本音と建て前だけでなく、嫌味や皮肉の応酬も一般的なのだ。それは分かっているが、こうあからさまだと、こちらだって嫌味くらい言いたくなる。

 長女と次女は私が何が言いたいのか分かったのだろう。顔を真っ赤にして立ち上がった。

「何よ! ディアルドさまの妹だからって、調子に乗って!」
「生意気なのよ!」

 憤慨した二人は、連れ立って去っていった。
 なんだあれは。お菓子を一つ口に入れ呆れていると、申し訳なさそうに謝る声がした。

「姉たちの失礼な態度にお詫びいたします。申し訳ありません」

 三女が頭を丁寧に下げる。
 そういえば、三女と長男がまだいたな。長女と次女が強烈すぎて忘れていた。
 長女や次女の派手な美貌と服装とは違い、三女は地味な洋服を着ているが、姉とは違った美しさを持つ可憐な少女だった。言葉遣いも、相手が五歳と侮った風ではなく丁寧である。

 長男はそんな三女に似た顔をしている。長女と次女が怖いのか縮こまっていたが、今はほっとしたような表情をしている。

「お姉さまたちは、普段からあのような?」

 言外に「普段からいつも失礼な人なのか」と聞くと、三女はさらに申し訳なさそうな顔をした。

「わたくしが至らないばかりに、申し訳ありません」

 いやいや、あなた三女でしょう。姉のやらかしを下の妹が謝る必要ないのでは?

「姉さまは悪くありません! 僕がまだ、……頼りないから」
「何を言うの。あなたは頑張っているわ」

 長男も上の姉二人の態度には、何か思うところがあるらしい。

「二人のお姉さまは教養やマナーのレッスンは?」

 貴族の令嬢であれば、七歳頃から少しずつレッスンするものだ。

「一応学んでいるはずなのですが、両親が亡くなってからは姉たちが断ってしまって」

 つまり、レッスンは中途半端だということだ。

「女性の学園へは?」
「行っておりません。家庭教師もいらないとおっしゃいますし」

 ここでの女性の学園とは、貴族の女性が通う、マナーや教養、学業を学べる学校である。国にいくつかそういった学校があるのだ。そこに行ってもおらず、家庭教師も付けていないとは。日々遊んで暮らしているだけということか。

(まあどうでもいいや。他人の家庭だし)

 貴族の女性の心配は、一番は夫探しである。少しでも条件のいい夫を探すことが、良家の子女の親と子の悩みだったりする。なのに、長女と次女のあの態度では、すぐに化けの皮が剥がれて倦厭されそうだ。あの美貌であれば騙される男もいそうだが、素の態度を見抜けぬ男であれば、それまでの男であろう。その程度の大した男ではない。

 今の長女と次女の目当てがディアルドのようだから、まさかディアルドが騙されるとは思えないが、少し探りでも入れてみようか。
 私はお茶を飲み干すと、立ち上がった。

「お兄さまのところに案内していただけますか」
「ディアルドさまは仕事中ですが、よろしいのですか?」
「お兄さまは、私がいるくらいで仕事がはかどらなくなるような方ではありませんもの」
「わかりました。わたくしが案内いたします」

