七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 28話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 28話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」28話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 28話

(何かおかしくない?)

 私がパパと騎士団へ向かうとなり、ママにより私はパパの胸の前に布で括りつけられた。
 現世でいう抱っこ紐みたいなイメージだが、私自身はパパの胸と私の背中が重なり合っている。前世では母親の胸と赤ん坊の胸が重なり合うように抱っこされている子をよく見ていたから、どこか違和感を感じるが、景色が良く見えるよう配慮しているのかもしれない。

 とはいえ、何がおかしいかというと、パパの騎士服と抱っこ紐が似合わないことである。ましてパパは強面であるし、ビジュアル的にすごくちぐはぐ感は拭えないが、騎士団へ見学に行けるワクワク感から、そんな感情は横へ追いやる。

 ママとパパが何か話しているが、私は馬が気になった。

(すごく見られている)

 赤ん坊が珍しいのか、前向いていればいいのに、わざわざ頭ごと横を向いて私から視線を外さない。

(そんなに見られると、視線外したら負けな気がする)

 謎の対抗心から馬から視線を外せずにいると、パパが動きだし、娘ごと馬にまたがった。ガンつけあいは引き分けである。

(高っ!)

 馬上は予想以上に高くて、ドキドキする。私が馬上で揺れから前後に動かないようにするためか、私の尻の下に袋状のものが固定された。

「ジル、ミリディアナちゃん、行ってらっしゃい」

 ママに見送られながら、パパが馬を走らせた。馬にとっては歩くくらいの速さで怖くない。風が気持ちよくて、楽しい。

「ミリディアナ、怖くないか?」
「う!」

 きゃあきゃあ喜んでいるからか、パパはもう少しスピードを上げたが、固定されて安心感があるから、そのスピードが心地いい。

(楽しい! これは癖になるかも!)

 馬で十五分くらい走った頃、城壁が見えた。お城だろうかと思っていたら、どうやらそこが北部騎士団のようで、パパはその中に入っていく。

 城壁の中には、騎士がたくさんいた。パパに気づいた騎士は、私たちを見てギョっとした顔をする。見てはいけないものでも見てしまった表情である。

(うんうん、分かるよー。強面パパと抱っこ紐で結ばれた赤ん坊なんて、二度見レベルのものだよね)

 馬がゆるやかに止まると、パパは馬から降りた。

「すまないが、この紐をとってくれないか」
「は!」

 パパに話しかけれれた騎士は、少し動揺気味に私を括り付けている布をほどいていく。布から解放された私を抱っこしなおしたパパは、馬を騎士に任せると城の中へ入っていく。
 離れていく騎士はぽかんとした表情のまま、こちらを見ていた。

 え? という表情の騎士たちの横をすれ違いながら、パパはどんどんと城の中を進み、ある部屋へ入室した。
 部屋の中では、執務机と広めの楕円のテーブルがあり、その楕円テーブルの前にポツンと座った男が、書類から目を離して上を向いた。

「ジル、この東部との合同訓練だが……ん? どうした、その子」
「娘だ。今日は私から離れたがらなくてな。連れてきた」

 パパと同じ位の年だろうか、私を見た途端、目じりが下がって笑顔になる。

「例の末っ子か! おー可愛いな! おじさんのところへおいで!」

 おじさんが両手を広げるが、うん、私のタイプではない。ぷいっとおじさんとは反対側へ顔を向けて嫌だという意思表示をする。
 すると、今度は顔向けた側へ回り込み、また両手を広げてくるので、またその反対へぷいっと顔を向けた。

 くくく、とパパから笑っている振動が伝わってくる。

「おじさんが怖いのだろう」
「何を! 怖いというなら、お前もだろう! いつもビビられているではないか!」

 おじさんたちの言い争いは、部屋に続々と集まる騎士たちに終止符を打たれる。どうやら今から騎士団の上層部の会議らしい。

 赤ん坊がいていいのだろうかと思うが、娘は大人しいからというパパの一言で会議は開始された。
 それでもパパの膝の上にいる赤ん坊が気になる騎士が視線を送ってくるので、私は笑って愛嬌をふりまいておく。もれなく騎士からはデレ顔をいただいた。

