七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 25話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 25話

このページでは小説を掲載しています。
七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」25話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 25話

 呆然と兄たちが近寄ってくるのを見ていた。どうして寝てないのがバレたんだろう? イタズラがバレて逃げ出したい気分のところだが、そもそも柵があって逃げられないし、逃げたら逃げたでその動作で赤ん坊の皮を被った大人だとバレるのではないかと、プチパニックである。ぶわっと冷や汗が服の中で吹き出すが、ここは必殺きょとん顔だ。これしかない。

「ミリィ、どうして寝ないの? いつも夜起きているって本当?」
「アルト、そんなこと聞いても分かるわけないだろう。ミリィ、夜は寝る時間だよ。ねんねしよう?」

 ジュードの美少女顔負けの美しい笑顔が、むしろ怖い。柵を伝い歩きしながら少しジュードから離れる。すでにきょとん顔のことは忘れて、顔面は無になっていた。

「あれ、後ずさった。何で?」
「ほら、ミリィ、ねんねだ、ねんね。夜は寝るんだよ?」

 次はディアルドだ。こっちも笑顔がなんか怖い、と思ったら、兄たちみんな怖い笑顔……、いやそうではない、部屋が暗いのに扉が開いて廊下の明かりが漏れているため、陰影で怖く感じるだけなのだろう。だが、とにかく寝させようとする圧が、どこか気持ちを追い込む。

 目頭が熱くなる。

(いやいやいや、泣くな、大人よ私は! 赤ちゃんになって、泣くまでの沸点が低くなってない!?)

 泣くな泣くな、そう思うほどなぜか盛り上がる涙は、とうとう目から零れ落ちた。

「うぇぇぇ」

 寝ろって言われても寝れない。地下で大冒険中も睡眠ばっちりだし、夜寝たら悪夢エンドレスの可能性もある。寝て悪夢を見ても、誰も起こしてはくれないのに、夜寝ろだなんてひどくないか? もうすでに怖いのか怒っているのか、自分でもよく分からなくなってきた。

「あ、ディアルド兄上泣かした」
「俺なの!?」
「いじめちゃダメだよ」
「いじめてない! ミリィ、ごめんごめん、怒ってるんじゃないんだよ? 兄さまたちはミリィが心配で」
「うぇぇぇぇ」

 傍から見ると、兄たちが柵を囲い、妹をリンチ中のように見えそうだ。
 シオンが柵の中から私を抱き上げた。

「ミリィ、夜寝ないのは理由があるんだろう? 言ってみ?」
「シオン、ミリィには無理だよ」
「うん、だから心の中で言ってみて」

 私はしゃっくりを上げながら、心の中でもそんなこと言えるわけないと思う。そんなことして、変な子だと思われたくない。だが、あまりにもシオンが真剣な顔で言うものだから、少しだけなら言ってみてもいいのかも……と思ってしまった。

(……夜は怖い夢見る。誰も起こしてくれない)

 シオンは一瞬驚いた表情をしたが、すぐに私をぎゅっと抱きしめた。

「なんだ、そうか。だったら俺が一緒に寝てあげる。怖い夢を見たら、起こしてあげる」
「え? 何が何?」
「夜は怖い夢見るから寝ないみたい。怖い夢見ても誰も起こしてくれないって」
「え? ミリィがそう言ったの?」
「うん。やっぱりずっと悪夢見てるんだ。前に夜泣きしたら、強制的に起こそうって話して、侍女たちに指示してただろ? でもそれだけじゃダメだったんだ。ずっと悪夢見てたのに、誰も起こしてくれないから、最終手段で泣いてたんだ。泣くまで怖い夢見続けてたってことだろ?」

 なんだろう、シオンってすごい。ほぼ合ってる。

「だから夜寝ないのか。昼は悪夢みないってことだよね。ミリィ、ごめんね、お兄様なのに分かってあげられてなくて」

 ジュードは痛ましげに私の頭をなでる。

「そういうことのようです、父上。今日から俺ら交代でミリィと添い寝していいですよね?」
「は? 俺がミリィと寝るんだよ、何で兄上たちも……」
「ずるいだろう! 俺もミリィと寝たいんだ!」
「俺も!」
「俺も!」
「ぼくも!」

 いつもは兄に押されて主張のないように見えるエメルまでも手を挙げている。

「……いいだろう。お前たちで決めたのなら、そうしなさい。ただエメルはミリディアナと二人だけはまだ早い。ジュード、三人で寝なさい」
「分かりました。いいよね、エメル?」
「はい」

 今まで高みの見物のように何も口出さなかったパパが了承した。パパは基本兄弟で話し合いさせて物事を決めさせたいのかもしれない。

 まさか兄たちが添い寝してくれることになるとは。それなら、悪夢を見ても、長くはうなされずに起こしてもらえるかもしれない。そうであれば、夜寝てもいい。
 こんなとんとん拍子に方向性が変わるとは思ってなかった。シオンは心の声が読めるから、警戒していたのだが、今回のことで見る目が変わってしまった。すごく頼りになる兄だ。

 シオンはまだブツブツ言っていたが、パパの決定なので、兄たちで添い寝ローテーションは確定だ。ただ初日の今夜は添い寝の提案者ということで、シオンが担当になった。どこで寝るのかというと、シオンの部屋である。ローテーションごとに担当の兄の部屋で寝ることになった。

 寝る直前、ネロがシオンの部屋に現れた。シオンに迷惑そうな目で見られながらも、ヘラっとした顔で笑っている。

「お嬢、添い寝してもらうことになったんだって? 夜中にお嬢に熱烈な目で見られるのは楽しかったけど、成長期中はちゃんと夜寝たほうがいいからさぁ! 俺も泣く泣く夜中の熱視線は諦めて、みんなに言っておいたよ。お兄ちゃんに寝てもらえて、よかったねぇ!」

 お前か、みんなにチクったのは! 早々に犯人が分かったが、添い寝してもらえるようになったのは助かるので、ありがとうと言った方がいいのだろうか。

「何しに来たんだよ」
「お嬢にちょっとした贈り物」

 ネロは小さい緑の宝石を一粒見せる。宝石を持つ指を傾けると、キラっと光る。それをネロは私の左の耳元へ持っていくと、私の耳に小さな痛みが走った。

「何してんだ!」
「心配しなくても、公爵に許可済みだから。ほら綺麗でしょ」

 その緑の宝石はピアスだったようだ。自分では見えないが、ピアスが私の左耳に収まったのだろう。

「お嬢はちょっとやんちゃっぽいからねぇ。お守りだよ」

 そういって私の頭を撫でるとネロは去っていく。

「ったく、何だったんだ。痛くないの、これ」

 痛くはない。びっくりしたけれど。

「じゃあ寝ようか」

 大人三人は寝れる広いベッドに、小さな二人が横たわる。

「うなされてたら起こしてあげるから、寝ろ。お休み」

 乱暴気味な言葉とは裏腹に、シオンは優しく私を抱きしめる。
 昼間寝てるので、寝れるかな? そんな思いは、すぐに消えた。横になってわりとすぐにウトウトしだし、すぐに夢の中。

 その夢は、悪夢とは程遠い、とても楽しい夢だった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。