七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 26話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 26話

このページでは小説を掲載しています。
七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」26話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 26話

 急に夏が来たようだった。
 初夏と言われても外に出ればまだ寒いと思っていたが、急に暖かくなり、半そでで外に出ると気温がちょうどよく、風が気持ちいい。

 椿がミリディアナとして転生して一年の月日が経った。
 月日が過ぎるのは早いもので、最近では手を引いてもらえば、たどたどしくではあるが歩けるようになった。

 ――ニャア

 侍女に手を引いてもらいながら庭の薔薇園を散歩していると、猫が現れた。

(か、可愛い……)

 椿時代は犬より猫派だったが、転生後もその好みは変わらないようで、その猫のかわいらしさに触りたくなってしまう。
 赤ん坊が珍しいのか、じーと私を見る猫だが、私からは微妙に距離があって触るのは難しい。

「奥様の猫ちゃんですね。外には出さないはずではなかったですか?」
「そのはずだけど。もしかしたら、逃げてきてしまったのかもね。私が奥様に渡してくるわ」

 私の侍女たちのそんな会話を聞きながら、猫まで歩いて少しずつ距離を近づけていたのに、無情にも侍女が猫を抱き上げてしまう。

「う!」
「お嬢様、少し待っていて下さいね、猫を預けてきますから」
「ママーママー」
「……お嬢様も奥様のところへ行きますか?」
「う!」

 侍女たちとの関係も一年経つと、私の難解な言葉も少し理解できるらしく、私も侍女に抱っこされる。
 前を進む侍女の肩から猫の頭が飛び出て、その視線はじっと私から外れない。

(猫ちゃんも私と遊びたいんじゃないかな!?)

 猫を触りたい願望から、そんな都合のよい想像をしながら、ママのところへ向かう。
 ママの部屋の前まで行った時、丁度ママの部屋のドアが開く。

「あら、ミリディアナちゃん」
「ママー」

 ニコニコ顔の娘に柔らかく微笑み、娘の顔を優しく撫でる。

「奥様、猫ちゃんが外に出ておりました」
「まあ、ココ。温室にいないと思ったら、お外に出ていたの? ダメでしょう。ありがとう、連れてきてくれたのね」

 ママの後ろにいたママ付き侍女が猫を受け取る。猫触りたかった、と残念に思いながらママを見る。

「これから温浴しようと思っていたのだけれど、ミリディアナちゃんも一緒に入りましょうか。まだ入ったことないものね」

(温浴? お風呂ですか? 毎日入っているけど……)

 ママの言っている意味が分からない。
 きょとん顔の娘を侍女から受け取って抱き、何やら私の侍女に指示を出すと、ママはそのまま歩き出した。

 屋敷内を進み、いつも私が使わない出入口を出ると、邸宅の外へ出る。そのまま渡り廊下を進み、しばらくするとまた屋内へ入る。そこはいつも住んでいる邸宅とは別棟の建物で、中に入ると少しむわっとする。

 その建物内で降ろされた私は、もしや? と思う。何やら知っている感覚。それは。

(やっぱりかー! 温泉だ!)

 私は服を脱がされ裸になると、同じく裸のママと共に続き部屋への扉を開ける。そこには、前世で大好きだった温泉が広がっていた。ドーム状の天井と広い空間、そしてお湯がはってあるお風呂が数種類。

(うそでしょ、温泉なんて!)

 まさか転生してまで入れるとは思っていなかったから、感動もひとしおである。体を洗い、湯に浸かる。すごく気持ちいい。
 ぱしゃぱしゃと水を叩いて遊んでいる娘を見て、ママの頬も緩んでいる。

「ミリディアナちゃんも温浴が好きなようねぇ。後でお外にも行きましょうね」
(嘘!? まさか露天風呂もあるの!?)

 その「まさか」、私の期待通り、ドームの出入口の反対側の扉を開けると、大きい露天風呂が広がっていた。はしゃぎすぎて「すってんころりん」なんて笑えないので、ママに抱っこしてもらい、露天風呂へ入る。

(あああ……極楽)

 お湯の温度は熱すぎず、また風が緩やかにふき、本当に気持ちがいい。昼間でもこの気持ちよさ、これはいつか夜の満天の星空の中、ぜひとも露天風呂に浸かりたい。そんな夢を抱きつつ、温泉を満喫する私だった。

 今日の私の添い寝担当はディアルドだった。ディアルドの部屋のベッドに横たわった私を、ディアルドは抱きしめながら横になる。

「今日もいい夢を」

 ディアルドは妹のおでこにキスを贈る。

 兄たちの持ち回りで添い寝をしてもらうようになって、早一か月。

 最初の数日後、変化があったのは柵だった。
 私も気づいていなかったが、私自身があまりにも寝相が悪いということが分かった。寝入りは兄とくっ付いて寝ているのに、朝起きたら頭が兄の足元にあったり、下手するとベッドから落ちていた。

 これはまずいと、「兄会議」にて兄たちが話し合った結果、差し込み式の柵を作ってもらうことにしたようだった。ベッドのフレームとマットレスのようなものの間に差し込んで使うタイプの柵だ。もちろん特注である。

 添い寝の兄が変わるたびにベッドが変わるので、簡単に取り外しできるよう作ってあるのだ。
 朝から今日の担当は誰と家令から使用人に指示があり、使用人が寝るころに合わせ、柵も準備してくれる。

 この柵のお陰で、私がベッドから落ちることはなくなった。ベビーベッドの柵とは、やはり重要なのだと改めて思う。

 そして肝心の悪夢。
 やはり悪夢は七日から十日に一度ほど見る。けれど、うなされている妹に気づいた兄たちが、すぐに起こしてくれるお陰で、かなり精神的に楽になった。悪夢を見ても起こしてもらえれば、その後同じ日にまた悪夢を見ることはなく、今のところ添い寝作戦は順調である。

 兄のありがたみを大いに感じる。前世の椿よりかなり年下の兄たちだが、すごく頼りになるのだ。前世では姉と弟がいたが、兄はいたことないので、兄って偉大だな、と思いながら欠伸をする。

 私はディアルドと共に、深い眠りについた。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。