七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 42話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 42話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」42話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 42話

(たぶんウィタノスじゃない)

 目の前にいる子供二人は、パパの親友のアカリエル公爵の息子だ。現在お茶会中なのだが、二人とも私に興味があるのか、にこやかに私を見ている。長男がノア四才で、次男がレオ二歳とのことだ。

 最初遠目で二人を見た時は、ウィタノスかもしれないと思って怖くなった。パパの友人のところへ遊びに行くのは知っていたが、まさか子供がいるとは思っていなかった。だから子供を見た途端、ウィタノス? と恐怖に震えたが、私と同じ年齢ではないと聞き、いったんその疑いを外した。

 二人を近くで見ると、余計にウィタノスではないことが理解できる。なぜかといえば、悪夢では前世のどの世界でもウィタノスの顔さえ知らないのに、ウィタノスの顔を見た途端、その人がウィタノスなのだと確信できていたからだ。今回二人を見てもウィタノスとは思わなかったことが、ウィタノスではない人間だと結論に達した。

 今では警戒をといて、ちゃんと一人で椅子に座れている。だって私より小さいレオが一人で座っているのに、お姉さんの私が座れないなんて恥ずかしいものね!?

 目の前には美味しそうなお菓子が並んでいる。どれもこれも食べたいが、お腹壊すのが怖いので、たくさん食べないようにしている。

「ミリディアナ嬢は、変わったものを着ているね」
「ぬいぐるみのようですか?」
「ああ。すごく可愛い。ジュードが作ったのか? ぬいぐるみはそうだと聞いたが」
「ミリィがズボンをはきたいと言うので、ぬいぐるみから連想して作ってみました」
「さすが兄というべきか。愛らしさに磨きがかかるようだ。うちの子にしたいくらい」
「駄目です」
「駄目か」

 アカリエル公爵はニコニコと私を見ているが、このアカリエル公爵、すごく美形である。こんな視線で笑いかけられたら、女性はみな惚れるだろう。私が子供でよかった。

 パパとは違った美形で、どこか女性的な美しさがあり、ジュードと同系統の美貌を感じる。公爵夫人はほっそりとして小柄で華奢でありながら、清楚な美人さんだが、どこか口調の端々に強さを感じる人だった。そんな二人の子供は、もちろん整った顔をしていて、将来間違いなくモテるであろうことは想像に難くない。

「それ着ぐるみでしょう? 販売してらっしゃるの?」

 お。公爵夫人は着ぐるみを知っていましたか。ということは、この世界に着ぐるみはあるのか?

「いえ、まだ販売は先になります。今のところ来年の冬を予定しています」
「そう、残念だわ。レオが着たら可愛いと思うのだけれど」
「試作の段階なのですが、それでもよければお作りしましょうか?」
「うれしいわ! お願いしていいかしら」

 パパの友人宅へ訪問するにもかかわらず、ジュードが今日着ぐるみを着ていいよと言っていたのは、公爵夫人の着ぐるみに対する反応を見たかったからかもしれない。市場調査は大切だし、ましてや高位貴族の声は大事だ。

「レオがその服を着たら可愛いと思うが、女の子だったらもっと可愛いと思わないか?」

 アカリエル公爵は妻に向かって言った。

「またその話ですの? わたくし、男の子だけで十分ですわ。妹の立場なんて、さんざんなものですわよ」
「そんなことはない! うちの子であれば、妹となっても幸せなはずだ。ミリディアナ嬢を見てみなさい。可愛いし可愛いし可愛い」
「もちろんミリディアナちゃんは可愛いです。でもうちには妹はいりません」

 大人しそうな顔なのに、公爵夫人ははっきりと意見を言う人なのだな。とはいえ、『娘』がいらないではなく、『妹』がいらないとはどういうことだろう。
 パパとママを見れば苦笑しているので、この夫婦のよくある会話なのかもしれない。
 娘を欲しがる公爵に、妹はいらないという公爵夫人。
 もしかしたら、私が今日ここに来たのは、娘が欲しい公爵の、夫人に対する作戦だったのだろうか。

「シオン……お前も妹は可愛いだろう? そうアリスに言ってくれないか」
「ミリディアナは可愛いです」
「ほら! 聞いたかアリス!」

 シオンの言葉はアカリエル公爵に言わされたようなセリフっぽかったが、夫人を説得するのに公爵は必至である。

 その後いったんお茶会は終了し、部屋を移動した。
 女の子が珍しいのか、ノアとレオから両手を引かれ、私も最初の警戒はどこへやら、ノアの用意したおもちゃで一緒に遊ぶ。

 その後、しばらく三人で遊んでいたが、アカリエル公爵夫人が傍にやってきた。

「ノア、レオ、ミリディアナちゃんと仲良くしていますか」
「うん!」

 男の子ばかりだと荒々しくなりそうだが、今まで見る限り、ノアもレオも穏やかな性格のようだ。

「ノアママ」

 私はアカリエル公爵夫人に話しかけてみた。ノアママ呼びに……うん、不快感はなさそうだ、よしよし。

「ノアママは女の子嫌い?」
「まあ……、いいえ、そんなことないわ」
「どうして男の子だけがいいの?」

 私の質問に驚いた顔をした夫人は、一つため息をついた。

「女の子が嫌いということではないのよ。先に男の子が生まれてしまったから、次に生まれる女の子は妹になるでしょう? 不幸になってしまうの」

 うん、よく分からない理屈である。

「わたくし妹なの。兄がろくでもない人でね、苦労したわ」

 あ、なるほど、実体験でしたか。
 妹であった夫人は、ろくでもない兄を持って不幸だったから、同じように妹になる娘を産んでしまうと、その子は不幸になるかもしれないということであろうか。
 こればかりは、兄の性格もあるだろうし、未来のことだから何とも言えない。

 ただ言えるのは、妹である私は、けっして不幸ではないということだ。

「ミリィちゃんは妹だよ。でもお兄さま、いるから幸せなの」
「……」
「お兄さまは、みんな優しいよ。ミリィちゃん可愛いねってなでなでしてくれる」
「……」
「ママがね、いつも言っているの。妹は小さいから優しくしてねって。だからみんな優しいのよ」
「……」
「ノアママもね、女の子生まれたら、ノアとレオに優しくしてねって言うの。ノアもレオも優しくしてくれるよ」
「……そうよね、大事なのは躾よね」

(うん? なんて?)

「いいえ、躾というより洗脳?」

(はい?)

「ありがとう、ミリディアナちゃん! そうね、毎日妹は大事にするように言い続ければいいのだわ」
「……」

 なんだろう、ちょっと気になる言い回しではあるが、ようはそういうことだ。うん。
 公爵夫人が嬉しそうだから、もうそれでいいことにしよう。

 そして数年後、アカリエル公爵家に待望の娘が生まれる。公爵夫人を説得したとして、私はアカリエル公爵に大層感謝されるのだが、それはまた別の話である。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。