七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 10話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 10話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」10話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 10話

 私はうつ伏せの状態で自室の鏡を見ていた。私が鏡に興味を示すことに気づいた侍女が、いつも鏡の扉を開けた状態にしてくれているのだ。だから、ずりばいで鏡の前までハイハイの練習がてら行ったり来たりするのが最近の日課である。

 鏡を見ながら、自意識過剰ではなく、私は可愛い顔をしているなと思う。また改めて自分の瞳の輝き具合がとても神秘的だと感じる。緑色をベースにしながらも、角度を変えると宝石のように輝く。ただ見え方自体は、椿の時と変わらない気がするので、見た目と見え方のギャップがなんとも不思議だ。

 鏡を見ていたら、先日ショッキングなことに気づいた。頭の後ろの広範囲がハゲているのだ。そういえば、椿の弟の蓮が生まれてからしばらくは、同じようにハゲていたのを思い出す。赤ちゃんは仰向けで寝る期間が長いので、頭部と床やベッドとの摩擦が、頭皮から髪を奪っていくのだろう。

(いつ見ても、まだ頭部がハゲてる。悲しいわ)

 ドヨンとした気持ちで、土下座のような恰好で顔を床についた手に付けていると、侍女が起こしてくれる。

「そろそろお腹空きませんか、お嬢様。お食事にしましょうね」

 ママが部屋にやってきた。食事の準備が整っていく。最近はママだけでなく、兄たちも私の食事時間に間に合えばやってきて、誰が私にご飯をあげるのかスプーンの取り合いが始まるが、今回は誰もいないため侍女がスプーンを口元へ運ぶ。

「さ、お嬢様、最後の一口ですよー。あーん」

 小さい口をめいいっぱい大きく開けると、そこにスプーンが入れられる。離乳食もだいぶ慣れてきて、味を楽しむ余裕も出てきた。

「はい、今日もいっぱい上手に食べれましたね!」

 侍女たちは私の口の周りやこぼしてしまったものの後処理をしている。私には乳母がいない。上の兄たちにはいたようだが、ママはエメルを産んでからは乳母を雇わずに育てることにしたようだった。それというのも、ある程度は侍女が手伝ってくれるし、上の兄たちも大きくなってきて下の子の面倒を見れるようになったからだ。ママは兄弟仲が良かったらしく、私たちにも兄弟仲良くしてほしいと思っているのだろう。

 そんなママは、今私の横でボーっとしている。赤ん坊の私も心配するくらい、反応が薄い。
 これは間違いなく、パパ不足のためだろう、と私は横目でママを見る。ずっとプニプニの娘の二の腕をマッサージしているのだ。心ここにあらずである。

「母上、やはり父の元へお行きになったほうがいいのでは?」

 私の食事の途中で部屋にやってきたディアルドが、ママに声をかける。
 ディアルドの声にハッとしたママは、やっと現実に戻ってきたようだ。パパは十日ほど前に帝都へ向かった。社交シーズンというものが始まるようで、毎年両親で帝都へ向かうのが通例だったらしい。

「まぁ、何をいうの、ディアルド。今年はわたくしは行かないと言ったでしょう」
「ですが、父上に会いたいのでしょう? 昨日も父上の手紙を見て泣いていたではないですか」
「うっ……だって、ジルったら、会いたいなんて手紙に書くから! わたくしだって我慢しているのに、やっぱり手紙を貰ったら声が聞きたくなるでしょう! しくしくしく……」

 あ、泣き出してしまった。うちのママはパパに恋する乙女だ。涙を流す姿が美しすぎて、なんと絵になることか。
 両親は子供が七人もいるのに、いまだにラブラブである。パパはド迫力の強面ながら、ママに激甘、あの低音で耳元で囁かれたらママだけでなく私もイチコロであるし、ママはママで超絶美女ながら、七人も子供を産んだとは思えないほど可憐で乙女な人だ。

「ですから、会いに行かれたらどうです? 父上も待っていると思いますが」
「でも、まだこんなに小さなミリディアナちゃんを置いていくなんて、心配で心配で」
「大丈夫ですよ、今年は俺たちもこっちに残っていますし、侍女だっているし、セバスもいるんですから」

 セバスとは、うちの家令のことだ。うちの場合は、家令と執事はほぼ同義のようである。つまり使用人のトップということだ。最近覚えた。

「去年は帝都で子供ばかりに風邪が流行りましたからね。うちもアルトとバルトが罹りましたし、さすがに今年は小さなミリィを連れて帝都に行くのは憚られますが、俺らも行かない代わりに、ミリィの面倒は俺たちが責任もって見ますから安心してください」
「……まぁ、ディアルド、すっかり頼もしくなって! お母さま、嬉しくて泣いてしまいます」

 初めから泣いていたがな。ディアルドはまだまだ泣き止まないママの背中を苦笑しながら撫でる。

「定期的に近状報告を兼ねて手紙を出しますよ。何かあれば、すぐにお知らせしますから、行ってきてください。父上も今年は二か月程度で切り上げてくると申していましたし、母上もそのくらいであれば、父上と一緒にいて、一緒に帰ってくればいいと思いますよ」
「ディアルド……本当に、本当に行ってもいいかしら?」

 ディアルドは私を抱っこすると、私の手をつかみ、手を振るように左右にゆらした。

「ええ、安心して行ってきてください」

 かくして、次の日にはママは帝都へ旅立った。ジュードに抱かれて、私も玄関でお見送りをする。

「やっと行きましたね。助かりましたよ、兄上。このままでは、母上がいつ壊れるかハラハラするところでした」

 ジュードのホッとした顔に、ディアルドは苦笑いだ。

「もうすでに壊れ気味だった。あれは夜も眠れていない顔だ。母上は父上と離れるのは一週間が限界だな。今回は十日ももったんだ、奇跡だよ」
「確かに……そういえば、父上に連絡したほうがいいのでは? 母上が帝都へ旅立ちましたと」
「もうした」
「え、いつ」
「一昨日。昨日は母上を無理やりにでも納得させて、帝都に送るつもりだったから」
「さっすがー」

(さっすがー)

 心の声がジュードとかぶる。年長者はママをよく見ている。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。