七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 21話 パパ視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 21話 パパ視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」21話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 21話 パパ視点

「もう夕方なのに、まだミリィが見つからない!」

 誰に聞いたのか、騎士団で訓練を受けているはずのディアルドとジュードもミリディアナの捜索に加わり、屋敷中、敷地中を探しているが、いまだ娘は見つかっていなかった。もう日は傾き始めている。夜になると今以上に見つけるのが困難になる。皆の焦りは募るばかりだ。

 現在、公爵の執務室に息子たち全員と家令が集まっていた。それぞれ報告を済ませ、何も進展がないことに皆いら立っている。

「間もなく夜です。いくら何でも見つからないにもほどがあります。使用人の部屋も含め、普段使用していない部屋までも屋敷中くまなく探したのにも関わらずです。ミリィが入りそうな小さな箱も全て探したのに」
「……使用人の部屋に、俺たちが知らない隠し部屋がある可能性はどうでしょう? ミリィを眠らせて箱に隠し、夜になって運び出すこともできます」

 ディアルドとジュードがそれぞれジルに発言する。

「使用人のみが知る隠し部屋はない。それは私たちが知らずとも、影たちが知っているからだ。そういった場所は全て影が探しているが、どこにもいないと報告があった」
「そうですか……。では、外部から侵入の可能性はどうでしょうか。ミリィがあまりにもかわいいから、どこかでそれを聞きつけたヤツらが誘拐専門の奴を雇ってミリィを……ミリィを……」

 ジュードは自分で話しながらそれを想像しているのだろう、最後は怒りで震えている。

「そういった形跡はない。その可能性を含め確認させているが、護衛、警備、影からも不審な点はないと報告があった」
「……そうですか。確かに我が敷地の警備は穴がないと有名です。侵入してくるのは、よっぽど自信のあるやつか、ただのバカか。侵入できたとしても、各所に罠もあるし、痕跡なく実行するのは不可能に近いですよね」
「その通りだ」

 こうやって一つ一つ可能性を潰していくしかない。他にもいくつか意見を交わしていると、アルトが鋭い質問をしてきた。

「隠し部屋というのは、屋敷内にどれくらいあるのですか? 俺はほとんど知らないですが、影たちが専用で使っているところもあると聞きました」
「お前たちにも時期が来たらいくつかは知ることになるが、私が知っているのもそんなに多くない。隠し部屋だけでなく、隠し通路も屋敷中に張り巡らされている。その数は表にある部屋や廊下よりも多いことは間違いない」
「そんなにあるんですか!?」
「屋敷は古いからな。大昔増築を繰り返したこともあり、昔はともかく今は屋敷の人間も知らない通路がたくさんある。今は北部騎士団があるから、ザクラシアとの国境防壁はそちらに任せているが、昔はここがその役目もあったからな。籠城しようと思えば、今でもそれは可能だ」

 ザクラシア王国との関係が良好な今、籠城などといったことは現実的な話ではない。いったんずれた話を戻すように、バルトが声を出した。

「では俺らも知らない隠し部屋か通路に、ミリィがいる可能性もあるということですか?」
「その通りだ。私もそれが一番可能性があると思っている。ただ影には知っている限りを捜索させたが、今のところ見つかっていない。他に知っているとすればネロだが、他の仕事を任せていて、呼び戻し中だがいつ戻ってくるかわからん」

 こればかりはネロでないと分からない。その時ずっと青い顔で口も開かなかったエメルが、控えめに手を上げた。

「あ、あの、ぼく……」
「どうした、エメル」
「シオン兄さまなら、ミリィの居場所わかりませんか?」

 一同の視線がシオンへ向く。しかしシオンは悔しそうな顔をした。

「そう思って、ミリィの部屋からミリィの髪の毛らしきものを使って探してみたけれど、ミリィはまだ話せないから聞き取りは難しかった。それに意識がないとすれば、もっと難しい。何でもいいから話してくれたら……生きているのは分かるのに」

 兄弟の中でシオンだけが異能者だ。普段その能力のせいで、シオン自ら他人と距離を取ろうとすることが多い。今回ばかりはそれが役に立つかも、と思ったのだろう。その当てが外れてシオンの歯がゆい気持ちが表情に現れている。

「そうか。どちらにしても、隠し部屋や通路はネロがいないことには他に案内できるものもおらん。ネロを待つしか――」
「呼んだー?」

 部屋の険しい空気とは真逆の間の抜けた様な声で突如現れたのは、公爵家の影頭であるネロだ。ネロは十六才、十七才ほどの青年に見えるが、こう見えて公爵であるジルより年上なのは間違いない。ジルが小さいころから、この外見のままで、見た目の年齢や姿が変わらない不思議な男だった。

「ネロ! 遅いよ!」
「はいはい、ごめんねー、アルト坊ちゃん。これでも急いで帰ってきたんだからね? 公爵も影使い粗すぎない?」
「緊急事態だ。やむを得ん」
「お嬢がいなくなったんだって? 時間も惜しいだろうし、現状を聞きたいんだけど」

 ネロもこう見えて緊急なのは理解しているようで、すぐに状況把握に努めている。その状況を聞きながら首を傾げた。

「……なるほど。ただお嬢の部屋には、大人の身長より下に仕掛けはないはずだけどな? 俺も知らないやつがあるということか」

 仕掛けとは、隠し部屋や通路に入るための装置だ。仕掛けは多種多様で、一見しただけでは分からようにできている。

「とりあえず、現場を見ないとね。お嬢の部屋に行こうか」

 一同はミリディアナの部屋へ入り、ジル、兄弟たちとネロ以外のものは、部屋の外へ出した。

「お嬢がいなくなったのは、どのあたり?」
「ここだと聞いている」

 ディアルドの示すあたりを、ネロが調べる。壁を叩いたり押したりしながら、ある壁あたりを入念に触りだした。

「……ここがアヤシイね。うーん、こう? こう? それともこうかな?」

 少し壁がずれた。その後その一部を押すと、壁が奥へ引っ込んだ。

「お、当たりー。お嬢はここから落ちた、のかな? ……意外と深そうだねぇ」
「俺にも見せて! ミリィ! ミリィ! 返事をして! ミリィ!」

 ジュードが穴に顔を突っ込んで必死になって叫ぶが、返答はない。いつのまにか壁から離れ、おもちゃ箱から積み木を取ってきたネロは、ジュードを壁から離れさせる。

「はいはい、ジュード坊ちゃん離れてねー。ちょっと深さを確認するから」

 ネロは積み木を壁の穴へ落とした。壁に当たるたびコンコンと積み木が音を鳴らしている。

「……止まったね。これは地下四……いや地下五階あたりかな」
「そ、そんなに!? ミリィは無事なの? そんな下に落ちて!」

 兄弟一同の声を代弁するように、バルトが叫ぶ。

「……なんとも言えないなぁ」
「そんな!」

 バルトの悲鳴をよそに、ジルは険しい顔でネロを見た。

「ネロ。すぐに向かってくれ。地下にも行ったことがあるんだろう?」
「一応はね。いくつか検討つくところがあるから、そこからこの部屋の穴の出口を探ってみる」

 ネロはそう言って、部屋から消えた。

(どうにか無事でいてくれ)

 娘の無事を願うしかない。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。