 いつの間にか私は居眠りしていたらしい。次に目が覚めると、ちょうど騎士たちが席を立っているところだった。ヨダレが垂れていたが、ご愛敬である。

 一人の騎士が抱っこさせてほしいと、強面パパに進言している。まあまあのイケメンだったので、抱っこされてあげることにした私だったが、イケメン騎士に抱っこされている横でさっきのおじさんが寂しそうな顔をしていたのは、見なかったことにする。

 イケメン抱っこが終わると、パパは私を抱っこして建物の外へ出た。さっきのおじさんも一緒についてきている。

 ちなみに、このおじさんはフィフナン・ル・ビクスという名前らしい。ビクス伯爵で、パパの幼なじみ、そして北部騎士団副団長とのことだ。どうしても私を抱っこしたいようで、自ら自己紹介を始めたが、そんなに必死に訴えられるとかえって怖い。たぶん、怪しい者じゃないよということをいいたいようなのだが、赤ん坊にそんな説明したって、普通は分かりっこない。

 しゅんとしたビクス伯爵に罪悪感を覚えつつも、パパの向かった先の光景を見ると、そんな気持ちはふっとんだ。
 城の二階はバルコニーのようになっていて、そこから下を除くと騎士たちが剣の訓練をしていたのだ。

(かっこいいー!)

 騎士服の上着を脱いで真剣に剣を振っている様は、乙女ならば間違いなく目がハートになりそうなくらい男らしく惚れずにはいられないだろう。
 ここにいる中で生物学的に女である唯一の存在が、赤ん坊というのが残念だが。

(おっと、あれはもしや)

 もう一人女がいた! と思いきや、美少女と間違えそうな兄ジュードだった。頭一つ背の高い相手と対戦している。

「にーたぁ!」

 指さしが難しくてまだできないので、手を向けながらパパにジュード兄さまがいたことを教える。

「ジュードがいたか。よく見つけたな」

 褒められた。テヘっと笑みを浮かべ、他にも兄がいないか探す。ディアルドとシオンはいるはずなのだ。
 しかしジュード以外は探せない。騎士たちはほぼ同じ服のものばかりなので、探すのは厳しいかもしれない。

「父上」

 トスッという音と共に声がして、パパもろともその声の主を見た。
 そこにいたのはシオンと……馬のように大きい犬?

 ――犬?

 犬でいいのだろうか。尻尾が三つあるし、大きめの犬の倍くらい体がでかいのだが。
 犬に乗っていたシオンが犬から降りて、こちらへ向かってくる。

「なんでミリィがいるの」

 シオンが話しかけるがそれどころではない。
 すごい見てる。犬が私を見てる。

 食われるのではないか、そんな思いが頭をよぎり、耳の後ろに心臓があるかのように心音が大きく聞こえる。ぎゅぎゅっと無意識にパパの服を握りしめた。

 その時、もう一匹の犬が下からバルコニーへ跳んできた。その上にはディアルドが乗っている。というか、犬の跳躍すごいな! ここ城だからか、一階の高さが普通の家の二階くらいあるのに。

 ディアルドも二階へ降り立ったとたん、犬から降りてこちらへ近寄ってくる。

「あれ? ミリィがいる」

 うん、やっぱりディアルドが乗っていた犬も私見てる。なんで? 赤ん坊ってそんなに珍しいんですか?
 なんでしょうかね、敵か味方か判断しているんですかね。もしかしてシオンのように心読めたりするんですかね。

(敵じゃないよ! 人類で最弱な赤ん坊なので、敵認定はやめてください!)

