七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 35話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 35話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」35話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 35話

 私と両親とシオンが帝都から領へ戻る時は、船は使わずに馬車で十日かかった。本来なら七日から八日くらいの日程らしいが、私が行きで体調が悪くなったのを鑑みて、ゆっくりとしたペースで戻ることにしたからのようだった。
 その結果、私は体調が悪くなることもなく、領へ着いた。

 それから数週間し、帝都のとある店から荷物が届く。
 どうやら帝都で流行っている人形らしい。ディアルドの買い物ついでに両親が帝都でその流行りの人形を、私のために発注したとのことだった。

 その人形のお披露目会。
 両親と、ディアルドを除く兄たちとともに、少しワクワクとした心でその人形を見た私は、期待した気持ちが一気に吹き飛んだ。

(目! 歯! 怖っ!)

 それはリアルな人間に近い代物で、五歳くらいの少女の等身大の美人人形だった。しかし、今にも動き出しそうな可愛らしいがギョロっとした目、そして笑った口から覗くリアルっぽい歯がホラー!

 なぜそんなに人間っぽい作りにした!? モデルは確実に美人の少女だと思うが、人間に近づけすぎて、寧ろ可愛さが遠ざかっている。夜中に徘徊しそうな顔立ち(失礼)だし、暗闇で目が合いでもしたら、間違いなく発狂する自信がある。

 いつになく俊敏な動きで走って一番遠くにいたシオンの後ろに隠れた私は、涙目で訴えた。

「それイヤ! あっちいって!」

 かくして、一度だけ日の目を見ただけの人形は、屋敷のどこかへ収納されることとなった。

 なんとなく人形に申し訳ないと思うし、娘の喜ぶ顔が見たかったはずの両親にも悪いが、あれはダメだ。ただの人形のはずだが、近くで見つめられでもしたら冷や汗が出るくらい、我慢できないやつである。

 前世の頃も、現在も、私は霊的なものにあまり恐怖を抱かない。暗闇の中一人で歩けるし、一人でお化け屋敷だって行けるタイプだ。なのに、なぜあの人形が怖いのか分からなかった。

(もしかしたら)

 あの殺される夢が原因なのかもしれない。何もしてこない幽霊よりも怖いのは人間だと私は知っている。あの人形のなんとも言えない表情が、人間の奥底の、人には見せない暗い部分を思い起こすからかもしれない。

 とはいえだ、本当にあの人形、帝都で流行っているのだろうか。たぶん少女向けの商品だと思うのだが、泣きっ面が続出しているのではないかと思う。

 少し恐怖を思い出してしゅんとした表情の私を、エメルが隣で心配そうに手を握ってくれていた。

「あれ、そんなに怖かったの?」
「女の子に人気だって父上言ってたよね?」

 双子がお菓子を食べながらつぶやく。

「あれイヤ」
「うーん、綺麗な顔していたのにね。帝都では、あの人形連れてお茶会するらしいよ」

 ジュードが苦笑しながら告げる。
 シオンが私を抱っこして、エメルの隣に座る。

「お茶会はミリィにはまだ早いと思う。もっと年上向けのものじゃないの?」
「そうかもしれないけれど、他の人形も身体が小さ目に作られてたりするくらいなんだよね。あとはもう少し笑ってないやつとか。ミリィには人形は合わないのかな」

 シオンの問いに、ジュードが応える。

 なんだろう、あのリアル人形しか選択がないのか。他にも可愛いものあるでしょう。ぬいぐるみとか。

(ミリィちゃんはねー、ぬいぐるみがすき)
「ぬいぐるみ? 何それ」
「え? 何?」
「ミリィがぬいぐるみが欲しいって」
「ぬいぐるみ?」

 え、嘘。まさかのぬいぐるみ知らない説。
 最近は心の中でシオンに向けて会話するのを、兄たちは誰も驚かなくなっていた。

(ぬいぐるみはねー、ゆめでみたの、かわいいの)

 シオンとの心の中での会話は、話しやすくなったと同時に弊害もある。それは、前世にあって現世にないものを知らぬ間に言ってしまうことだ。そういう時は、『夢で見た』が私のもっぱらの言い訳である。

「ぬいぐるみは夢で見たかわいいやつだって」
「へえ、どんなの?」

(ねこのね、かおがまあるくてね、からだがね、ふわふわしてね……)

 幼児っぽく説明するのは難しい。それでも私の言葉を拾ってシオンが伝える。ジュードは紙を用意して、それにイメージを描いていく。
 ジュードったら、絵うまいな。

「こんな感じ?」
「かーいーねー! ミリィたん、すき」

 ジュード天才か! つたない説明で『猫のぬいぐるみ』の絵の完成度! 表情も愛らしいし、立体的だし素晴らしいです。そして私と違い、絵心ありすぎる。

「よし、分かった、ぬいぐるみね。ちょっと父上に相談してくる」

 そう言ってジュードは部屋から去っていった。
 相談って何だろう。まさか現世にはないぬいぐるみを作ってくれるのだろうか。

 そのまさかだった。
 十日後、また家族で集まって、リアル人形ならぬ、ぬいぐるみのお披露目会。

「どう、ミリィ。ぬいぐるみだよ」

 どっからどうみても猫のココと同じ位の大きさの『猫のぬいぐるみ』だった。
 リアルな熊がくまのぬいぐるみになると可愛いように、リアルな猫がデフォルメされて丸みを帯び、すごく可愛らしい出来上がりである。

「かーいーねー!」

 あのリアル人形とは違い、大喜びの妹に満足気のジュードである。

 私の説明では、もしかしたらリアルな猫の人形ができてもおかしくないが、ちゃんとジュードには伝わったらしい。さすが兄である。

「ジュー、ありがとー」
「ミリィの喜ぶ顔が何よりもの贈り物だよ」

 ジュードが嬉しそうに笑う。

 私に好評だったぬいぐるみは、家族のみんなにも好評だった。こんな可愛いぬいぐるみが私の好みならば、あの人形が気に入らなかったのも分かるのだろう。ママも同じものを作ってもらう約束をしていた。

 そして一時期、常に私が猫のぬいぐるみを持って歩く姿は、その様子が可愛すぎると屋敷内で評判となった。

 またこれは私の知らないことであったが、このぬいぐるみはダルディエ公爵家の持つレックス商会で販売されることとなり、小さい子供を持つ親や少女、大人の女性からも、爆発的な人気を博すのであった。

 最初は貴族向けの高級素材がメインだったが、平民向けにも単価の低い素材を使ったものを販売し、貴族向けのものより安くとも可愛さはそのままのぬいぐるみは、大人気だった。

 それからジュードは猫のぬいぐるみ以外の種類へ手を広げる。シオンとジュードが私のつたない意見を聞きながら開発しては修正を加え、くま、うさぎ、いぬのぬいぐるみが出来上がった。もちろんデフォルメされて可愛さが増しているものばかりで、私の部屋のソファーにはぬいぐるみ達が可愛らしく座っていた。

 ダルディエ領で人気となったぬいぐるみを、今度は帝都で販売開始し、その後順調に売れていった。
 ジュードの指揮でレックス商会にて新設されたぬいぐるみ部門は、種類が増えたことでさらに大成功を治めるのだが、それを私が知るのはもう少し先の話である。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。