七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 38話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 38話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」38話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 38話

 夏休みに入り、ディアルドが帝都より戻ってきたのだが、そのディアルドが帝都へ戻る時、ジュードも共に帝都へ向かった。

 今年はジュードもテイラー学園へ入学するのだ。去年ディアルドが入学したと思っていたのに、一年はあっという間だ。

 実は先日、ジュードがテイラー学園へ入るための入学試験を受けていた。十三才になる年に全員入学できるのかと思っていたから驚いた。

 ジュードによると、テイラー学園は試験に合格し、かつ寄付のできる王侯貴族が通うのが一般的で、さらに難しい奨学生用の試験があり、それに合格できると寄付がなくても王侯貴族でなくても入学できるとのことだった。

 慈善事業ではないのだろうし、寄付は分かるのだが、十三才から十八才まで通えるのは男子だけで、女子が通えるのは十六才から十八才までということには、男子優遇を感じる。要は、十三才から三年は男子校、十六才から三年が共学ということである。

 では、十三才から三年の間、女子はどうするのかというと、勉強だけでなく教養やマナーを学べる女子校があるらしいのだ。そして、ここは完全に王侯貴族のみが通える女子校である。ここも実は六年通えるのだが、勉強が得意な子は十六才でテイラー学園の試験を受けて、受かればそちらへ行く子が多いらしい。

 テイラー学園が共学だからかな? と思ったが、そうではなく、テイラー学園に通えるのは、一種のステータスになるのだという。王侯貴族でテイラー学園に通わないと、『あの子テイラー学園に入れる資格もないくせに』というレッテルを張られるのだとか。なんとまあ世知辛い世の中である。

 まあ、女子はそこまで言われないようですけれどね。男子は試験の合否が今後を左右するから必死らしいです。

 うちのジュードは前日まで遊んでいたのに合格していたから、そこまで難しい試験でもないのかな? というのが、私の感想です。

 三歳になった私は、最近はエメルと一緒に勉強するのが日課である。勉強と言っても、この国の言葉で基準となる言葉、前世でいうと『ひらがな』のようなものを書き出すくらいだ。
 最近エメルは家庭教師の先生が変わった。前の先生はクビになったわけではなく、家庭の事情で実家に帰ることになったため変更になったのだ。

(前の先生の方が好きだったな)

 前の先生は温和で、エメルだけでなく私に対しても優しく教えてくれていたが、今回の先生は『エメルにしか絶対対応しません』という態度で、私に絡もうとはしなかった。
 それだけではない。字の練習を見てもらいたくてエメルに話しかけると、邪魔するなと私に言ってくる。たぶん子供自体が嫌いなのだろう。私を見るだけで嫌そうな顔を隠そうともしない。
 ただ優秀な先生らしく帝都では有名で、秀才のエメルにはよい先生であるのは確かだろう。

 それでも普段走るだけで止められる私としては、ほとんどの時間を勉強しているエメルが一番一緒にいやすい相手なのだ。
 私としても、実は勉強が楽しい。知識を得るのが嬉しい。前世では勉強なんて嫌いだったが、大人になって、もっと勉強しておけばよかったと思っていたのも確かだ。だから現世では得られる知識を得ておこうと勉強に励む。

 ちょうどその勉強も休憩時間になり、私はエメルに絵本を読んで聞かせて褒められたところだった。前より口が回るようになり、以前よりなめらかに絵本が読めるようになった。

「なまえ書けるようになったんだよぉ。あとで見ちぇてあげゆね!」
「すごいですね。楽しみです」

 そんな兄妹のほのぼの休憩時間を過ごし、また勉強時間再開である。
 隣でエメルが勉強の話を先生としている間に、私は家族の名前を書いていく。ちょっと寄れた字になるのはご愛敬である。太めのペンで書いたら、全員分の名前を書くのに四枚も使ってしまった。

「できた! エメル見てー」

 エメルが勉強中だということも忘れ、ニコニコと得意げに名前を書いた字を見せた。
 すると、目を吊り上げた先生が、私の手の甲をムチで叩いたのである。

 痛いというより初めてのことでびっくりして、ぽかんと先生を見る私を青い顔でエメルが抱きしめた。

「何をするんです!」
「邪魔をした罰です」
「邪魔だなんて! ぼくはこんなことくらいで邪魔になんて思いません! ミリィ手を見せて」

 エメルは私の手の甲を見て、痛ましげな顔をした。
 鞭の当たった部分は、赤くなっているけれど血はでていない。それにジンジンとするだけで、見た目の赤みほど痛みはないので、そこまで大事にするほどでもない。
 実際、家庭教師を雇っている貴族は多く、罰として鞭で打たれることは一般的らしいのだ。

「エメルいたくないよ。だいじょうぶ」
「……そんなことないですよ」
「いつまでそうしているのです? まだ邪魔をするなら、また打ちますが」

 先生は眼鏡をくいっと上げた。

「あなたの妹がここにいていいのは、邪魔をしないからという約束だったはず。休憩時間ならいざ知らず、いつまでも遊び感覚でいてもらっては困ります。あなたは私に学ぶことを選んだのですから、私の言う通りにしてもらわなくては」

 いつも温和なエメルが表情を険しくしたが、ぐっと我慢して私の顔を見た。

「ミリィ、部屋を出てこの手を冷やしてきてください」
「ミリィちゃん、だいじょうぶだよ」
「うん、でも心配ですから。ね?」

 私は頷き、部屋を出て行った。その後侍女に手を冷やしてもらう。

 そして次の日には、先生は屋敷から出て行った。
 パパがクビにしたらしい。

 先生はすごく抗議したらしい。たかが鞭で打たれただけで! と。しかも邪魔したのは娘の方じゃないか! と。エメルの実力をさらに伸ばすのは、優秀な自分しかいない! と。
 しかしパパは、うちは暴力で従わせるのを良しとしていない、エメルは優秀なので先生でなくてはならない理由はない、先生の代わりはいくらでもいるのだと、頑なに辞めさせるのを譲らなかったという。
 元はエメルがパパに先生に辞めてもらいたいと言ったことが、一番効いていたらしいが。

(パパ最高です! エメル素敵!)

 先生の方針は、今までは正しかったのだろう。生徒たちも、たぶんその親も、それを当然と受け入れてきたのだと思う。
 でもそれを良しとしない親もいるのだ。

 ただ、今回の件に関しては、これで収めることになった。どういうことかというと、推薦状は書いたということらしい。雇う側雇われる側として、推薦状というものは、今後の仕事を左右するのだ。パパのように身分のある人から推薦状をもらえないとなると、『あの人は何かやらかした』というレッテルを貼られるのである。

 そこまではしない、ということで、今回は推薦状を渡して、早めに退出してもらうことで手打ちとしたのだ。

 先生としては、それでもおかんむりなことでしたけれどね。すごくプンプンして去っていかれました。

 そんなこんなで、次やってきた先生は、優秀な上に優しい人で、私もほっとしております。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。