 背中を汗が伝っているのが分かる。やばい、ぶっ倒れそうだ。

「あれ? 固まってる? どうしたミリィ」
「三尾が怖いんじゃない?」

 私を覗き込んでくるシオンとディアルドにハッとし、ぷるぷる震えだした。珍しく涙目になる私に、ディアルドが犬を振り返る。

「少し下がって!」

 三尾と呼ばれた二匹の犬は、逆らうことなく距離を取る。

「ほら、ミリィもう大丈夫! 三尾は怖くないよ」

(くそう、恥ずかしい。絶対泣くもんか!)

 ぐぐぐっと心を落ち着かせると、涙は引っ込み、肌を伝うこともなかった。

(よし、セーフ。泣いてない!)

「ほらおいで」

 ディアルドが両手を広げるので、パパの腕から移る。

「ははは、大丈夫大丈夫。三尾は優しいんだよ。ちょっと大きい狼なだけだから。怖くない怖くない」

 ――は? 狼?

 狼と言われて、三尾とやらをじっと見る。そう言われると狼のような気もするが、狼なんて前世で図鑑やテレビでしか見たことない。

 狼ってそもそも優しいのだろうか。それにちょっと大きい狼というレベルの大きさではないと思う。怖くないと言われれば、シオンやディアルドが上に乗っていたし、そうかもしれないと思いつつ、やっぱり怖いと思う私はおかしいのだろうか。

 相変わらず二匹の三尾は私を見ているので緊張感があるが、どうやら襲ってはこなさそうだ。

「巡回か」
「はい、異常はありません。さっき交代したところです」
「そうか。シオン、三尾にも休憩を」

 パパの言葉に頷いたシオンは、二匹の三尾を連れて去っていった。
 ホッとした私は、どっと疲れを感じるのだった。

 そしてその日の夜。

「ミリィ、今日泣いたんだって?」

 今日の添い寝担当は双子だった。双子のベッドに双子と私の三人が横になっても、広すぎるベッドには余裕がある。もちろん柵はセッティング済みだ。

(泣いてませんけど!? 涙は落ちなかったもんね!)

 じろっと双子を睨むが、うまく睨めているかは謎だ。

 ディアルドもしくはシオンから騎士団での出来事を聞いたのだろう、でも泣いたなんていうのは間違った情報である。泣きそうになったけれど、泣いていないと訂正したい。

「三尾が怖いなんてね。ちょっと大きい狼なだけなんだから、怖くないって」

 兄たちの三尾に対する感想が『ちょっと大きい狼』で一致しているのは、どういうことなんだろうか。そもそも大きさ関係なく狼ってだけで怖いと思うのだが、ここの常識が謎である。

「三尾に乗ると楽しいんだよ。一人で乗るのはコツいるけど」
「そうそう、俺らもやっと一人で乗せてもらえるようになったんだけど、騎士団行かないと乗せてもらえないんだよな」
「今度こっそり屋敷に連れてこようか!」
「だな! 裏道通れば、誰にも見られないだろうし」

 パパ、お兄様、ここで双子が悪だくみしています。誰にも告げ口できない赤ん坊ですので、聞いていないフリを貫きますが。

「ね、ミリィ。今泣いてみて。俺も泣いてるの見たい」
「俺もー」

 何を言うんだ、この悪ガキたちは。ここは必殺きょとん顔だ。

「あんまり泣かないんだもん、ミリィって。つまんない」
「泣き顔、可愛いと思うんだ。だから泣いて」

 おい、妹に泣けとか、なんという兄だ。確かに私は泣かないと名高いですがね、中身大人だから前世の年より小さい子に向かって泣くなんて、恥ずかしすぎるんですよ。今は赤ん坊だとしても。それに生まれたばかりの頃は泣いていたのだから、泣き顔なんて見たことあるはずである。

「ねー」
「泣いてよ」

 双子が私のぷくぷくほっぺを指でツンツンしだしたが、言っている意味が分かりません、とでも言うように無視を決め込むのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。