七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 22話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 22話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」22話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 22話

 誰かに呼ばれた気がした。目が覚めた私は、辺りを見渡す。そこは暗闇で、そういえば壁の穴に落ちたのだったと思いだす。起き上がり地べたに座って体を動かしてみる。どこも痛いところはなさそうだ。

 ――コン。コン。コン。

 何かが落ちてくる音がする。

(なんだろう?)

音がした方向へハイハイで向かうと、何かが手にあたった。私の小さな手でもつかめるソレは、とてもしっくりと手になじむ。

(よく触っているこの感触……積み木?)

 じーと見ても分からないが、間違いなくいつも遊んでいるおもちゃの積み木だ。

(私と一緒に落ちて、どこかに引っかかってたのかな?)

 とにかく、これは持っていこう。服の首部分から積み木を服の中へ入れると、お腹あたりで積み木が止まる。そして再び辺りを見渡す。まだうすぼんやりと影が見えるが、落ちてきた時より影が薄くなっているような気がする。つまり物や壁との境界線が薄まって、見えずらくなっているのだ。

(これはもしかして、今、夜かしら?)

 どのくらいここで寝ていたのか分からないから、今が昼なのか夜なのかがつかめない。ただどこからか漏れていた明かりが、地下へ入らなくなってきているということは、夜に近づいているということだ。

(どうしよう。少しくらい移動してもいいかな?)

 きっと誰かが迎えに来てくれる、そんな自信がなぜかある。だから怖くはないのだが、ずっとここにいたら、さらに真っ暗になって境界線が分からなくなる。それは不安だった。とはいえ、移動したからといって、明るい場所に出られる根拠はない。

(ちょっとくらいなら、まあいいか。赤ん坊の足では、そうそう長い距離を進めるわけでもないし)

 いつまでも悩んでいても問題は解決しない。とりあえず、ゆっくりとハイハイで前へ進む。壁や物の影を確認しながら進むうち、私が落ちてきたところには、斜めの影がいくつかあるのに気づいた。もしかしたら、地上のいろんな部屋に、私が落ちてきたような滑り台のようなものがあるのかもしれない。

 キョロキョロしながら前に進んでいて、本当の前が見えていなかった。頭が壁に当たり、そこにうずくまって悶絶する。

(いたーぁい!)

 頭が壁を頭突きしたと同時に、壁がへこんだような気がしたが、気のせいだ。壁が頭に負けるはずない。それと同時に何かが飛んでいくような音を聞いたような気もしたが、悶絶していたので聞き間違いだろう。

 痛みで涙目になっていたが、やっと痛みが引いてきた。頭にコブが出来ている気がするが、今は気づかないことにする。

 さらに壁があって曲がったり、小さな段差をソロソロと降りたりしながら、どんどんと前に進む。やはり、ここは人の行き来がないようだ。感覚的にだが、ハイハイすると手や足の膝がどんどん汚れていっている気がする。また劣化しているのか、地面の一部が沈んだりする。その度に風を切るような音がするから、もしかしたら地面の下に空洞でもあるのだろうか?

 地面の一部は、押して手を離すと戻ってくるから、何度も押して遊んでいると――

「はいはい、お嬢、元気なようで何より。でもそれ、もう押さないでー」

 ビックリして後ろを向くと、そこに知らない青年が立っていた。手にはロウソクを持ち、明かりで顔が浮き上がって見える。

(……誰?)

 見たことない。知らない。だけど知っているような、そんな不思議な感覚。そんなことを感じながら、また手を動かして地面を押す。

「ちょっ……ちょっと、待ちなってば! 押しちゃだめなんだって、それー」

 また風を切るような音がし、一瞬で少年は私の側へ到達すると、私を抱えあげた。

「まったく、好奇心旺盛だね? これはキケンな仕掛けなんだよ? ほら見て」

 少年がロウソクで辺りを照らすと、槍や矢が壁に刺さっているのが見える。

(え!?)

「お嬢があの仕掛けを押すたび、こういった罠が発動するわけですよー。危険なんだよー」

(な、なんですと!? ということは、今までへこんだ地面は全て罠のスイッチだったってこと!?)

 まさか頭突きしてへこんだ気がする壁も、何かのスイッチだったのだろうか。やけに風を切る音がしていたはずだ。遊び感覚で押していたことに、今更ながらに青くなる。

「ま、無事でよかった。公爵が心配しているよ。地上に戻ろうか」

 そうだった。大冒険はここまでだ。パパやママ、兄たちに会いたい。

「俺はネロ。公爵家の影頭をしてる。よろしくね」

 影頭って何だろう。ネロは地下をどんどんと進む。ロウソクの明かりから、今いたところが廊下のようになっていたのか、と気づく。

「それにしても、お嬢、全然泣かないねぇ。一人であんなところまで進んでいたのもビックリだけど、肝がすわっているよ。お嬢が落ちたあたりを特定したのはいいんだけどさ、そこにいないんだもん。焦ったよー。ま、遠くで矢が飛ぶ音聞いて、そっちにいるんだと思ったと同時に、今死んだ!? って焦ったけど」
(いや、死んだなんて、縁起でもない……。とはいえ、今後は見知らぬスイッチは押さないことを肝に銘じます)

「ほら、ここ。ここがお嬢の部屋からの到達地点だ」

 そこは想像どおり、広めのホールのようになっていた。天井から数本の斜めの線が下りてきており、滑り台のようになっていた。

「ただね、積み木落としたはずなんだけどなぁ、無いんだよね。……ん?」

 私の服の下に何かあると気づいたらしい。取り出したそれは、案の定積み木。

「あはは! そうか、お嬢が拾って持ってたんだねぇ! そりゃそうだ、お嬢のだもん、これ。返しておくね」

 積み木は、また服の中に戻される。まだ笑いながら、ネロはホールを離れた。

「お嬢は面白いな。見ていて飽きない。そうだ、いつも夜中何してるの? 寝てるのかと思いきや、ベッドで動き回っているよね。いつも俺を見つけてくるし」

(……なぜ、夜中起きているって、それを知っているの……見つけてくるって?)

 疑問符がたくさん頭に浮かんだと同時に、ピンときた。夜中に誰かに見られているような感覚。霊的なやつだと、勘違いしていたが。

「お嬢の部屋の天井にさ、いくつか覗き穴があるんだけど、そこからお嬢を見ていたら、いつも的確にこっちを捉えて――って、痛たたた! お嬢痛い!」
(お前か! 犯人は!)

 ネロの左右のほっぺを引っ張る。これくらいしても、バチはあたらんだろう。赤ん坊とはいえ、乙女の部屋を覗いたのだ、ほっぺを引っ張るのくらい、仕返しにしては優しいくらいだ。
 ネロを最初に見た時、知らない人なのに知っているような気がしたのは、こういうことだったのか。

「もう、痛いなぁ、どうしたの急にー。あ、そろそろ地上だよ。すぐに公爵たちに会えるから」

 それを聞いて、一瞬怒った気持ちがどこかに吹っ飛んだ。やっとパパやママ、兄たちに会える。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。