七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 13話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 13話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」13話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 13話

「ミリィ、こっちへおいでよー」

 妹のハイハイの練習にと、遠くから双子が呼んでいる。
 いつもは喜んで寄っていく妹の私は、今日はエメルに抱きついたまま動こうとしない。だからかエメルは嬉しそうにしているが、呼びかけている双子はつまらなそうだ。

(今日は気乗りしないの)

 気持ちが鬱々として、兄たちと遊んであげる気にならない。それもこれも昨晩の夢見が悪かったせいだった。最近よく見る前世の夢は、いつも最後に殺される結婚式場でのものだった。いつも見るわけではない。間隔としては一週間から十日に一度くらいのペースであるが、その度に恐怖が蘇る。目が覚めると寝る前より疲れていて、気が滅入るのだ。

 とはいえ、いつもならウィタノスに撃たれて死んだら目が覚めるのに、昨日の夢は違った。撃たれて死んで、そして次の瞬間には結婚式入場前に時間だけが戻っており、また殺される。つまりエンドレスなのだ。早く目が覚めて欲しいのに、起きられない。夢だと理解しているのに、自力ではどうしようもなくて、朝になって、いつも以上に疲れていた。

「ミリィ、抱っこしてあげるから、こっちにおいで」

 とうとうディアルドが私の側まで寄ってきて声をかけるが、私はぷいっと顔を背け、ますますエメルにくっつく。ディアルドは諦めたようにため息をついた。

「今日のミリィはご機嫌ななめだな」

 今日は兄たちは休日のようで、昼食の後私の部屋に集まっていた。

「だからって、なんでエメルにばかりくっついてんの?」
「同じ兄さまなんだから、こっちにも来てくれなきゃ」
「まあこんな日もあるさ」

 ムスっとしている双子に、ディアルドは苦笑する。

「俺はこれはこれで可愛くていいなぁ」

 小さな妹と弟の可愛い構図に、一人デレデレのジュードである。

「あーつまんない。何でミリィは機嫌が悪いわけ?」
「たぶん、昨日も夜泣きしたらしいから、それのせいじゃないの」
「確かに、最近の傾向では、夜泣きの次の日は機嫌悪いな」

 双子とディアルドは妹に絡むのを諦めたのか、ソファーに座りテーブルに用意されているクッキーに手を伸ばす。そこではすでにシオンが紅茶とクッキーを楽しんでいたが、逆に立って私へ近づいていく。

「いつもは夜泣きっていっても三十分以内には収まるらしいけど、昨日は夜泣きが一時間以上続いたらしい。そうだよな?」

 シオンは妹に近づいて頭をなでながら、最後は侍女に確認するように声をかける。侍女は一歩前へ出て頷いた。

「はい。昨日はいつもとは違う感じで……なかなか泣き止まれませんでしたが、シオン様があやされたら、ほどなくして泣き止まれて再度眠りにつかれました」
「なんだ、シオンに赤ん坊をあやす才能があったのか」

 関心したように言うディアルドに、一瞬得意そうな顔を向けるシオンだが、再度侍女たちに顔を向ける。

「ということで、お前たちは呼ぶまで外に出ていて」

 シオンの発言に、それぞれ戸惑いの顔を向けあう侍女たちに、ディアルドが手を上げた。

「大丈夫、何かあれば声をかけるから、外に出ていて」

 安心させるように笑うディアルドに、侍女たちは頷き部屋を出ていく。それを確認したディアルドがシオンに問う。

「で? 何かあるのか」
「ミリィのことだよ。昨日の夜泣き」
「うん? シオンがあやしたって話だろう」
「そこじゃなく」

 シオンは妹に顔を向ける。私は相変わらずエメルに抱き着いたままで、片方の指をしゃぶりながらシオンを見ている。

「泣き止ませようとして抱っこしていたら、声が聞こえた。『怖い』って」
「……怖い? それは心の声の話か?」

 なんと。まさか無意識に心の中で呟いていたとは。私の背中にぶわっと汗がふきだす。

「うん。というか寝言に近いものだと思うけど」
「えー、ミリィはまだ言葉しゃべれないじゃん。パパもママも言わないし」
「口でしゃべれないからって、心で何も話さないってわけじゃない」

 アルトの呆れ声に、シオンは淡々と応える。私は無意識にぎゅぎゅっとエメルを掴む手に力をいれた。

「まあ……確かに。じゃあ、ミリィが怖がっているとして、それは怖い夢を見たということか?」
「うん」
「ああ、ミリィ! 何て可哀そうに!」

 ジュードが顔を歪め、エメルごと私を抱きしめた。

「兄さまが夢の中まで助けに行けたらいいのに!」
「助けになるかも、というか、昨日思ったことがあるんだけど」
「何?」
「ミリィが泣き出して、でも寝ながら泣いているもんだからさ、侍女たちが起こさないように寝かしつけようとしているというか。たぶんそれだと、まだ夢の中にいるから、怖いままで泣き続けるんだよ」
「ミリィを泣き止ませてまた寝かしたいわけだからな。でも、それじゃダメというわけか?」
「うん。昨日はいったん大きな声で起こしたら、その後はすぐに寝入ったよ」
「……一度夢から覚まさせる必要があるということか」

 ジュードは妹の頭をそっと撫でた。

「それじゃあミリィを起こしてしまうから可哀そうだけど……怖がっているのに、そのままいさせるほうがもっと可哀そうか。……いったん、その方向にしますか、兄上」
「そうだね。起こすといっても、泣いている時だけだ。毎日の話ではないし」

 どうやら話はまとまったらしい。侍女が呼ばれ、兄から私が夜泣きしたときの対処を指示されている。

 私が心の中で『怖い』と呟いたことに対しては、そこまで大きな話にならず、ほっとする。そっちの方が問題になるのではないかと、ドキドキしていたのだ。それどころか、悪夢を見た時は、早めに起こしてもらえそうなことに、シオンに感謝するばかりである。

 シオンが妹のほっぺたを触っているので、私は感謝の意味を込めてシオンに手を向ける。それが抱っこしての合図だと知っているシオンは、私を抱えた。

「なんだ、やっと機嫌が直ってきたのか?」

 私は返事をするように、シオンの胸にぎゅっと抱きつくのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。