 長男は勉強のため去り、私は三女の後を付いていく。ある部屋の前で止まり、三女がトントンとドアを軽くたたき声をかけると、中から返事があり、三女と私は部屋へ入る。

 部屋の中には、ディアルドともう一人男の人がいた。パパの執務室で見たことがある男性である。

「ミリィ」

 机から顔を上げたディアルドは、妹の顔を見て立ち上がり、私のところへやってきた。

「お茶会は楽しかった?」
「お菓子が美味しかったよ」
「それはよかった。……ユフィーナ嬢、ですね。妹を連れてきてくれたんだね。ありがとう」

 ディアルドは私を抱っこしてから、三女に微笑んだ。
 頬に少し赤みが増し、三女はお辞儀をした。

「それでは、失礼します」

 少し小走り気味に三女は去っていく。

「さて、俺の膝の上と椅子とどっちがいいかな?」
「ディアルドは仕事中でしょう? 椅子に座って邪魔しないで本を読むわ」

 一冊だけ、ディアルドの荷物に本を入れて持ってきている。
 男の人がディアルドの横に椅子を用意してくれたので、そこに座って本を開く。

 それからディアルドと男の人が仕事を黙々と続け、ときどき仕事の会話をし、いつのまにか外は夕焼け色に染まっていた。

「今日はここまでにしようか」
「そうですね」

 男の人はパパの部下で、定期的にカロディー家を訪ねて仕事をまとめ、それをパパが最終チェックしたり決裁したりしているらしい。そのパパの役目を今回はディアルドが行っている。ディアルドの年齢で普通こういうことするのだろうか? いまだに疑問である。

「お嬢様が真剣に読まれていた本は何ですか?」

 パパの部下は紅茶で一息つきながら言った。

「『タタラの結婚と心変わり』だよ」

 パパの部下は、ぶはっと紅茶を吹き出した。

(汚いな……)

 ディアルドは私の本の背表紙を急いで見る。

「なんでこんなもの!?」
「アルトがくれたの」
「あいつ……」

 アルトとバルトの双子は、時々騎士団へ行かないで、サボって街へ遊びに行っている。
 私が運動をさせてもらえないことや、本好きなことを知っているので退屈しのぎにと、本を買ってきてくれるのだ。

 ただ、本のチョイスが悪かった。いや、私としては悪くないチョイスなのだが、どうみても大人向けの恋愛の本ばかりだった。本人たちは本は読まないので、本屋で今流行ってると評判のものを買ってきているにすぎない。

 大人向けとはいっても、前世なら中学生向きと言えそうな、きわどい部分でもキスどまり。不倫や浮気という言葉は出ても、細部まで事細かには説明されていないので、私としては清らかな恋愛という認識だ。

 ただ、この世界では、これ系の話は隠れて読むものという定義で、若い女性を中心に人気だが、読んでいるとバレると恥ずかしいというレベルの本だったりする。

 まあ、どちらにしても五歳が読むべき内容の本ではないことは確かだ。

「面白いのよ」
「面白くないよね!? こんなもの、ミリィには早いよ。何で気づかなかったんだ俺」

 私から本を奪ったディアルドは、頭を抱えた。
 もう取られても問題ない。一度読み終わり、気になったところを二度読みしていたところなのだ。

「それでね、夕食前にディアルドに聞きたいことがあるの」
「……何かな」

 仕事している時は何ともなさそうだったのに、本の題名知ったあたりから疲れた表情を見せるディアルド。

「ここの上のお姉さま二人なのだけれど」
「えっと、エレナとサラ?」

 よく名前覚えているな。さすが兄。

「うん。その二人のお姉さまね、ディアルドのお嫁さんになりたいみたいなの」
「は?」

 本人たちは、本格的な言葉は口にしていないが、ディアルドの嫁の座を狙っているのは間違いないだろう。ディアルドは長男だしね。未来の公爵様だしね。将来有望筆頭だ。

「あのお姉さまたち、ディアルドのお嫁さんになったらミリィのお姉さまになるのでしょう? ミリィ、嫌だな。あの人たちがお姉さまになるの」
「……」
「ディアルドは、あのお姉さまたちが好き?」
「……好きじゃないよ」

 ディアルドは脱力気味に答える。そして「あの本の影響か? 帰ったら説教だな」とブツブツ言っている。

「エレナとサラは俺の好みではないし、そうでなくとも、あの二人だけは絶対に妻になどならないから、ミリィはそんな心配しなくても大丈夫だよ」
「ほんとう?」
「本当。ったく、もうあの本読んじゃダメだよ」

 それには肯定できません。まだそれ系の本、家にたくさんあるの。

 ディアルドは私を抱き上げ、ソファーに座ると私を膝に乗せた。

「……そこ、笑いすぎでは?」
「す、すみませ」

 何故かパパの部下は下を向いて震えていた。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。