七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 7話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 7話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」7話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 7話

「――椿? 椿?」

 ハッと私の意識が戻る。心配そうにこちらを見ているのは、会社の上司だった。入社以来ずっとお世話になっていて、尊敬できる先輩であり、父のいない私に代わって、結婚式のバージンロードを歩いてくれることになっている。

(あれ? 私、寝てたんじゃなかったの? というか、どうして椿? 椿としての私は死んだはずでは?)

 夜になり、眠気最高潮のミリディアナを侍女がベビーベッドに運んでくれたところまでは覚えている。

(ということは、これは夢? だけど妙にリアル……それとも、ミリディアナだったのが夢だったの?)

 混乱する頭で周囲の状況を把握する。
 私はウエディングドレス姿、上司はタキシードを着ている。周りには結婚式場のスタッフ。どうやら、バージンロードを歩く前の待機場のようだった。

「おーい、戻ってこい。緊張しているのは分かるが、俺も緊張しているんだからな? まさか自分の娘と歩くより前に、俺がバージンロードを歩くことになるとは思ってなかった」

 見覚えのある光景。上司は額の汗をしきりにハンカチでふいている。娘はまだ小学生であり、私とのバージンロードは完全に想定外だったはずだから、ありがたい気持ちでいっぱいだった。

「すみません、緊張で一瞬ぼーっとなってました。もう大丈夫です」
「ならいいが」

(そう、これは現実。幸せの絶頂の時、起こりもしない不安を想像して悪夢を見てしまっただけ。マリッジブルーってやつなのよ。実際は何も起きやしないわ)

 新婦入場。バージンロードを歩くのは、これで二回目。

(いやいや、あれは夢。だからまだこれは一回目)

 笑みを浮かべる春貴の横に立つ。そして挙式は進む。誓約、指輪交換、誓いのキス。そして結婚証明書にサイン。

(そう、次はサイン。サインよ。大丈夫。扉なんて開かない。ウィタノスなんて来ない!)

 ああ、無情。
 それでも扉は開かれる。

「二九年ぶりね、カルフィノス。結婚おめでとう」

 嫌だ嫌だ嫌だ! あれは夢だったのではないのか。こんなのって、ない。また殺される。
 ウィタノスが何か話しているが、椿の耳にはもう入ってこなかった。後ろを向いて駆け出す。

 ドンッ

 じわりじわりと赤い染みが純白のウェディングドレスを汚していく。

 ――痛い

 崩れ行く身体が地面に落ち、その瞳はもう何も映していなかった。

 ……はっ

 私は目が覚める。冷や汗で衣服はびっしょりだった。
 涙が続々と溢れ、火が付いたように泣き出す。

 怖かった。痛かった。でもあれは夢。こちらが現実?

「お嬢様! 目が覚めてしまいましたか」

 侍女の一人が部屋へ入ってきて、ベビーベッドから私を抱き起こす。

「大丈夫ですよ、怖い夢でも見ましたか? もう心配いりませんよ」

 あやす侍女に安心しながらも、不安が消えずに私はしばらく泣き続けるのであった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。